142「水族館」
久しぶりの繁華街は暑かった。
僕は息苦しくなりファーストフード店に逃げ込んだ。
一番端の席に座り、味のしない食べ物をつついている。
ガラス一枚隔てた街は賑やかで美しく揺らいでいる。
着飾った人々がまるで花のように、
まるで熱帯魚のように流れて行く。
あそこは僕の住める世界ではない。
あの人達と僕はヒトと魚ぐらいの違いがあるんだろう。
店内がざわついた。
若者達が沢山入ってきたようだ。
とたんに息苦しくなった。
そうか。
魚は僕だ。醜い深海魚は僕だ。
独り分厚いガラスに囲まれて、
冷たい孤独の水中に沈んでいるのは僕だ。
ここは僕の場所ではない。
立ち上がりトレーの中身をダストボックスにぶちまけた。
饐えた魚の臭いを感じたが、きっと気のせいなんだろう。
1 名前:('A`) :2006/08/08(火) 06:03:26 0
129「ダークエモーション」
ゴトリ
俺の中で
歯車が回る
ゴトリ
黒く冷たく
冷たく重く
重いが空虚だ
ゴトリ
振り返ってしまう過去
ゴトリ
希望に満ちた
少年時代
輝く忘れえぬ
青春時代
そんなものは
ゴトリ
放課後
誰もいない教室
笑い声は遠く、
拳を握り締め
立ち尽くす
ゴトリ
青黒く膿んだ思い出は
黒く
黒く塗り潰さなければならない
ゴトリ
打ちのめされる現実
ゴトリ
あらゆる街の賑わいは
あらゆる人との触れ合いは
あらゆる恋の喜びは
己のものではないと
ゴトリ
恥多き日常
砂を噛む日々
激情は内に秘め
口中に広がる鉄の味
ゴトリ
赤黒く爛れた生活は
闇に
闇に葬らなければならない
ゴトリ
将来…
ゴトリ
薄暗がりの中
変わらない生活が
緩やかに下りゆく
黄昏への坂道
ゴトリ
諦観の闇に跪き
自虐の軛に首を垂れる
なにも見えない
なにも見たくない
ゴトリ
闇の奥に
なにかが蠢いて
闇の奥から
なにかが近づいて
ゴトリ
それは
闇よりも黒く
心より冷たく
世界より重く
愛より空虚だ
ゴトリ
いつしか
それは目の前に
ゴトリ
それは恐ろしく
それは懐かしく
それは避け難く
それを
待ち続けていた
ゴトリ
ゴトリ
ガキン
歯車が止まり
全てが終わった
1 名前:('A`) :2006/01/11(水) 01:04:36 0
125「影との対話」
いつからこうしているのだろうか。
気がついたら動けなくなっていた。
冷たいアスファルトに座り込み、
通り過ぎる人々を眺めている。
季節は冬。
ネオンは華やかに、
人の群れは踊るように。
男女の距離は0になり、
笑い声はさんざめく。
だけど・・・
クリスマスだからって理想を下げる必要はないさ
(お、余裕だね)
女はプレゼント目当て食事目当てに決まってる
(貧乏人のひがみかね?)
男のほうだってやれればいいんだよ。
(経験もないのに語るねぇ)
だいたい日本人はキリスト教と関係ないじゃないか。
(原理主義は理性の敵さ)
そもそもサンタの赤だってコカコーラの・・・
(中途半端な受売りに逃げるのかな?)
まあうらやましくもあるけど
(最初から素直になるのも手だよ)
なにも無理に愛されたいとは思わない。
(泣いてるのかい?)
恋愛至上主義に踊らされるのは馬鹿のすることだ。
(一番踊っているのは間違いなくキミだよ)
楽しいことは他にだってある。
(エロゲのことかな?ハハ、あれもいいものだけどね)
この30年間…
(まってました!決まり文句だね?)
喪れなりに頑張ってきた。
(うん、まぁ、あくまでキミなりにね)
だけど・・・
(どうした?)
最近は会社にも居場所がないんだ
(最初からだね)
夜も眠れない
(待つのは悪夢だけだけどね)
朝は起きれない
(目覚めなくてもいいのにね)
もう・・・
(だめだね)
もう、だめだ
(耐えられないね)
耐えられそうにもない
(行こうか?)
