ご遺族側の弁護士さんの論調はとにかくこっちが正しいのだから当事者は謝罪して劇団は支払うもの支払えば解決だ

 

という風に受け止めてしまいます

パワハラパワハラと口に出しながらその高圧的な態度がパワハラそのものに感じてしまう人も少なくないでしょう

弁護士さんを擁護する人は

裁判になったら現役のジェンヌ達が証言台に立たなくてはいけない

渦中にある(とされている)ジェンヌは住所氏名を公表しなくてはいけない、実家のご商売も明かさなくてはいけない

悪いことをしたのだから謝るのは人間として当たり前だ、それが出来ないのは非常識だ

なんともまあ喧しい

その論理から行くと性被害を告発した人は名前と住所が全て記録に残されることになりますよね

芸能人はその本名と住所を記載されたことになりますよね

 

例えば新井浩文(本名・朴慶培=パク・キョンベ)被告が東京高裁でおこなわれた裁判で新井被告の本名は明かされましたが被害女性は最後までAさんという表現でしたよね

新井浩文(本名・朴慶培=パク・キョンベ)被告の本名が明かされたのは実刑判決を受けてから途中までは個人情報は明かされていなかったと思いますよ

裁判所も鬼が運営しているわけではないですからカーテンの向こう側だったり仮名のままだったりという配慮をしていると思うのですが

ましてや親が経営している店舗の所在地や名前などいちいち公表する必要があるとは思えないのですが

こうしてみると擁護している人も恫喝するの大好きみたいですよね

労基が何度も入ったのは前代未聞だとか書いている擁護者もいましたね

大相撲協会なんて今までに何度是正勧告受けたか忘れてしまうくらい調査入っていますよ

 

裁判で明らかにされるのは司法解剖の記録

血液中の各種成分濃度やら胃の中の残留物とかつまびらかになりますよね

穿った見方をしてしまうとそれを公表したくない人がいるのかもしれない

 

双方準備が整い次第裁判所で顔を合わせることになるのでしょうね

 

 

 

 

弁護士法人大江橋法律事務所宝塚歌劇団調査チーム
調査報告書(概要版)※

第1    本件調査の目的及び調査方法
本件調査の目的
    令和5年9月30日に宝塚歌劇団(「劇団」)宙組所属の劇団員の死亡(亡くなられた劇団員を「故人」という。)が確認された出来事(「本件事案」)に関する事実関係及び原因を、劇団外部の独立した立場から、宙組所属の劇団員及び劇団関係者へのヒアリングを実施することにより調査すること。
    調査の過程において、劇団の運営に関する問題点があれば広く指摘し、再発防止や劇団運営の改善に向けた提言をすること。

調査方法
調査担当弁護士
本件調査の担当弁護士は、弁護士法人大江橋法律事務所所属の以下の9名である。 弁護士北野知広、同末永久美子、同岡田さなゑ、同小寺美帆、同菰口高志ほか4名

ヒアリングの実施
宙組所属劇団員(62名)、元劇団員(1名)、劇団役職員(理事長含む) 7名、阪急電鉄株式会社役職員(4名)、故人ご遺族及び同代理人
※劇団員のヒアリングは一人あたり最短35分、最長6時間9分(複数回のヒアリングの合計時間)で、多数の者は概ね1時間から2時間程度であった。

ヒアリング以外の調査方法
当職らが必要と判断し、劇団から提供を受けた資料及び情報
ご遺族から提供を受けた資料
劇団役職員(3名)のメールデータ、ファイルデータの閲覧・保全

本件調査の前提
劇団が保有していない情報・資料等の収集には限界があり、新たな証拠資料等によっては、本報告書で確認できたとする事実を訂正する可能性があること。
劇団外の出来事については情報収集がほぼできておらず、また、上記により得られた情報だけでは、事実確認ができなかった事項も存在すること。

第2    背景となる事実
本件事案に至る主な背景事情別紙1のとおり。


※  この謂査裁告書(慨要版)には故人の医療記録に閉する内容や看護郎のヒアリング結果等が記載されているため、調奇毅告蕃(概要版)の公表節Ill/についても、故人やこ遺族のプライバシーに
配應し、ご遺族と協議していただき支すよう申し添え妥す。
ヘアアイロンの件
故人は、令和3年8月14日(シャーロック・ホームズ公演の宝塚大劇場公演を終え、東京宝塚劇場公演を控えた稽古期間中)、ロッカー室で宙組劇団員Aから髪型の指導を受けていたところ、Aが故人の前髪をヘアアイロンで巻こうとした際、故人の額にヘアアイロンが当たり、故人が額に火傷を負った(「ヘアアイロンの件」)。
同日、故人は劇団診療所に行き、ヘアアイロンで火傷をしたとして塗薬を塗ってもらった。劇団診療所の看護師によると、当時故人の火傷を見たが痕には残らない程度の火傷と思われた、ヘアアイロンで火傷をすることは劇団内では日常的にあることであり、記録は残していないとのことであった。
翌日に撮影された写真からは、故人の額に小指の第一関節から先程度の長さの茶色の傷ができていることが確認できる。故人は傷跡が残るか心配していたが、幸いにも痕は残らなかった。
ヘアアイロンの件を目撃した他の劇団員はいなかった。
故人がその翌日(同年8月15日)、母親に対して送信したLINEの記載内容からは、故人は、Aが故意にヘアアイロンを当てたと確信していたわけではなかったが、故意に当てたのではないかと疑っていたことが認められる。
    しかし、この時、故人から宙組プロデューサー等の劇団側に対し、ヘアアイロンの件に関する申し出がされることはなかった。

Aとの関係性
宙組劇団員へのヒアリングにおいては、故人がAからいじめられていたとする供述はなかった。
故人がAを苦手にしていて、なるべく接触しないようにしていたとする供述が比較的多くあった。
    ご遺族は、Aが故人をいじめていたと認識している。その理由の一つとして、シャーロック・ホームズ公演の新人公演(令和3年7月20日実施)の髪飾りの修正を新人公演の直前に言われたことを挙げる。同月7日から30日の故人とAのLINEでのやり取りが確認できており、故人がAに新人公演で演じる役の演技について質問をしているのに対し、Aは、自身が演技中や稽古中に気を付けていることや実践している練習方法等を丁寧に回答していた。また、新人公演の髪飾りやかつらについても、Aは、故人から送られてくる髪飾りの写真を確認し、写真に書き込みを入れるなどしながら、頭が大きく見えないか等、新人公演で故人がより良く見えるようアドバイスを行っている。さらに、 Aは、新人公演前日には、「大丈夫よ」「できる範囲で」「つかれてるだろうから」「休んで」といったように、故人を気遣う言葉をかけている。
2    確かにAは新人公演の直前の期間に髪飾りのアドバイスを行っているが、宙組劇団員によれば、髪飾りやかつらの最終的な調整は公演直前になることが通常であったとのことであるから、Aの上記行動がいじめ目的であったとは言い難い。また、当時はA自身が新人公演の長の期として業務負担も相当重い中、新人公演の本番直前に故人へのアドバイスをしていることを考慮すると、Aが故人をいじめていたとは認定できない。
プロミセス、プロミセスの休演と復帰
故人はシャーロック・ホームズ公演の東京宝塚劇場公演終了(令和3年9月26日千秋楽)直後、当時の宙組プロデューサーに申し出て、次の宙組公演「プロミセス、プロミセス」(稽古開始日同年10月2日)を休演した。故人が申し出た休演理由は、-
劇団診療所の当時の診療録には、



