「あれはいつのことじゃったかいのぉ」

 老翁がボソボソと呟いたのはおれが3本目の瓶ビールの栓を抜いてグラスに注いでもらい口につけようとした時だった。

 道に迷い途方にくれていたおれは老翁に招かれるまま「Damside」の軒をくぐり特別飲みたかったわけでもないのだが小さなグラスに注がれたビールを一息に飲みほした。飲んでしまうと加速してしまうのがおれにとってはビールであり、さっきまで特に・・・なんて言っていたのが今では嘘で空になった瓶を振り、もう1本と老翁に告げた。

 唐突だったので最初は老翁の独り言かと思っていたのだが、老翁がここに来たときの話らしい。

まだまだ冬のど真ん中で空はどこか薄暗く底冷えの厳しい日。

「わしもこれで世迷い人じゃからのぉ」ガハハと大きい声で高笑いしタバコに火をつけた。

日も暮れかけ泊まる当てもない。

「そんな時にこの西陣京極に辿り着いたのじゃよ。」

外も薄暗いがこの中はまるで幽霊屋敷。屋敷中に蜘蛛の巣がはっており、穴の開いた壁が点在する。人の気配は感じられないが家具一式そろっている。

「なんとも縁を感じてしまってのぉ」

おれはどこに縁を感じるのかも分からなかったしその前にいろいろしなければいけないことがあるのでは?そんなことを思ったのだが老翁はそれ以来この屋敷に住み着いたようだ。