そのような恥ずかしい思いをしながら、せめてもの救いは給食の時間に嫌がらせを受けないことである。

席順の通りにグループとなり、そこでは時として隣の人や向かいの人と話すことができる。

そこでの出来事は、お互いの好き嫌いを語り合うなど、たわいもないやり取りである。

その時、少年は猫のことを思い出す。

飼い主に連れられた犬よりも、何にもつながれていない猫が、少年の傷痕を癒してくれる。

通学途中で目にした猫が、少年の傷めた心を舐めてくれるような幻想を抱く。

そのような映像が、たくましい少年の想像力により、思いも掛けず給食の時間におとずれた。

そうすると少年は、温かい心が胸の奥から膨らむのを感じた。


(猫はお腹を空かしているかもしれない)


向かいの女の子は牛乳を飲まない。

となりの男の子はパンを食べない。

それは、いつものことである。

しかし少年は言い出せなかった。


「パンと牛乳を残すなら、もらっても良い?」


その一言が口にできなかった。

それでも少年は猫のことを思う。

リードにつながれていない猫のことを思う。

そう考えるとパンを食べる気にはなれなかった。

猫のことを思うと牛乳を飲む気にはなれなかった。

少年はパンとミルクをカバンに入れて、残りの給食をすべて食べた。

食べ終えた後に、猫の姿が頭に浮かんできた。

少年が渡すパンとミルクを美味しそうに口にする猫の姿が浮かんできた。


(このミルクを猫に飲ますには、皿に入れる方が良い)


少年は猫のことを思いながら、そんな考えにふけっていた。

そんなことを考えていると残りの授業は、あっと言う間に過ぎ去った。

いつしか少年は、朝に出会った猫と心がつながれているような気持ちになっていた。