もう行こう
(うん)
うん
ここは人が多すぎるし、すこし騒がしい。
重い足を引きずって歩き出そう。
次の曲がり角まで、その先まで。
まだ歩けるうちは。前に進もう。
本当に動けなくなる、その時まで。
動けなくなったら・・・
(なったら?)
もういいよね?
(もういいよ)
1 名前:('A`) :2005/12/17(土) 12:59:49 0
115「喪男村讃歌」
「・・・後席からは寝息が聞こえてくる。
歪んだ寝顔。絶望に疲れ切っている。
川崎から来たヤツは歯軋りなんかしてるよ。
しかしまぁ二人ともなんて不細工なんだ。
今日初めて会ったけど、とても他人とは思えない。
喪なんだなぁ。(筆者註:喪=もてない男)
現在午前2時。
常用している薬のためか、あまり眠くならない。
少し息苦しい。
残った錠剤をすべて飲んだ。
・・・眠い
そろそろかな・・・
朦朧としてきた・・・
ん?
窓の外がかすかに明るい。
熱気で曇ったフロントウィンドウ越し。
ああ、後部にいるはずの二人が。
どこへ行くんだろ。
おかしいな。
あの影は・・・
アガーイたん?(註:ロボット名)
デカッ!実物大かよ!!
つか動いてるじゃん!本物じゃん!嘘!
ああ、そうか。
連れて行ってくれるのか。
明るさが増してくる。
でも眩しくはない。
見えるよ。
見えた。
喪男村・・・
本当にあったんだなぁ・・・
いや!そんな!
そrjbjhgk;;。:おhふじこp@:(以下判読不能)」
その手記はここで終っていた。
遺体は三体。
無論後部座席の二名も座ったまま発見されている。
世間から阻害されたと思いこみ、世を捨て現実に目を背け、追いつめられ自暴自棄になった人物によるありふれたただの集団練炭自殺に過ぎない。
この手記にも意味はないだろう。
今際の妄想だ。
だが・・・
三人のこの安らかな死に顔はどうだ。
確かに微笑んでいる。
突然の訃報に涙一つ見せなかった遺族もこう述べているではないか。
「ええ、アイツ、いえ兄のこんな笑顔は見たコトないです。
生前はキモくてウザくて…笑った時でも人を覗きこむような・・・
もういいですか?気分悪いです。
もう二度と来ないでください。」
遺族より押しつけられるようにして渡された彼のシンクパッド。
HDDのあるフォルダには学生時代よりの日々の恨み辛みが連綿と書き綴られている。
読むだに耐え難く、衆目に晒すに忍びない。
彼の三十数年の人生、その膿のようなものだ。
だが、しかし。
彼の人生のハイライト、大学院時代に没頭していた文化人類学についての記述には見るべきものがある。
卒論とは別に彼が遺し、その後のやはりもてない10年間に極めたその研究。
「特定の角度、星辰の配列、ある種の薬物、超時空の影…喪男村」
彼自身も本気で信じていたわけではないだろう、趣味のようなものだ。
だが、全てを諦め、決断したその時、そして同時に、自らの研究を身を以て実証したとは言えないだろうか。
彼は天才だった。
学生時代よりの交友より私はそう断言することができる。
世に、いや、女性に受け入れられず自らこの世界を去っただけである。
そう、死とは、人生とは、物事の一面に過ぎない。
意識とは多次元にわたる時空連続帯のあらゆる局面において統合され、死とはその真実の実体=「ヨグ・ソトース」その局面の角度を超えるだけの作業であるのだ。
ランドルフ・カーターもそう述べているではないか。
今、私は確信している。
彼は既にその障壁を越えた。
私もその障壁を越える。
用意はできている。
私は確信を持ってレンタカーのエンジンを止め、練炭に火を入れよう。
そうだ、私は負けたのではない。
大いなる栄光へ向け、その一歩を踏み出すだけなのだ。
いざさらば。
喪男村は実在する!
1 名前:長いけどこっち採用 :2005/08/30(火) 02:11:33 0
