※ブログ主感想:経済政策と社会保障以外はいたってまとも。


・トランプ返り咲きに影落とす“危険思想”政策レポート「Project 2025」、その内容とは(Wedge ONLINE 2024年9月9日)

※トランプ氏と近い関係にあるシンクタンク「ヘリテージ財団」(本部ワシントン)が「次期共和党政権の青写真」と銘打ち、昨年4月に刊行し、「トランプ次期政権」を担う側近、関係者を中心にコピーが回覧されてきた。

しかし、今年7月2日、同プロジェクトの総指揮を執るケビン・ロバーツ財団理事長が報告書に言及する中で、「我々はいま、第二次米国革命(the Second American Revolution) に着手しようとしている。革命は左翼がそれを容認する限りにおいて無血で成し遂げられるだろう」とあたかも武力革命を示唆するかのような発言をしたことをきっかけとして、全米マスコミの間でハチの巣をつついたような騒ぎとなった。


「Project 2025」の中身
 
その「Project 2025」とは実際、どのようなものなのか。

報告書は内政、外交、安全保障政策など全般に及んでいるが、大統領権限の大幅拡大、民主党系上級官僚、職員の政府からの一掃、環境保護政策軽視など、内政に関するものだ。

そこには具体的に、以下のような政策目標が掲げられている:


〈大統領権限および人事政策〉

「すべての行政機関は『単一政府論』に基づき、ホワイトハウスの統括下に置くものとする。この結果、司法省、連邦捜査局(FBI)、連邦通信委員会(FCC)、連邦貿易委員会(FTC)その他の機関の独立機能を撤廃する。

とくに強大な捜査権を持つ司法省は、根拠不十分なままトランプ前大統領を摘発するなど、リベラル思想の巣窟と化しているため、今後は活動を厳格化し、重大犯罪、国家安全保障上の脅威に関わる事案捜査に重点を移すとともに、大統領の直接管轄下に置く。FBI捜査も同様とする。

新政権が発足する2025年1月20日までに指導的立場にある国務省の上級官吏(500人余)全員を解任するとともに、保守主義を唱導する新大統領と思想を共有する官僚たちを登用する。彼らは(従来の慣行と異なり)上院での承認を必要としない。

 連邦政府各省庁で働く何万人もの職員についても、抜本的に洗い直し、大統領に忠実な人材を選別・採用する。全省庁の4000人近くの政治任用ポストについても思想統一を徹底させる」 

〈健康保険および公衆衛生政策〉

「バイデン政権は米国の核家族の伝統を侵害し、国民の税金を無駄使いしてきた。我々は、家庭の自立構造を促進させるために連邦保健・人的サービス省(DHHS)を抜本的に改編する。

オバマケアで認められてきた避妊薬の保険適用を撤廃するほか、一般患者治療に関しても政府依存ではなく個人保険に重点を置いたメディケア・プログラムを推進する。低所得者、高齢慢性疾病者を対象としたメディケイドについても、連邦支出を削減するほか、州レベルでの適用を厳格化させる。

国立衛生研究所(NIH)は腐敗と政治的偏向が目立つため、劇的改革を必要としており、研究スタッフ採用時の男女平等政策、ES細胞研究などのプログラム助成を打ち切る。疫病対策予防センター(CDC)についても、公衆衛生指針の発令を停止させる」

〈経済・財政政策〉

「完全雇用の実現を是とする連邦準備制度理事会(FRB)の制度を廃止し、インフレ抑制に重点を置く機構に改める。金本位主義に重点を置く米ドル体制を確立する。

税制については究極的に所得税中心から連邦売上税への移行をめざす。個人所得税については当面、年収16万8600ドルまでの納税者は一律15%、それ以上の所得者は一律30%とする。法人税は現行21%から18%に引き下げる。

連邦経済分析局、国勢調査局、労働統計局を一つの組織に統合し、新政権の保守主義思想を反映させたものとする。独占禁止法の監視組織である連邦取引委員会(FTC)を廃止し、従業員、政府職員の不当労働などの抗議、スト権などを保護する連邦労働関係委員会の役割を縮小する」

〈環境保護政策〉

「次期大統領は、バイデン政権による気候変動関連の行政命令を失効させるとともに、『環境保護』の名のもとに人民の活動を制限しようとするあらゆる政府事業を完全に一掃するべきである。具体的には、温室効果ガス削減戦略を反古にし、そのための公的規制措置を撤廃し、環境保護庁(EPA)を縮小し、気候変動についての最大警鐘機関である「アメリカ海洋大気庁」(NOAA)を廃止する。