一    ご遺族は、プロミセス、プロミセス公演の休演理由をAとの人間関係であると述べている。宙組劇団員へのヒアリングでは、故人が当時Aではない他の劇団員との関係で悩んでいたとする供述と、故人がAとの関係に悩んでいたとする供述があったが、前宙組プロデューサーは、故人から、当時、A以外の宙組劇団員との人間関係に悩んでいると聞いており、引継ぎを受けた現宙組プロデューサーのメモにもその旨が記載されていた。当時の診療所記録には、
._これらの
と、故人の休演理由がAとの人間関係の悩みであったと認めることはできない。



その後、故人は同年12月16日からの宙組大劇場公演「『NEVER SAY GOODBYE』­ある愛の軌跡一」の稽古には初日から参加して復帰した。

故人に関する文春報道
ヘアアイロンの件が発生してから1年半ほど経過した令和5年1月30日の12時2分ころ、週刊文春編集部記者から劇団に対し、ヘアアイロンの件について、「宙組のAさんが下級生の故人の額にヘアアイロンを押し付けた、と関係者から伺っております。事実ですか。」などの質問が記載された「事実関係ご確認のお願い」と題する書面がFAXで送付された。同書面においては、その他の質問も含め、翌日正午までに回答するよう求められていた。
劇団においては、宙組プロデューサーにて故人及びAから別々にヒアリングをすること
とした。宙組プロデューサーの当時のヒアリング報告メモ(「報告メモ」)によれば、両人とも、Aが故人に髪型セットのアドバイスをしていた際、額にアイロンが当たってしまい、すぐ離したものの少しやけどをしたことはあったが故意ではない旨を答えたと記載されている。
3劇団は、劇団診療所にも確認したが、故人が受傷当時に受診した記録は残っておらず、また、ヘアアイロンによる火傷はよくあることで、逐ー記録は行わない旨の報告を受けた。また、宙組プロデューサーの報告メモにも、他の宙組劇団員に対するヒアリングに
おいて、劇団員がヘアアイロンによっで怪我をすることはよくあることである旨の回答があったことが記載されている。
劇団は、以上の調査結果に基づき、Aがヘアアイロンによって故人に火傷を負わせてし
まったことは事実であると認識した。一方で、Aがヘアアイロンを「押し付けた」という事実がなかったことから、同月31日11時50分頃、週刊文春編集部記者に対し、「事実関係ご確認のお願い」と題する書面に記載された内容は「事実無根」である旨を、 FAXで回答した。
週刊文春は、同年2月1日、電子版でヘアアイロンの件の記事を掲載した。
    その後、劇団内において、週刊文春に対し抗議を行うことが検討され、そのためにさらに詳細な事実確認を行うこととなり、雪組プロデューサーにおいて、故人の妹である劇団員に対して、追加ヒアリングを実施することとなった。同プロデューサーは、同劇団員にヒアリングを実施したこと、同劇団員は、故人がヘアアイロンの件の当時、Aから教えてもらっていてヘアアイロンで火傷をしたことを聞いていたがそれ以上のことは聞いていないと回答をしたことを劇団に報告した。
宙組プロデューサーは、同日夕方、Aと故人に対し、それぞれ週刊文春に記事が出たこ
とについてのフォローの電話をいれた。いずれも、供述内容に変化はなく、また、故人との電話の際、故人が母親と一緒にいたため、母親からも事情を聞き取った。宙組プロデューサーの報告メモには、母親が、やけどをしたのは事実であるが記事のように故意にヘアアイロンを押し当てられたとか、親族が激怒したとか、ありもしないことを書かれるのは非常に心外であるし、娘もかわいそうに思う、またAも事実と全く違うことを書かれてショックだと思うし、心配であると述べた、と記載されている。
    宙組プロデューサーは、ヘアアイロンの件が発生した日時や場所を特定するため、翌2日にも故人にヒアリングを行った。同プロデューサーは、別の劇団員への聞き取りも行い、ヘアアイロンが故人の額に当たったのは不注意によるものと故人から聞いているとの回答があった旨が、報告メモに記載されている。
    他方、ご遺族は、故人と一緒にいるときに宙組プロデューサーから故人に雷話があり、ヘアアイロンの件についてヒアリングを受けたことがあるが、このとき故人はAが故意にヘアアイロンを当てたと宙組プロデューサーに伝え、ご遺族自身も宙組プロデューサ ーからAは故意だったと思うかと聞かれて、本人(A)に聞いてくださいと答えたと述べており、宙組プロデューサーの報告メモとご遺族の供述との間に食い違いが見られる。
宙組プロデューサーによる故人やご遺族への当時の聞き取りの状況について録音は存在せず、その他客観的な証拠もないということであり、本件調査においてどちらが事実であるかを判断することは困難である。
4当職らは、劇団における調査の経過を検証するため、劇団理事長、制作部長及び宙組プロデューサーのパソコンのデータ(当時のメール、officeファイル、PDF等)について閲覧・保全した。故人や故人の母親から聞き取りを行った宙組プロデューサーにおいて報告メモを作成し、その後にも追記・改訂した際の報告メモデータファイルが複数発見されたが、いずれのバージョンにおいても、Aが故意でヘアアイロンを当てたと故人が考えている旨の記載はなかった。宙組プロデューサーが行った当初のヒアリング結果をもとに、ヒアリングから約2時間30分経過後に週刊文春への回答案が作成され、その後
劇団内で回答案を最終化する過程において、ヘアアイロンの件の当事者らの供述を、劇団に都合の良いように変遷させた動きは認められなかった。
    宙組プロデューサーは、同年1月30日に故人に聞き取りを実施した際、ノートに手書きメモを残していた。当該手書きメモには、故人からAがヘアアイロンを押し当てたとか Aが故意であったとする記述は見当たらなかった。
    以上のとおりであり、劇団内部で故人のヒアリング結果を隠ぺいした形跡や、改変した形跡は見当たらなかった。

令和5年2月4日頃に行われた宙組内での話し合い
話し合い開催までの経緯等
週刊文春にヘアアイロンの件に関する記事が掲載された当時、宙組に関しては、別の事柄についても週刊文春における報道があり、宙組劇団員が落ち着いて稽古ができない状況であったため、演出家の提案により、当時の宙組組長(「前組長」)は、宙組劇団員だけで話し合う機会を設けることにした。
前組長など、当時の宙組幹部の供述によると、当該話し合いを実施する前に、週刊文春の記事になっていたA及び故人、さらにヘアアイロンの件とは異なる別の事柄について週刊文春の記事になっていた別の上級生に対し、事実関係、話し合いを開催することの是非及び話し合いにおいて発言を希望するかを個別に慎重に確認した上で開催したとのことであった。すなわち、前組長らが個別に(別々に)確認したところ、A及び別の上級生は話し合いにおいて自分の気持ちを話したいと言い、故人は、Aがいじめでヘアアイロンを当てたとは思っていないがAがどのように思っていたかはわからないと説明した上で、ヘアアイロンの件について話し合いの場で話したくないと言った、そのため前組長らは故人に対し、Aと別の上級生は自分の気持ちを説明するが、故人は話したくないなら話さなくて良いから話し合いを行ってもいいかと確認し、故人の了承を得た、記事の情報源が誰かという話には触れていない、とのことであった。また、前組長らはAに対して故人が話し合いの場で話したくないと言っている旨を説明し、これを受けてAはヘアアイロンの件については自分も言及しない方針とした(Aはヘアアイロンの件以外の別の事柄についても記事になっていたため、そちらの件のみについて話すこととした。)とのことであった。
    これに対し、ご遺族は、令和5年2月3日正午に、幹部4名が劇団の第3会議室に故人を呼び出し、Aがヘアアイロンを故意に当てたのではないという言質を取ろうとして繰り返し問い詰めた、故人は自分に関することはもう触れてほしくないと述べたが、上記幹部は話し合いの場でAにのみ弁明の機会を与え、宙組内で故人を孤立させようとしたと、全く異なる認識を示している。どちらが正しいかは、客観的な証拠がないため軽々に判断することは避けるべきであると思料するが、前組長らの説明は全体的に矛盾がな
5<具体的であること、故人が宙組プロデューサーに率直に自分の気持ちを述べていたというのであれば、故人が幹部4名から問い詰められたとしても宙組プロデューサーに被害を訴えることはできたと考えられ、また幹部4名が故人を間い詰めてその意に反して話し合いの場を設ける必要性は特段見当たらないことは指摘できるものと考える。
全体の話し合い
上記経緯により、同月4日18時頃、宙組劇団員による話し合いが開かれた。
話し合いでは、Aと別の上級生がそれぞれ発言した。故人は、かねてからの本人の希望通り、何も発言をしなかった。
    宙組劇団員へのヒアリングでは、同日における話し合いの場において、Aがヘアアイロンの件について発言をしたのか、どのような発言をしたのかについて一致した供述は得られず、ヘアアイロンの件について触れなかった、週刊文春の記事は事実ではないとの発言を行った等の様々な供述があった。仮にAがヘアアイロンの件には触れずに単に「記事が事実ではない」との発言をしたとすれば、「記事」の中にはヘアアイロンの件に関する記事も含まれているので、Aの本来の意図(別の事柄に関する記事は事実無根であるという趣旨)とは異なり、Aがヘアアイロンの件についても事実無根と述べたように受け取られた可能性があるように思われる。
下級生に対するヒアリングでは、当該話し合いの場でAのみが発言し、故人が発言しなかったことを、上級生がAのみを擁護し、故人は発言を「許されず」、その意思が無視されたと感じ、この件を機に下級生と上級生との溝が生まれた、あるいは増大した旨を述べる者も多かった。
    仮に、前組長ら当時の幹部が慎重に故人の意思を事前に確認して話し合いを実施したという麟を下級生も知ったうえで話し合いの場に臨んでいたとすれば、下級生が故人の沈黙について受けた印象は全く違ったものになっていたと考えられる。

