2002年シンガポール。
日本人スタッフとして現地採用され、初めてのシンガポール生活をスタートさせた25歳の私と、そこで出会った同い年の中国系シンガポーリアン、ディミアンとの短くて儚い恋の記憶。


 

 

シンガポールに到着した私を

 

 

空港まで迎えに来てくれた

 

 

大柄なインド系シンガポール人マニ。

 

 

 

 

ホテルの地下にある駐車場に

 

 

車を停めてきたマニは

 

 

巨大な吹き抜けのある

 

 

ロビーの片隅に佇んで待っていた私をみつけて歩いてきた時には

 

 

さっきまでとはまったく違う、

 

 

ビシッとしたスーツのジャケットにネクタイ、

 

 

という装いで現れた。

 

 

 

 

当然さっきまで頭にカチューシャのように乗せていた

 

 

哀川翔風のサングラスも

 

 

もうしていなかった。

 

 

 

 

そしてマニは

 

 

スーツの胸に金色に光る

 

 

ネームプレートをつけていて、

 

 

そこにはアルファベットで

 

 

MANIMARAM

 

 

と書いてあった。

 

 

どうやら「マニ」とは

 

 

「マニマラム」を短縮したもの

 

 

だったようだ。

 

 

 

 

私がその素敵な変身ぶりにおどろいて

 

 

『え、さっきと随分変わったね!』

 

 

と言うと

 

 

マニは

 

 

『俺のこと、ドライバーだと思ってた?』

 

 

と言いながら

 

 

黒い肌とは対照的な

 

 

真っ白な歯を見せて笑った。

 

 

 

 

その後マニは

 

 

私の所属部門となる

 

 

「フロントオフィス」の事務所に連れて行ってくれた。

 

 

 

 

そこでようやくわかったのだが、

 

 

マニはそのフロントオフィス部門の副部長、

 

 

Assistant Front Office Manager

 

 

という、

 

 

ナンバー2的なポジションの人だった。

 

 

 

 

Assistant Front Office Manager、

 

 

通称AFOM(エーエフオーエム)。

 

 

ここでようやく

 

 

さっきマニが車の中で

 

 

一生懸命「自分が何者か」を説明してくれていた時に

 

 

頻繁に出てきたワード、AFOMの意味がわかった。

 

 

 

 

なるほど。

 

 

たしかに私はその時までずっと

 

 

マニはホテルのドライバーさんだと

 

 

思っていた。

 

 

 

 

ところが実際には

 

 

マニはホテル内ヒエラルキーの中では

 

 

やや上位に入る

 

 

出世頭だったのだ。