州レベルにおいても、カリフォルニア州が実施してきたような車排気ガス規制措置を阻止するだけでなく、石炭燃料産業に対する規制も撤廃させる。連邦政府は、石油、天然ガス、石炭の大規模採掘事業を発展させる義務を負っており、北極海における採掘事業も支援していく。さらに一般国民を対象に、気候変動に関する科学的根拠の脆弱性、研究活動の問題点などについて啓蒙活動を行っていく」

〈教育・学術研究〉

「昨今、公立学校において、人種差別撤廃の重要性を強調する”woke propaganda”が蔓延している現状にかんがみ、新政権においては、教育全般に関わる連邦政府の役割を大胆に縮小し、各州において親の学校選択、親の権利向上ための改革を推進させる。この目標実現に向けて連邦教育省を廃止し、各州を連邦政府の指導要領、教育プログラムなどの拘束から解放する。

この結果、連邦政府が各州の学校における人種差別事例などの摘発に乗り出す事態も解消され、学校独自の判断に委ねられることになる。低所得家庭児童に対する180億ドルにおよぶ連邦助成金も期限切れとなり、無料だった学校給食助成金も削減される。

学術研究については、『新政権の保守主義思想に沿った国益』を優先させ、気候変動などの研究予算は大幅削減する」




プロジェクト2025

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

プロジェクト2025(英語: Project 2025)としても知られている2025年大統領移行プロジェクト(英語: 2025 Presidential Transition Project)は、ヘリテージ財団が組織したイニシアティブである。

2024年の大統領選挙でドナルド・トランプが勝利した場合に、アメリカ合衆国連邦政府を再構築して行政権を強化するために、保守派と右派の一連の政策提案を推進することを目的としている。

アメリカ合衆国憲法第2条と統一行政理論を下に、行政府全体が大統領の直接の統制下にあると主張している。

プロジェクト2025は、数万人の連邦公務員を政治任用者として再分類することにより、トランプ大統領の政策を実現することに意欲的な忠誠心のある支持者に置き換えることを提案している。プロジェクトの支持者たちは、この変更を実施することで、彼らが巨大で無責任で大部分がリベラルであると見做している、政府の官僚制度は解体されると主張している。

プロジェクト2025は、政府と社会にキリスト教の価値観を浸透させることを目指している。批評家はプロジェクト2025を、アメリカ合衆国を独裁政治に導く権威主義的なキリスト教ナショナリストの計画であると特徴付けている。

多数の法律専門家は、プロジェクト2025により、法の支配、権力分立、政教分離、市民の自由が弱体化することになると述べている。

プロジェクト2025は、政府、特に経済政策と社会政策や、連邦政府とその行政機関の役割に対する広範な変革を想定している。

計画では、アメリカ合衆国司法省(DOJ)、連邦捜査局(FBI)、商務省、連邦通信委員会(FCC)、連邦取引委員会(FTC)を党派的に支配し、国土安全保障省(DHS)を解体して、化石燃料の生産を促進するために環境および気候変動に関する規制を大幅に削減することを提案している。

計画では減税の導入を求めているが、提案者たちは保護貿易の通念に異議を唱えている。

プロジェクトは教育省の廃止を勧告しており、教育省のプログラムは他の行政機関に移管されるか終了されることになる。

気候研究への資金は削減され、国立衛生研究所(NIH)は保守派の原則に従って再編される。

プロジェクトはメディケアとメディケイドへの資金の削減を目指しており、政府が医療としての中絶を明確に拒否するよう求めている。

プロジェクトは、Affordable Care Actに基づく緊急避妊薬の適用を撤廃し、全国で避妊薬や中絶薬の配送の差し出しや受け取りを行った者を起訴するために、コムストック法を施行することを目指している。

ポルノを犯罪化して、性的指向やジェンダー・アイデンティティに基づく差別に対する法的保護を廃止し、司法省に「反白人人種差別」を訴追させることによって、多様性・公平性・包括性(DEI)プログラムとアファーマティブ・アクションを終了させることを提案している。