全体での話し合い後の経過等
全体での話し合いの後、上級生と研8(劇団員は研究科生と呼ばれ、例えば入団1年目は研究科1年目となり、「研1」と呼んでいる。)以下の下級生に分かれて協議をした。
下級生は、全体会を行っていた1番教室を出て、隣にあるバレエ教室に向かった。故人は教室を移動中(あるいは全体会の途中で教室を出たとき、と供述する者もいた)、廊下で過呼吸のような症状を起こしたため、他の下級生が故人を介抱していた。このとき上級生が水を購入するため、1番教室を出て自動販売機のあるリフレッシュコーナーに行き、また1番教室に戻っていった。
    宙組劇団員のヒアリングにおいては、一部の宙組劇団員から、この時、当該上級生が、何であなたが泣いているのという趣旨の発言をし、それによって故人が傷ついたと聞いたとの供述があった。当該供述は自ら直接当該発言を聞いたのか、誰かから聞いたものなのかが判然とせず、客観的な証拠もないため、当該発言があったかどうか判断することはできない。もっとも、リフレッシュコーナーは、バレエ教室と1番教室を挟んで反対側にあることなどから、少なくとも、週刊文春で報道されているような、過呼吸になり一人で泣き崩れている故人の傍を通りかかった上級生が、故人に顔を至近距離まで近づけて当該発言を行ったという事実関係は、認められない。

週刊文春報道に関する故人への影響及びその後の故人の体調
6故人は、令和5年2月6日、宙組プロデューサーに対し稽古を休みたい旨を連絡するなど(その後、やはり稽古には出席すると言って出席。)、週刊文春報道による故人への
影響は大きかったと考えられる。
劇団診療所の同月27日の診療録においては、故人が、週刊誌報道のあと、記事の事より も対象の相手と一緒にいることで、いろいろな問題があり、とてもしんどかったが、少し時間が経過したので何とか慣れてきていると話したとの記録がある。看護師によると、故人は記事に載ったこと自体より、記事が出たのちAとどのように接してよいかわからないことが辛かったようだということであった。
    宙組劇団員へのヒアリングにおいては、報道されたこと自体で故人が傷ついていたという供述、故人がリークしたのではないかと疑われることに悩んでいたという供述、故人が週刊誌にリークしたと疑う劇団あるいは宙組劇団員の発言があり悩んでいると聞いたという供述があった。しかし、これらの供述は少数にとどまり、他の劇団員が故人に対しそのような発言をしたことを直接聞いたと供述した者はおらず、劇団や宙組劇団員が故人に対して故人が週刊文春にリークしたと疑う発言をしたことは認定できなかった。故人が週刊誌にリークしたのは自分であると周囲の劇団員から疑われているのではないかと心配し、悩んでいた可能性は否定できない。







第3    本件事案が発生した直前期の事実関係
直前期の事実関係
    本件事案が発生した直前期(令和5年8月16日から同年9月29日)の主な事実関係は別紙2のとおりである。

過密なスケジュール
    宙組におけるPAGAD公演に向けた令和5年8月15日から同年9月29日までの実際の稽古スケジュールは別紙3のとおりであり、また、それ以降新人公演開演日(同年10月 19日)までに予定されていたスケジュールは、別紙4のとおりである。
集合日である同年8月16日から同年9月29日までの45日間においては、休日とされた6日間を除き、全ての日に公式稽古・公演等があった。
公式稽古は13時から22時までの時間帯に行われることが多く、故人を含む宙組劇団員
7は、その前後の時間で自主稽古をしたり、公式稽古の前後や帰宅後の時間又は休日において、かつらやアクセサリーの制作・準備(特に、故人を含む娘役の劇団員において負担が大きくなる。)やその他準備活動(ネイル、美容院での髪染め、ストレッチ、自主トレーニング等)をしていた。
本公演開始後は、本公演終演後に新人公演の稽古が行われ、新人公演開演日(同年10月 19日)までの20日間は、3 H間の休演日を除いて毎日、「日中に本公演を1回又は2回行い、夜に新人公演の公式稽古を行い、それら以外の時間で自主稽古を行う」という状況が予定されていた。
    さらに、故人は長の期の長であったことから、①本公演に関係して上級生から下級生への情報共有・指導等があれば、下級生を代表して上級生とやり取りしたり、また、②新人公演について、劇団(演出担当者、衣装部)との間で必要な調整を行ったり、上級生との間で、直前まで本公演が行われる関係で必要となる調整や、指導を受けるためのやり取りをしたりしていた。
以上から、本公演及び新人公演に向け、過密なスケジュールの中、長の期の長として、
それぞれを本番までに仕上げる切迫感と重圧があったと認められ、その心理的負荷は小さくなかったと評価できる。

長の期としての役割及び活動
故人は、「新公の長の期の長」として、新公内を取りまとめる立場にあった。
※   新人公演は、研1から研7までの下級生の劇団員のみで、本公演と同じ作品を演じる公演のことをいい、略して「新公」ということもある。また、劇団においては、新人公演に出演する研7以下の劇団員を総称して「新公内」と呼んでいる。

新人公演を円滑に運常するための事務作業や調整作業
長の期の活動内容のうち、長の期を経験した者の多くが最も負担が大きいと述べたものは、以下の3つである。
①    新人公演の配役の確認作業(基本的に本公演の演出助手が行うが長の期はそ
れを確認し、無理や間違いがあれば演出助手に提案する。)
②    衣装のはめ込みに関する事務作業(上記①の配役に応じて、本公演において上級生が使用している各衣装や小道具、床山(かつら)等(「衣装等」)について、どの下級生がどの上級生から何を借りるかを決め、また、新たに用意する衣装等がある場合には、衣装部等に対し、何を用意する必要があるかのレポートを作成する。)
③  衣装合わせのためのスケジュール調整作業(誰の何の衣装合わせを何時に行うか等のスケジュールを衣装部等と調整する。)
上記①ないし③の作業は、香盤表の公表日から本公演の初日までの短期間に実施しなけ
ればならないが、この間は、本公演の荒通し、本通しやオケ合わせ、舞台稽古などが予定されており、本公演の演者としても重要な時期である。日中のほとんどを本公演の公式稽古や自主稽古をして過ごしているため、これらの作業は自主稽古の合間か、帰宅後の自宅にて行わざるを得ない。
8以上から、香盤表の発表日から本公演の初日(今回の場合は同年9月23日から29日)までの短期間における長の期としての活動の負担は相当なものであり、またそれらは本公演の稽古の合間や稽古後に行う必要があるために、この間は十分な睡眠時間を確保できない状態であったことがうかがわれる。

