烏の首に喰らいつく猫は、子鴨が親の群れに追いついたのを確認すると、口先の力を緩めて、牙を抜く。


猫の意思は、どこにあったのか。

だれも判断することはできない。

しかし一つだけ言える事がある。



この場で深く傷ついたものはいない。



烏は予期せぬ形で猫に噛みつかれた。

しかし猫の牙が抜かれると、川の水面に一度は落ちて、軽く跳ね上がって飛んで行った。

烏は何かを怖れるかのように、ふり向くこともなく、その場を去った。


烏の首に噛みついた猫は、パシャっと水面に波紋を広げて、何ごとかつぶやくように空を見上げた。

そして、「ミャー」と鳴き声をあげて、いつものように軽く欠伸をする。

猫が見つめる小川の先には、何ごともなかったかのように鴨の群れが泳いでいる。

どのような気持ちで、この光景を眺めているのか分からない。

それでも少しの間、水面につかり、穏やかな風景を眺めている。

静かに猫は、眺めている。