いとし「代表的な鍋は?」
こいし「まあ、いちばん簡単にやれるのはとり鍋でしょう」
いとし「とり鍋いうのは、鍋の中へ鳥が入ってるわけ?」
こいし「鳥を入れるからとり鍋」
いとし「どんな鳥が入ってるの」
こいし「まあ一応、鳥を入れれば」
いとし「カラスなんかは?」
こいし「へへっ」
いとし「トンビにカササギとか」
こいし「食える鳥入れえ、食える鳥を」
いとし「食える鳥言うたら?」
こいし「あれや。とり鍋に入れる鳥、決まっとるやろ」
いとし「とり鍋の鳥は」
こいし「かしわ。かしわを入れてとり鍋」
いとし「とり鍋に入ってる鳥はかしわか」
こいし「かしわやん」
いとし「かしわて、どんな鳥やねん。かしわどりいうのはどういう鳥やねん」
こいし「かしわや」
いとし「だからかしわっちゅうのは」
こいし「赤いトサカが生えててな、こっこっっこっこと、タマゴを生んで、たまごがかえって、ひよこになって、大きなって、赤いトサカが生えて、こっこっこ、ポトン、タマゴを生んで、タ…止めてくれ」
いとし「エエ加減にしときや」
こいし「なにがや」
いとし「小さな子どもに言うてるんちゃうよ」
こいし「んなもんわかっとるわい」
いとし「僕は大人ですよ」
こいし「見たらわかるやないか」
いとし「三十過ぎた男…」
こいし「なにを?」
いとし「三十過ぎた男をつかまえて」
こいし「君、三十過ぎかえ」
いとし「ほな君は僕がまだ三十過ぎてへんちゅうんか」
こいし「んなことあれへん。もう二年経ったら八十やぞ、君は」
いとし「君が今、やってみせたのは、ニワトリ。コケコッコーやろ」
こいし「おう、ニワトリや」
いとし「ニワトリくらいわかってるがな」
こいし「わかってたら言うなや」
いとし「かしわがわからんから聞いてんねん。かしわてどんな鳥やねん」
こいし「かしわもニワトリもいっちょ」
いとし「え?」
こいし「かしわもニワトリもいっちょ」
いとし「かしわとニワトリ。あいつ、ふたつも名前があんの?」
こいし「生きてる間の名前がニワトリ。死んだら戒名がかしわ」
いとし「葬式屋か! 君は。僕はそういう戒名鍋きらいや」
こいし「戒名鍋て」
いとし「あの、牛の牛肉。牛の牛肉を焼いて食うのが…」
こいし「牛肉は牛や」
いとし「生きてる間が牛」
こいし「あら?」
いとし「死んだら戒名が牛肉となる」
こいし「おんなしように言うな」