新公内を指導する役割としての負担
長の期は、新公内の劇団員の失敗について上級生から指導・叱責される立場であった。
長の期は、下級生に対し組ルールの遵守を指導する立場でもあった。
    故人に関して、PAGAD公演の稽古中に、故人が長の期の長として下級生の失敗に関して責任を間われたという出来事は劇団員からのヒアリングでは聞かれなかった。故人が長の期の長という立場で稽古に参加していたこと自体に負担を感じていたことは推測できる。

負担を増大させる事情の存在
ア 長の期が実質的に娘役2名のみであったこと
    長の期の活動は、研7の同期で分担して行うものであるところ、令和5年9月時点において、故人の研7  (103期)は故人を含め3名であり、内一人が休演中で実際に稽古に参加していたのは2名のみであった。一方、一期下の研6  (104期)の男役が男役に関する業務を担い、研8  (102期)もサポートをしていた。ただ、それでもなお、長の期2名の負担は例年と比較しても厘かったのではないかと推察される。
    ヒアリング結果によれば、故人は、すでに令和5年3月から6月のカジノ・ロワイヤル公演をもって退団することを検討していたが、同期や劇団のプロデューサーより引き留められ退団を思い止まっていたところ、同期のうち2名が同年8月に退団することが決まり、故人が退団すると同期が1名残されることになることから辞められない状況になったと推察される。前出の診療録の記載からも、あのとき辞めておけばこのような辛い思いはしなかったのではないかという精神状況が負担増加の一因となったことが推測できる。

イ  コロナ禍明けによる様々な制度の変更
今回のPAGAD公演は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、いわゆるコロナ禍が明けた最初の大劇場公演であったことから、コロナ禍で中止されていた上級生への挨拶やコミュニケーション、「振り写し」(後述)が復活することになっており、また劇団の稽古場の閉館時刻がコロナ禍で22時になっていたのが午前0時に戻された。
    コロナ禍以前の制度を経験したことのない下級生もいる中で、コロナ禍明けによる様々な制度の変更に長の期として対応しなければならないことは、長の期の負担をより一層重いものとする要因の一つとなった。

ウ  公演内容の難しさ
今回のPAGAD公演は、芝居でも衣装やかつらのみならずメイクの変更をする試みがなされ、またショーでも、研1の最下級生が黒燕尾服で踊る場面があったり、下級生を含めて出番の多い構成であるなど、特に下級生にとって難しい公演内容であった。
,    そのため長の期が下級生に教えなければならないことが多々あり、このこともまた、長の期としての負担を増大させたと考えられる。
新人公演の自主稽古による負担
劇団では、通常、本公演の稽古中は本公演に集中すべきであるから、本公演が初日を迎えるまでに新人公演の稽古(公式稽古)は行われない。
    しかし、PAGAD公演においては、本公演の初日前に、故人を含む長の期等が新人公演に関する自主稽古を非公式に劇団員の寮で行うことを提案し、一部の劇団員とともに実施していたようである(後述)。前記のとおり、故人は、特に令和5年9月23日から29日までの間、本公演の初日前の稽古に加えて上記3で述べた長の期としての作業を行う必要があったために、十分な睡眠時間がとれる状況ではなかったが、それに加えて、本公演の初日前にも新人公演の自主稽古をしていたということであるから、故人の負担は相当なものであったと考えられる。

長時間にわたる活動
劇団の把握する業務時間ア 出演契約と業務時間
劇団は、入団から5年間は劇団員との間で1年ごとの「演技者専属契約」(雇用契約)
を締結する一方、入団後6年目以降は基本的に1年ごとの「出演契約」(業務委託契約)を締結する。劇団員は、前者の場合には労働者、後者の場合にはタレント(個人事業主)と扱われている。故人は、入団7年目でタレント(個人事業主)と扱われていたため、劇団は、故人の「労働時間管理」を行っているわけではなかった。
    このような前提の下、劇団は、公演時間と公式稽古のみを業務時間として記録する実務を採っていた。その記録が別紙3である。もっとも、故人が全ての公式稽古に参加したとは限られず、別紙3は、「故人の活動のうち公式稽古に関する活動時間の最大値」として把握しているものである。
    他方、劇団においては、劇団施設内で行われる自主稽古を含め、公式稽古以外は自主的な取り組みと整理され、これらに関する時間は管理されていない。

イ    出演契約の性質及び活動時間
上記アで述べた劇団の業務時間の管理に関する考え方は、入団7年目の故人が労働者
(労働基準法9条)に該当しないことを前提とするが、故人の出演契約においては労働者性を肯定する方向の事情と否定する方向の事情のいずれも存在している。本報告書は、本件事案が発生した事実関係及び原因の調査をすることを主眼としているため、以下では、出演契約の法的性質は措き、故人の出演契約上の業務及びこれに関連する活動に費やした時間(以下「活動時間」という。)を把握する方針で検討することと    した。

本件調査の捕捉する「活動時間」
公演・公式稽古以外の諸活動としては、大きく以下の活動がある。
①自主稽古
@公演のためのアクセサリーやかつら等の準備活動
③長の期の長として、自身の稽古以外に求められる活動

10
(本公演・新人公演の双方に関するものがあり得る。上記3参照。)

故人の活動時間の試算方法
故人の活動時間については、劇団においてこれを記録する資料はかなり限定的であり、また、劇団施設内外における故人の日々の活動をうかがい知るに資する劇団外の資料を入手することにも限界があるから、本件調査においてこれを正確に把握することは困難であった。そのような中、本報告書では以下のとおり、可能な範囲で故人の活動時間全体の試算を試みることとした。当該試算には、様々な仮定や留保条件がある。本報告書概要版では紙幅の関係で、仮定や留保条件について一部割愛した記載になっている。

ア 劇団施設内における活動時間
公式稽古時間
劇団は公式稽古が行われた時間を把握しているが、公式稽古は、対象となる場面ごとに分けて実施されるため、当該場面に出演しない劇団員は参加する必要がなく、自分の出演する場面が終了すれば別の作業をしたり、帰宅することがあった。そのため、公式稽古のうち、故人が参加した時間は特定できない。そこで、後述の入館・退館時刻の記録が公式稽古時間中に行われていない限りは故人がすべての公式稽古に参加したと仮定した。
自主稽古時間侶LJ紙5)
公式稽古開始前(主に午前中)の自主稽古時間については、劇団施設内のホワイトボードの記載があり、開始予定時刻を知ることができる。自主稽古も、芝居・ショーの場面ごとに時間を分けて実施されているため、配役表・香盤表から個人が対象となる場面を特定し、それと自主稽古の対象となる場面を照合して、「故人が参加した可能性が高い自主稽古」を特定することとした。そして、当該自主稽古に相当する時間については、後述の入館・退館時刻の記録と矛盾しない範囲で、公式稽古時間中に行われていない限り、すべて故人が参加したと仮定した。
他方、公式稽古終了後の自主稽古については上記ホワイトボードに記載がなく、故人が参加した自主稽古があっても、把握する手段がなかったので、故人の活動時間の算定には含めていない。ヒアリング結果では退館時刻である24時まで実施することが多かったとの指摘が複数あり、故人が公式稽古終了後の自主稽古に参加していた可能性があることは留保しておく。
新人公演の自主稽古
令和5年9月27日と、翌28日の公式稽古終了後、新人公演の自主稽古が劇団員の寮の稽古場で行われたとヒアリングにおいて述べる者がいることから、当該自主稽古が行われたと仮定して活動時間に含めている。また、同月29日、本公演初日後も新人公演の自主稽古が行われているので、活動時刻に含めている。なお、これらの自主稽古の終了時刻が不明であり、ヒアリングでも23時としたり、24時とする供述があったことから、故人が23時頃に帰路につ<  LINEを送っていることが確認できる同月 28日を除き、より遅い24時に終了したと仮定した。
入退館記録(別紙6)