プロジェクトは、アメリカ合衆国在住の不法移民の逮捕、収容、国外退去を推奨している。

国内で法を執行するために軍隊を配備することを提案している。

また、死刑とその判決の迅速な「確定(finality)」を促進している。

一部の保守派と共和党員は、気候変動と外国貿易に対する姿勢を理由にこのプロジェクトを批判している。他の批評家は、プロジェクト2025は、4年間にわたる個人的な復讐をいかなる犠牲を払っても行うことに対する修辞的な「粉飾」であるだけでなく、バイデン政権下で「実施されたほとんどすべて」を元に戻そうとしていると考えている。プロジェクト2025の作成者たちは、ほとんどの提案で共和党がアメリカ合衆国下院と上院上院の両方を支配する必要があることを認めている。

法的には、プロジェクト2025は特定の大統領候補を宣伝することはできないが、寄稿者の多くはドナルド・トランプや彼の2024年の大統領選挙キャンペーンと関係している。
ヘリテージ財団もトランプと緊密に連携する人々を多数雇用しており、トランプの同盟者が運営するさまざまな保守団体とともにこのイニシアティブの調整を行っている。
2023年、トランプ陣営関係者は、このプロジェクトがAgenda 47プログラムとよく一致していることを認めている。

ヘリテージ財団のケビン・ロバーツ会長がインタビューで、第2次アメリカ革命が起こることを示唆した。このプロジェクトは、政府のコントロールを取り戻すための「戦闘計画(battle plan)」について説明している。

「Mandate for Leadership(リーダーシップのための使命)」と題された部分に記述された「エリートによる支配とウォークカルチャーに対抗するために保守派とアメリカ国民を団結させるための計画」が注目されている。

100以上の保守系・共和党系のシンクタンクや政治団体が賛同しているという。


人事

人事面ではトランプへの忠誠心の高い人たちを政権幹部とし、高級官僚などについてもヘリテージ財団が人選を行い政権に候補として提示し、政治任用の範囲を数倍に拡大して連邦行政機構の人員を数万人の規模で入れ替えることが計画されている。


政府機構

「行政国家を解体する(Dismantle the administrative state)」こと、司法省などの独立機関を大統領の直接統制下に置くことなどが謳われている。


政策

提言されている政策は、以下のように多くの分野に渡っている。

国勢調査の市民権に関する質問
キリスト教ナショナリズム
気候変動の緩和
経済
教育と学術研究
大統領権限の拡大
外交問題
医療と公衆衛生
移民改革
アイデンティティの問題
ジャーナリズム
法執行機関
国家安全保障
ポルノとアダルトコンテンツ
女性の生殖に関する健康
交通インフラ


アイデンティティの問題

プロジェクト2025は、プロジェクトが「過激なジェンダー・イデオロギー」と呼ぶものを攻撃しており、政府が「聖書に基づき、社会科学で強化された結婚と家族の定義を維持する」ことを支持している。これを達成するために、同性結婚を廃止して、セクシュアル・アイデンティティやジェンダー・アイデンティティに基づく差別に対する保護を撤廃し、さらに、多様性・公平性・包摂性(DEI)を「国家公認の人種差別」と呼び、連邦法からDEIに関する規定を削除することを提言している。DEIプログラムや批判的人種理論に関わるイニシアティブに参加した連邦職員は解雇される可能性がある。

公立学校の教師がトランスジェンダーの生徒が好むジェンダー代名詞を使用するためには、生徒の法的保護者から書面による許可を得ることが義務付けられる。プロジェクト2025の支持者たちは、「労働政策におけるDEI革命」を元に戻して、より「人種中立的な」規制に置き換えるために、民間部門もターゲットにすることを望んでいる。プロジェクト2025は、2020年代初頭のDEIに対する反発の激化傾向の一部となっている。

ホワイトハウスのジェンダー政策評議会(Gender Policy Council)は解散される。政府機関がクォーターを設定したり、ジェンダー・人種・民族に関する統計を収集したりすることは禁止される。プロジェクトの寄稿者であるJonathan Berryは、「この目標は、カラー・ブラインドへ向かうことであり、特に人種に関しては、人々をカテゴリーに還元できない完全な人間として扱う法律や政策が必要であることを認識すること」だと説明している。アメリカ合衆国国勢調査局は、保守派の原則に従って改革されることになる。


ジャーナリズム

プロジェクト2025は、ホワイトハウス記者団に所属するジャーナリストに与えられる便宜を再考することを提案している。また、公共放送局のPBSとNPRに「よい政策とよい政治(good policy and good politics)」として資金を提供している民間の非営利企業Corporation for Public Broadcastingへの資金提供を打ち切ることを提案している。