その日の授業を終えて、少年は真っ直ぐ帰宅した。
ミルクを入れるプレートを手にして、猫と出会った場所へ急いだ。
当然のようだが、すぐには猫を見つけられない。
とりあえず少年は公園を歩きながら猫を探した。
なかなか猫が見つからず、少年は寄り道をした。
そこで小川のせせらぎが耳に入る。
そうすると自然と小川へ足が向かう。
静かに流れる川の水は透き通っている。
その川の底が綺麗に映る。
この季節の水は、まだ冷たい。
少年が川に沿って歩いていると、少し先に鳥の群れが目に入った。
その群れは鴨の親子だった。
親鴨が七羽の子鴨を連れて泳いでいた。
それを微笑ましく眺めていたら、少しだけ愛しさが込み上げてくる。
手にしたパンを鴨の親子に渡しても良いような気がする。
猫が見当たらないのだから、それも良いと思えた。
少年は考えを少し変えて、千切ったパンを鴨の群れに向けて投げた。
それは鴨の群れの少し手前に落ちた。
まずは親鴨が近づき、くちばしでつっつく。
親鴨を追い掛けて子鴨も近づく。
パンを投げ入れるごとに、少年は笑みを浮かべる。
そこでは親鴨が、口うつしをするかのように子鴨へ渡す。
少年は鴨の親子が寄って来るのを目にしながら、少し先の丘に猫がいるのを見つけた。
少年は喜び、猫に近づいた。
その時、猫はおびえて、少し離れた。
それに気づいた少年は、カバンからプレートを出してミルクを入れた。
(おびえなくて良いから、ミルクを飲みに追いで!)
少年は胸のうちでつぶやきながら、猫を遠めに眺めていた。
それでも猫は近づかなかった。
かなり警戒しているのかもしれない。
そのように感じた少年は、少しだけ下がった。
(怖がることはないから、ミルクを飲みに追いで!)
胸のうちでつぶやきながら、やさしく少年は猫を見つめた。
それは誰かにいたわってほしい、少年の気持ちに似かよっていた。
そうすると猫は少しだけ和らいだ。
ミルクに入ったプレートに近づきながら、少年のことも見つめていた。
まもなく警戒をほどいた猫は、プレートのミルクを舐め始めた。
猫は舌を出して、ミルクを舐めた。
ペロペロと美味しそうにミルクを舐めていた。
それを見つめる少年は満面の笑みを浮かべた。
鴨の親子に投げ入れたパンも、まだ僅かに残っていた。
そのパンをミルクにつけて猫へ近づけると、匂いを嗅ぐように鼻をすり寄せた。
とくに危険を感じることもないので、ミルクに浸したパン切れを猫は美味しそうに口にした。
ささやかな一時だが、少年は幸せを味わっていた。
学校では味わえない、幸せを存分に味わっていた。
猫はミルクを飲み終えると、お礼をするかのように首を下げて、その場を静かに去っていった。
向こうにあるのは児童会館。
その脇に猫の隠れ家があるのかもしれない。
少年は猫の姿が見えなくなるまで見送った。