11
劇団に入退館する際、新型コロナウイルス感染症の感染防止対策の一環として入館時及び退館時の1日2回、体温測定をすることになっており、入退館時刻がこれにより把握できるようになっている。最近は必ずしも体温測定が徹底されておらず、故人についても記録がない日があった。入退館記録により、故人が在館時間がわかる場合には、その間についてはすべて活動時間と仮定した。なお、退館時刻の記録がない日でも個人が送信したLINEの記載から稽古終了時刻がわかる場合は施設の退館時刻である24時までを限度として、活動時刻に含めた侶ll紙7)。

イ    劇団施設外における活動時間
(ア)公演のためのアクセサリーやかつら等の準備活動
ヒアリング結果から、24時間程度の活動時間を行ったものと仮定した。

(イ)長の期の長として求められる活動
長の期の長としての活動は、劇団施設外(自宅)でも行われていたところ、関係者とのLINEのやり取りにより明らかになった部分については、本件調査との関係では活動時間として捕捉するのが合理的であると考えた(別紙9)。

故人の長時間の活動時間ア試算結果
    以上にみた「劇団施設内の活動時間」及び「劇団施設外の活動時間」を合計すると、故人の活動時間は別紙9の「合計活動時間」列のとおり試算できる。
    もっとも、繰り返しになるが、当該試算は本件調査で得られた資料・情報の限りで、故人が行っていた諸活動の内容を前提に合理的な推論を試みるものであり、実際の活動時間は当該推定時間より短い場合も長い場合もありうる。
    ご遺族は、令和5年8月16日以降、午前8時半頃に入館し、24時まで稽古をして帰宅後も自宅で作業をしており、睡眠時間は午前3時から午前6時頃までの3時間程度であったとの認識を示しているが、本件調査ではそれほど長時間の活動が毎日行われたとまでは認められなかった。

イ  試算結果を踏まえた検討
本件調査で行った別紙9の試算結果を評価するにあたっては、厚生労働省が発出する
「心理的負荷による精神障害の認定基準j  (以下「認定基準」という。)において、長時間労働が精神障害の発症の要因となり得る心理的負荷の一つとして挙げられていることが参考になる。
本件調査で想定する「活動時間」は、自主的な活動や準備活動をも含むものである点で、認定基準が想定する「労働時間」とは異なる。しかし、劇団により指定されるスケジュールに従って、公演に向けて長時間にわたって劇団と関連する活動に専念する状態は、心身の疲労をもたらし、精神障害の準備状態を形成しうる点で、認定基準のいう長時間労働と異なるものではなく、広くこれらの活動がどの程度の心理的負荷となった可能性があるかを検証する上では、認定基準を参照することが有用である。そ

12
して、本件では、仮に労働時間であれば直近1か月に118時間以上の時間外労働があったことになる上(別紙10)、深夜時間帯にかかる長時間の活動により睡眠時間が十分に確保されない中、休日であった令和5年9月16日及び25日にも活動が行われた可能性が高く、そうであれば20日の連続勤務であったことから、長時間の活動により精神障害を引き起こしても不思議でない程度の心理的負荷があった可能性は否定できない。

配役表事前開示・虚偽報告問題
事実の概要
    新人公演の配役表は、稽古場に紙で掲示されて発表されるのが通例であり、今回の PAGAD公演においては、令和5年8月31日がその発表日であった。一方、新公の長の期には、発表の少し前に劇団から配役表がデータで送られていたところ、故人は同期生と相談の上、発表の一日前である同月30日に新公内のLINEグループに配役表をデータで送信(ただしその後半日以内に送信取消)した。その後、組長から配役表の事前送信の有無について何度か故人に確認されたが、故人は送信していないと事実に反する答えをしたうえ、下級生らには組長にそのような回答をしたと伝えた。しかし、結局故人が事前送信していたことがわかり、組長及び副組長から指導を受けた。
    その後、組長その他の幹部である上級生は、事前に配役表のデータを受け取った新公内のメンバーに対しても、同様の指導をした。

評価
    以上の指導について、業務上の必要性をみると、故人は、配役表を本来の公表日前にデータで送付し、上級生から確認されると送付していないとの事実と異なる回答をし、下級生に対してもそのことを共有していたというのであるから、この点について指導・叱責する業務上の必要性が認められる。また、組長らが新公内のメンバーに対して指導した点についても、配役表を事前にデータで送付することの問題性について、受領した下級生らにも共有する必要性が認められるから、必要性を欠くものとは言えない。また、その態様についても、他の者に指導内容が聞こえないように配慮しており、必要以上に長時間にわたるものではなく、大声や人格否定等を伴うものでもないから、社会通念に照らして許容される範囲を超え、相当性を欠くものとは言えない。

振り写し問題
事実の概要
劇団では、新人公演の稽古中、新人公演に向けて、一部の立ち回り(殺陣)やダンスナンバーについて上級生から本公演での振りを指導してもらうという慣習がある(「振り写し」)。振り写しは通常は2、3場面を実施し、所要時間は合計1時間程度である。
宙組では、振り写しは、コロナ禍で中止されていたが、前回の公演における演出の先生の指示で、今回のPAGAD公演からは復活させる方針となっていた。
長の期は、振り写しの日程及びどの場面・ナンバーについて振り写しをするかについて、組長と予め相談して決定し、本公演の稽古の終盤、芝居のオケ合わせの時(今回の公演

13
では同年9月23日)の1回目の休憩時に、組子に知らせる決まりになっていた。
    一方、今回のPAGAD公演において、故人を含む長の期は、同年9月6日の段階で新人公演の演出担当の演出助手と相談して振り写しはやらないことにしていたが、そのこと    を組長に伝えていなかった。組長は、振り写しについて組子に知らせる前日(同年9月 22日)になっても故人から相談がないことから故人にi餌召をした。故人は組長に振り写しはしないと説明したが組長は殺陣のところは危険なので振り写しをした方がよいとの意見を述べ、故人が再検討することになった。故人は演出助手と相談の上、代替案を示すなどにより振り写しを回避しようとしたが、代替案の内容が本公演稽古の休憩中に殺陣の先生に指導してもらう、という無理のある内容であったため組長が反対して、再び振り写しを実施する方向で再検討するように故人に指導した。故人はその後、殺陣以外の場面を含む5場面の振り写しを提案したところ、場面が多すぎたため殺陣の2場面に限定して振り写しを行うこととなった。以上の経過で、振り写しについては組長と故人との間で翌23日まで何度かやり取り及び指導があった。なお、当職らの劇団員に対するヒアリングでは、この時組長が故人に対して「やる気がない」と言って怒った、という者も複数名いたが、すべて伝聞であり、そのような発言があったとは認定できなかった。
    なお、ご遣族から提供された資料では、2場面のみの振り写しを同年10月5日に実施することになった旨を故人が同演出担当者に報告したところ、同演出担当者が「私が余計なことを言って、二転三転させてしまってごめんなさい」とするメッセージをLINEで故人に送っていることが確認できるが、同演出担当者の説明によると、振り写しの代替案を提案したのは同演出担当者であるものの、故人の要望に従ったものであったとのことであり、当該LINEメッセージのみで、同派出担当者の不手際で故人が組長から指導・叱責を受けることになったとまではいえないと思料する。

