二世帯住宅を新築してから、
兄のテリトリーに立ち入れたのは、小さなころの上子と、
3,4度ほど掃除に入った母だった。
その掃除も許さず兄は暮らしていた。
私生活が見えない。
兄のPCを立ち上げた。
なぜ自分から逝ってしまったのか?
年老いた両親が、なぜ なぜ を繰り返す。
遺書らしきものは見つけられない。
ロックがかかっていたらあきらめる。
この部屋にある限り、他人がPCをひらくことは想定していなかったのだろう。
ロック、かかっていなかった。
経済、株に勝つ。
8台のモニターに同じ待ち受け画像が並び、異様さを放っていた。
タスクバーにLINEのアイコン。
人のPCを立ち上げただけでも罪悪感でいっぱいなのに、
個人情報、プライバシーの塊のLINEを開くのか。。。
躊躇してしばらく手指が動かせなかった。
それより、なぜPCに同期させているのか?
メッセージか?
兄のスマホは愛車1とともに消失している。
メッセージを受け取る相手は私で良いのか?
私が受け取り、その先は…
そうか、先生に聞けば良いんだ。
私には史上最強の味方がいるのだから。
アイコンをクリックし、会話を読む。
自動車や消耗品のメーカーのLINEのアイコンの中に、仕事先のグループLINEがあった。
コロナ禍で訪問授業からオンラインに移り、
兄の仕事は激減した。
コロナ禍を解かれ、その反動からか多くの仕事の量に意見をしている文面。
あの暴言ばかりの兄が、へりくだって、
「コマ数を減らして欲しい。」
と訴えている。
仕事に使っていたビジネスバッグの中身の
スケジュール帳には必要事項しかない。
そのかわり、隣県のガソリンスタンドのレシートが束になって入っていた。
片道50kmを超える土地での給油が定期的にある。
こんな遠方まで行っていたのか。
自ら旅立った理由は、先を儚んでだと思っていた。
仕事が減り、この先の生活苦を悲観したか?
証券取引、トレーディングをしていた。
大きな負債があったらどうしよう。
どこから、何から始めれば良いか全く解らない。
弁護士の先生に相談した。
沢山アドバイスをいただき、自力で調べられる事を教えてもらった。
負債については情報開示の方法を、
雇用関係ではない、請け負いだから引き受けてしまった仕事量に対して、
労働基準は当てはまらない。
それでも異議申し立てをするか否か?
ひとまず過去の記述の保存を法的にすることができる。だがこの方法には他にも数人の弁護士に依頼しないと行けない。どうする。
依頼人は私ではできない。
なくなってしまった事に変わりはない。
母の答えだった。