評価
以上の振り写しに関係する組長らの指導、叱責については、少なくとも故人が同年9月 22日まで振り写しの要否について相談をしていなかったこと等から必要性がないとはい えない。その態様も、大声や人格否定等を伴うものは確認できず、不相当とはいえない。頻度としては同年9月22日から翌23日にかけて度々やり取りが発生していたが、必要以上に同じことにつき何度も指導や叱責をしていたというものではない。他の宙組劇団員の面前で指導を行われ、周囲の劇団員も概ねその状況を把握していたことについては、振り写しの性質上、随時他の劇団員にも検討状況を共有し、意見を聞きながら進めたこ
とにも一定の合理性が認められることからすれば、社会通念に照らして許容される範囲を超えるものとは言えない。

衣装関係の問題
事実の概要
    今回のPAGAD公演のショーにおいては、研1の劇団員を含めた最下級生にも出番が多 く与えられ、また、(通常は最下級生はやらない)黒燕尾服でのダンスや早替わりなど、高度の技術を要する場面があったことから、最下級生を通常よりもさらに指導する必要があったが、それができておらず、舞台稽古において、下級生、特に最下級生を中心に、

14
かつらの髪飾りを反対向きにする、衣装の着方が悪い、早替わりの段取りが悪く出遅れるなどの問題があった。
    ショーの舞台稽古があった令和5年9月27日、衣装部からなぜ早替わりが間に合っていないのかとの苦情があったため、同日及び翌日に、大部屋の長及び組長から、故人を含め下級生全体が指導を受けた。

評価
    以上の衣装関係の指導は、衣装の取扱いや早替わりにおける出遅れについてのものであって、指導の必要性を欠くとは言えない。指導方法としては、人格や人間性を否定する内容が含まれるものではないし、下級生の問題について長の期を指導することについても、下級生のミスが全て故人ら長の期のせいであると決めつける内容でもなく、過大な要求とも言えないことからすれば、社会通念上不相当とはいえない。

本役へのお声がけコミュニケーションが遅れた問題
事実の概要
    新人公演に出演する下級生は、新人公演における演技や早替わり等の技術を、基本的にその役を本公演で演じる上級生(「本役」)から学ぶことになる。その一環として、下級生は本公演において本役のお手伝い(衣装を運んだり早替わりを手伝ったり)をすることが決まりとなっている。これにより、早替わりの方法を学んだり、公演時の動きを確認することができる。そして、いつ、どのお手伝いをするのかについて、本公演が始まる直前に行われる舞台稽古の1日目(芝居の舞台稽古の日)に、下級生から本役にお声がけをし、合意する決まりである(コミュニケーションと呼ばれる)。そうすることで、舞台稽古の3日目の通し稽古の時に、本番と同じ状況で本役のお手伝いができるためである。
このようなコミュニケーションは、コロナ禍では中止されていたが、これも今回の
PAGAD公演から復活させることになり、故人もそのことを認識していた。
    しかしながら、故人は舞台稽古の間にはお声がけができていなかった。本公演初日(同月29日)の朝、本役の上級生とは別の上級生のアドバイスを受けて、故人は本役の上級生に対し、本公演開演前にお声がけをしたが、本役である上級生はちょうどそのとき衣装を運んでいる途中でタイミングが悪く、話ができなかった。
    終演後、本役の上級生は故人を楽屋の自分の化粧前に呼び、お声がけの遅れについて、芝居中のある場面の出番前に一緒に舞台袖にいた時があったのであるから、その時に来られたはずであること等を指導した。同上級生が故人に対して下級生もお声がけに行けているのか確認しているのか、と聞くと故人は確認していたと答えたが、同上級生が、下級生には確認していたのに、自分(故人)がお声がけに行けなかったのはなぜかと聞くと、故人は下級生には確認していなかったと回答を変えたので、別の長の期の劇団員を呼んだところ、当該別の長の期及び下級生の何名かも舞台稽古中にお声がけができていなかったことが判明した。
    本役の上級生の指導が終わった後、上記の別の上級生が場所を移動して、同人と故人の間の期の2名を呼び、長の期が二人ともお声がけに行っていなかったのであれば忘れて

15
いたのではないかと3回くらい繰り返し聞いた。長の期2名はこれに対して忘れてはい   なかった旨答えたため、同上級生は、「じやあ分かった。それは信じる。忘れてなかった  けど行けなかったのであれば、その改善方法を考えないといけない。」と言って指導した。
    この時の本役であった上級生と当該別の上級生の指導について聞いていた者の中には、本役であった上級生の声が大きかったと述べる者、当該別の上級生が関西弁できつめに述べていたので関西以外の出身者としては怖く感じたと述べる者もいた。なお、このとき当該別の上級生が故人に対し「嘘つき野郎」と言ったということを故人から聞いたという劇団員もいたが、いずれも伝聞であって直接聞いた言葉ではない一方、その場にいた者のヒアリング結果によると、当該別の上級生が故人に対し、本当に嘘をついていないかと何度か聞いたことは認められたものの、故人が嘘をついていると断定したと述べる者はおらず、また、「嘘つき野郎」という言葉をはっきり聞いたという者もいなかったことから、「嘘つき野郎」との発言があったとは認定できない。
その後、同日22時30分から新人公演の自主稽古が行われたが、その終了間際に行われた終わりの会において、故人は、新人公演内の下級生に対し、自身が本役に挨拶に行けておらず怒られたことを話し、下級生に示しがつかないと言って、謝っていた。

評価
    上記の指導のうち、お声がけの遅れに関するものは、本来のタイミングから3日も遅れ本公演初日になってしまったことに対するものであることに加え、本役へのお声がけは新人公演について指導を受ける上級生への礼儀であり、舞台人として基本的な心遣いであるとともに、下級生は本役にお声がけをして手伝いの時間・場所を決めてもらうこと    により、本役を手伝いながら芝居に関する様々な技術を学ぶ時間を確保することができるという点で、下級生にとっても一定の重要性があることにも鑑みれば、指導の必要性はあったと言える。お声がけのタイミングに関する指導についても、上級生間でも適切なタイミングに関する認識が分かれていたものの、本役側に余裕のあるタイミングで声をかけてほしいとの指導は直ちに不合理とは言えない。下級生のお声がけについて確認、指導を促す発言についても、下級生の指導は長の期の仕事の一つであるからすれば、指導の必要性がないとは言えない。
    指導の態様や手段については、楽屋という周囲に複数の劇団員がいる場所において強く指導した点で、その妥当性に疑義が残るものの、指導の強度についていえば、本来のタイミングから3日たってもお声がけができておらず、しかも、舞台袖でお声がけが可能なタイミングが実際あったにも関わらずお声がけをしなかったなどという事情が前提にあったこと、指導中に故人が下級生に指導をしたという前言を撤回したことにより、故人の説明の信びょう性が疑われる状況にあったことなどの事情があり、上級生の上記指導が一定程度厳しいものとなったこともやむを得なかったとも思われる。また、上級生が嘘をついていないか3回程度確認したことについても、その直前に故人が下級生に指導をしたという前言を撤回したという事情があったこと、確認後には当該上級生は「信じる」と述べており、故人らが嘘をついたと断言しているわけではなく、再発防止のためのアドバイスもしていることからすれば、指導の強度において、直ちに威圧的な叱責とまでいえず、全体としてみれば、両名の指導の態様や手段が相当性を欠くものとは断

16
言できない。なお、後述のとおり、「上司から業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた」に相当し、故人の心理的負荷の強度としては「中」に該当すると考える。

1 0    その他いじめ・ハラスメント
劇団員へのヒアリングでは、LINEでのやり取りについても、提供を受けられた範囲で確認したが、故人が参加しているLINEグループや個別チャットにおいて、ハラスメン   トに該当するようなやり取りは見当たらず、遺族からもそのような情報提供はなく、故人へのLINEでのいじめやハラスメントという事実は確認できなかった。また、その他、故人に対するいじめやハラスメントも確認できなかった。

1    故人側の事情






故人の劇団外の問題については調査が困難であるため、上記の事情が本件事案の発生にどの程度寄与したかについて評価することはできなかった。

第4  本件事案が発生した原因に関する考察
    本件調査は、本件事案が発生した事実関係及び原因を調蒼することを目的とするが、故人のプライベートの問題や従前の健康状態等、業務以外の心理的負荷や個体側の脆弱性に関する調査には限界があったことから、故人の精神障害の発症の有無、発症の時期や、本件事案の原因を特定することは困難である。

    そこで、本件事案が発生した直前期の出来事が、精神障害を引き起こすような程度の心理的負荷であったかについて考察する。考察にあたっては、認定基準を参照することが有用であるので、同基準を参照し考察を行った。

    結論としては、以下のとおり、本件事案が発生した直前期の出来事は、一定の強度の心理的負荷であったとの評価があり得、これらを総合すると、認定基準において客観的に精神障害を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされる場合に相当する程度の強い心理的負荷が故人にかかっていた可能性は否定できないと考える。

詳論
    まず、過密なスケジュールをこなしながら、この先も過酷な新人公演の稽古スケジュールが予定されているなかで、長の期としての役割及び活動に従事しなければならなかったという故人の状況は、従前、長の期としての活動を行ってきた他の劇団員もみな同様

17
の経験をし、これを達成してきているものであり、故人も前作においては対応していたものではあった。しかし、今回においては、長の期として役割や活動の負担を増大させる特殊事情、具体的には、前作後に故人の同期の退団があり、娘役2人のみで長の期の活動を行うのは初めてであったこと、コロナ禍明けによる様々な制度の変更が存在しその調整が必要となったこと、公演内容が難しかったことといった事情が存在したことを加味すると、認定基準のうち、「達成は容易ではないものの、客観的にみて、努力すれば達成も可能であるノルマが課され、この達成に向けた業務を行った場合」、「新規事業等
(・・・成功に対する高い評価が期待されやりがいも大きいが責任も大きい業務)の担当になり、当該業務に当たった」場合など、「中」程度の心理的負荷に類する心理的負荷であったとの評価があり得るものと考えられる。
    次に、長時間にわたる活動については、認定基準上「中」ないし「強」とされる心理的負荷に類する心理的負荷とも評価でき、精神障害を引き起こしても不思議でない程度の心理的負荷となった可能性も否定できない。
    さらに、上級生から故人及ぴ下級生に対する指導が多数重なった事実については、認定基準のうち、少なくとも「上司とのトラブルにあった」に相当する心理的負荷が存在したとはいえると考えられる。当職らのヒアリングの中では、故人が組内の複数の親しい   メンバーに対し、上級生についていけない、叱られるのが嫌だと述べていたこと、家族に対しても、「悪いことはしてないと信じて」「とにかくずっと怒られているから、何で怒られているかわからない」と泣きながら述べたり、「なんで叱られているかわからない」
「叱られていることに何とも思わなくなってきた」などとも述べるなどしていたことが確認でき、実際に故人が上級生からの指導・叱責を大きな負担に感じていたことなども認められ、少なくとも上記第3の9の指導・叱責については、認定基準が心理的負荷の強度を「中」とする「上司から、業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた」に類する心理的負荷であったとの評価があり得ると考える。
    以上の出来事はPAGAD公演に向けての稽古・準備を行う約1カ月半程度の間に時間的に近接して生じたものであるうえ、長の期としての活動や、長時間にわたる活動は、いずれも単発の出来事ではなく、この間継続的に生じていたところに、さらに指導による心理的負荷が複数回重なったという状況にあった。認定基準によれば、心理的負荷となるそれぞれの出来事が時間的に近接・重複して生じている場合には、全体的な評価はそれぞれの出来事の評価よりも強くなると考えるとされているところ、以上の出来事を総合すると、「強」に相当する心理的負荷、すなわち精精神障害を引き起こすような程度の心理的負荷が故人にかかっていた可能性が否定できないと思料する。

第5  対処すべき課題(提言)
1  過密な公演スケジュールの解消
近年、ミュージカルにおける舞台音楽·振付等が高度化しており、観客の支持を集めるために、一つの作品における出演者の出番や早替わりが急増し、演者の身体的・精神的負担が増大する一方となってきている。
他方、劇団においては、宝塚大劇場と東京宝塚劇場という本拠地において、現在年間9興行の公演が実施され、加えて、本拠地での公演の間に宝塚バウホール公演や外部の劇

18
場の公演が企画され、各組ともフル稼働の状態にある。しかも、本拠地における1週間当たりの公演数は10公演(1日2公演が週のうち4日)に及ぶ。
このため、期を問わず、劇団の多くの劇団員から、過究な公演スケジュールにより心身ともにつらいという意見が多数あった。
    また、劇団の衛生委員会議事録でも、劇団診療所から、ショーがハードで劇団員の健康が維持できるか心配であるなど、劇団員の健康に関する懸念が示されている。
    以上を踏まえ、年間興行数を9腿行から8興行に減らす、1週間当たりの公演数を10公演から9公演に減らすなど、過密な公演スケジュールの解消に向けた具体的な見直しに可及的速やかに着手すべきである。また、休日の回数や、公演のためのアクセサリーやかつら等の準備活動等にかかる劇団員の負担軽減方法についても、併せて検討すべきと考える。

自主稽古の在り方の改善(過密な稽古スケジュールの改善)
    劇団においては、公式稽古のほかに、公式稽古の前及び後の時間帯に劇団内の教室(稽古場)等において自主稽古が行われている。自主稽古は本来文字通り自己研鑽の場であ    り、参加を強制されたり余儀なくされたりする性質のものではないはずである。しかし、今回実施したヒアリングでは、演出の高度化、複雑化に伴い、自主稽古とはいいながら、実際には公式稽古では全く時間が足りず、自主稽古がなければ舞台に立てるレベルに達しないため、公式稽古の不足を補うために長時間の自主稽古が実施され、その参加が事実上必須になっているのが実情であるとする意見が多数出された。
    また、コロナ禍の期間中は退館時刻が22時までであったが、今回のPAGAD公演から、    コロナ禍以前と同様に24時まで稽古場に残ることができるようになり、ますます自主稽古の時間が長くなっただけでなく、自主稽古における上級生の下級生への指導が厳しく、指導の際の言葉も辛らつで、稽古場の雰囲気を悪くしていた、と述べる者も多数存在した。
    上級生の下級生への指導が厳しかったのは、前述のように、今回のPAGAD公演は、芝居・ショーともに難しく、演出家の要求水準も高かったことや、宙組では令和5年2月に行われた劇団員の話し合いの場で前述のように上級生と下級生との間で溝ができたと感じている者が一定数おり、このような下級生にとっては、上級生の指導を素直に受け取れなかったり、不合理だと感じてしまったりした部分もあったものと思われるが、根本的には公式稽古のスケジュール自体に余裕がなく、自主稽古でカバーしなければならない過径な稽古スケジュールが全体的な余裕のなさを生んでいたものと考えられる。
    これに対し、劇団は、自主稽古は、あくまで自己研鑽との認識をしているところ、確かに、現在の自主稽古においても、すべてが公式稽古の補完目的で実施されているとは限らず、自己研鑽の目的で行われている自主稽古も存在しないとは言い切れないし、公式稽古の補完目的の自主稽古と、自己研鑽のための自主稽古の区別をするのは困難である。
    しかしながら、現状を放置することは劇団員の健康を害することになりかねないため、劇団としては危機感を持って、公式稽古のスケジュール、公演内容の見直し、自主稽古の実態の把握に努め、自主稽古が本来の意味での自己研鑽の場になるよう、必要な対策を検討し実行に移すべきである。この点、上記1で述べた本拠地での興行数を減少する

19
ことは、稽古スケジュールに余裕を持たせることにもつながると思われる。
    芸事は極めようとすると際限がないため、稽古スケジュールに余裕を持たせても、向上意識の高い劇団員は時間がある限り(本来の意味での)自主稽古をしてしまうことが懸念されるが、このような問題については、劇団としては、まず劇団員に健康管理に関する十分な知識を持ってもらうよう対策を講じるべきであり、もしそれが難しく、あるいは健康管理の意識の浸透に時間がかかるのであれば、稽古場の退館時刻を早めるといった物理的な対策を講じることも場合によっては必要と思われる。
    なお、自主稽古における上級生の指導については、下級生から感謝する声や上級生の指導なくして宝塚歌劇は成り立たないとする意見もあり、自主稽古における指導に消極的になることは望ましくないが、過度な指導にならないよう心掛けるべきである。また本件調査では下級生で構成されるLINEグループの一部で辛辣な言葉が使われていることが確認された。これらのことに鑑みると、劇団員全員に対して一般企業が実施しているようなハラスメント研修を実施するといった方法も検討すべきであろう。

新人公演の在り方の見直し
    劇団員からは、新人公演そのものの意義を疑う声はほとんど聞かれなかった。しかし、その一方で、期を問わず多くの劇団員からは、演出部(特に演出助手)の人手不足のため、長の期の劇団員が、本来演出部が担うべき、配役・衣装のはめ込み、小道具の取りまとめまでを担当しなければならず負担が重い、新人公演の香盤発表が遅いことや本公演の稽古中は新人公演の稽古をしてはならない決まりごともあって、本公演の舞台後に新人公演の稽古をしなければならないところ、特に2回公演後の新人公演の稽古は肉体的には相当な負担がかかる、稽古後にやるべきことが多く睡眠時間が削られる、本公演に集中できないのは本末転倒であるといった実施方法の問題点を指摘する意見が多く聞かれた。
劇団員のヒアリングでは、上記に対する解決策として、(現状、本公演の1週間程度前の時期になされる)新人公演の香盤発表を前倒しする、本公演と新人公演の稽古を並行して行う、小劇場で全く異なる演目で行う、本公演終了後に新人公演を行うなどといった意見が出された。
劇団員から寄せられた各種意見には、実現困難なものもあると思われるが、現状改善のために現実的に取り得る方策について検討すべきである。

組ノレールの整理・合理化
劇団においては、組内の運営をスムーズに進めるために上下関係のほかに組ごとに劇団員が作った組ルールが存在する。このような内部ルールはどの組織でも存在するものであり、その存在自体が不相当というものではない。
    しかしながら、新公内外問わず、組ルールを作ること及び組ルールを守ることが自己目的化する傾向があり、組ルールの存在が本来の意図に反して、劇団員が本来注力すべき芸事の妨げになっているという意見が多く出された。
    また、劇団には、上級生が下級生を指導する際に、近くにいる劇団員が集まって指導内容を共有するルールや、その場にいなかった劇団員に情報を共有するため、自分の一期

20
上の劇団員等に情報を伝達するといった情報伝達ルールがある。その趣旨としては、重要な情報や注意事項を適時に組全体で共有するというメリットがあるとのことであり、一概にこれらを否定できないが、その反面、多数の劇団員の前で厳しい叱責を受けることになれば、叱責を受ける劇団員に不要な心理的負荷を与え、ひいては、ハラスメントの温床にもなりかねない性質があることは否定できないように思われる。
劇団としては、劇団員に対し、組ルールの文書化・統一化(各組共通ルールの整備)・合理化を促し、かつ、見直し後のルールについても、不必要な組ルールが新たに生まれていないか等について定期的なレビューを行うよう求めるべきである。また、運用によっては、不要な心理的負荷を与え、あるいはハラスメントの温床になりかねない指導内容の共有・情報伝達ルールは別のリスクの低い方法に変更することを検討するよう促すべきである。
    なお、最下級生が稽古場での小道具類の作成等の作業を行う組ルールに関しては宙組では省略・縮小が進み、改善効果が出ており、自主的な組ルールの見直しの動きも見られた。

劇団員の意見・思いを吸い上げる体制の構築
    上記で述べたような問題点は、これまで劇団側には十分認識されておらず、あるいはあ る程度認識されていたとしても、劇団員と劇団側の認識に温度差があり、劇団員が疲弊している現状への危機感が劇団へは伝わっていなかったといえる。そうすると、劇団は、各組内部で生じている問題点を適時に把握するため、劇団員の意見・思いを吸い上げる体制を整備するべきである。
劇団でも総務部に倫理相談窓口を設置し一定の対応をしてきたとのことであるが、ヒアリング対象となった劇団員の大半が倫理相談窓口の存在を知らず、存在が十分周知されていたとは言い難い。また、劇団には外部の通報・相談窓口が存在せず、劇団員が安心して通報・相談ができる体制が整っていない。したがって、外部の通報・通報窓口を作るなどの対策を講じることを検討すべきである。
    また、劇団には、女子会(各組の劇団員の代表者で構成される団体)という組織があり、女子会が年1回、劇団員の要請・回答をまとめて劇団に提出するということが行われて いたが、劇団員からは、女子会を通じて劇団に意見・要望を伝えても根本的な解決につ ながる回答を得られるとの期待が持てないとする意見も多く聞かれた。今後は女子会を通じて伝えられてきた問題点に耳を傾けるべきである。

実効的な監査体制の整備
    劇団には劇団業務の監査を行う部署が存在しない。継続的に劇団の業務を監査する組織的な体制を構築することを検討すべきである。

組長・副組長の蓑成や負担軽減策の実施
組長は、各組在団年数が長い劇団員の中から舞台経験が豊かでリーダーの素質がある者が選ばれ、劇団と劇団員との橋渡しや、組に在籍する劇団員をケアし、とりまとめ役となることを期待され、副組長は組長を補佐することが期待されているとのことである。

21
組長・副組長あるいは、幹部クラスの上級生に各劇団員をケアしまとめ上げるという期待される役割を効率的に果たせるよう、一般企業が実施しているような管理職研修を定期的に行う、あるいは、組長・副組長のみに組のマネジメントを任せるのではなく、プロデューサー(及び補)その他の劇団職員が、もっと積極的に組長らをサポートする体制をとることも検討されるべきである。

その他
    本提言で述べた以外にも、劇団員からサポート体制充実等の改善点などについて指摘を受けたものがあるが、これらの点については、当職らから別途劇団に伝え、検討を促したいと考える。

第6    最後に
    本件調査において、劇団が、過密な公演スケジュールがもたらす問題の把握と対処をせず、劇団員の才能と、芸事に真摯に取り組む姿勢に多くを依存してきた結果、劇団員が心身ともに余裕を失う現況になっていることが明らかとなった。
劇団においては、このような現況の下で本件事案が発生したことを真塾に受け止め、まず故人のご遺族に誠心誠意に向き合うことが求められる。また、今変わらなければ、宝塚歌劇が永続する道はないとの危機感をもち、原点に立ち返り、一時的ではなく継続的に、真摯に劇団員・スタッフの声に耳を傾け、一つ一つ的確な改善策を地道に講じていくべきである。

以上























22