「緊急事態条項」の内容と目論見がバレて浸透し始め、国民の拒否反応が強くなったからなのか、「緊急政令」と言い換え始めた。だが、「政令」というほうが強制的なニュアンスが強い気もするがどうなのだろう。…
— 松尾 貴史 (@Kitsch_Matsuo) September 2, 2024
・自民 憲法改正「自衛隊明記」「緊急事態条項」今月中まとめへ(NHK 2024年8月22日)
※憲法改正をめぐり自民党の作業チームは、岸田総理大臣が自衛隊の明記に向けた論点整理を行うよう指示したことを受けて、先行して検討を進めてきた「緊急事態条項」と合わせて今月中に党としての考え方をまとめる方針を確認しました。
自民党は岸田総理大臣が今月7日に党の憲法改正実現本部の会合で、憲法への自衛隊の明記について今月中に論点整理を行うよう指示したことを受けて、22日、作業チームの会合を開きました。
そして、自衛隊の明記に加え、先行して検討を進めてきた、緊急事態に国会議員の任期を延長するなどの「緊急事態条項」と合わせて今月中に党としての考え方をまとめる方針を確認しました。
実現本部の本部長を務める古屋元国家公安委員長は記者団に対し「憲法改正は自民党の党是であり総裁選挙の候補者も憲法について触れると思う。作業チームでとりまとめたものが議論の前提となる」と述べました。
・「集会、デモなど一切の政治活動禁止」 韓国戒厳司令部が布告令第1号を発表
朝鮮日報 2024/12/04
朴安洙・戒厳司令官。
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が非常戒厳を宣布した3日夜、戒厳司令部が「国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」とする布告令第1号を発表した。下記全文。
【全文】
自由大韓民国内部に暗躍している反国家勢力の大韓民国体制転覆の脅威から自由民主主義を守護し、国民の安全を守るために2024年12月3日23時付で大韓民国全域に次の事項を布告します。
(1)国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる。
(2)自由民主主義体制を否定したり、転覆を企てる一切の行為を禁じ、フェイクニュース、世論操作、虚偽扇動を禁じる。
(3)すべてのメディアと出版は戒厳令によって管理されている。
(4)社会混乱を助長するストライキ、怠業、集会行為を禁じる。
(5)研修医をはじめ、ストライキ中や医療現場を離脱したすべての医療関係者は、48時間以内に本業に復帰して忠実に勤務し、違反時は戒厳法によって処罰する。
(6)反国家勢力など体制転覆勢力を除いた善良な一般国民は、日常生活に不便を最小化できるように措置する。
以上の布告令違反者に対しては、大韓民国戒厳法第9条(戒厳司令官特別措置権)により令状なしに逮捕・拘禁・押収捜索ができ、戒厳法第14条により処罰する。
2024年12月3日 戒厳司令官陸軍大将 朴安洙
・「非常戒厳」宣布から150分後に韓国国会で解除要求決議案可決、尹大統領のリーダーシップに大打撃(朝鮮日報 2024年12月4日)
※韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が 3日の夜10時20分、「対国民特別談話」を通して「憲政秩序を守るため非常戒厳を宣布する」と述べ、夜11時付で全国に非常戒厳布告令を発表した。
だが韓国国会は、布告令が効果開始を宣言してからわずか 2時間後の 4日午前1時に本会議を開いて戒厳解除要求決議案を上程し、190人の賛成で可決した。
韓国憲法と戒厳法の規定によると、国会在籍議員過半数(151人)の賛成で戒厳解除を要求した場合、大統領はこれを受け入れて戒厳を解除しなければならない。
尹大統領が3日に非常戒厳を宣布するに当たって国務会議(閣議に相当)を経たかどうか、はっきりとは確認されていない。
しかも進歩(革新)系の「共に民主党」など野党側が国会で圧倒的多数(192議席)を確保している状況で、戒厳宣布からわずか150分で解除しなければならない非常戒厳をなぜ強引に宣布したのか、疑問が提起されている。
政界からは「尹大統領の戒厳宣布が適法な手続きを経たのかどうか、もう少し調べてみなければならないが、政治的には自滅の手」という声が上がった。
尹大統領は 3日の夜、緊急特別談話を通して、非常戒厳の宣布を発表した。だが憲法などに規定した法的な手続きの観点から、戒厳令が宣布されたとは見なし難い、という指摘が出ている。
韓国憲法で規定している国務会議の審議など、戒厳宣布のために踏むべき手続きが守られなかったというのだ。
韓国憲法 77条によると、大統領は「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態において兵力で軍事上の必要に応じたり公共の安寧秩序を維持したりする必要があるとき」に、「法律が定めるところによって」戒厳を宣布することができる。
戒厳法2条2項では、非常戒厳は大統領が戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態の際、敵との交戦状態にあったり社会秩序が極度にかく乱されたりして行政および司法機能の遂行が著しく困難な場合に、軍事上の必要に基づいたり公共の安寧秩序を維持したりするため宣布する。
憲法 89条と戒厳法2条によれば、大統領が戒厳を宣布しようと思うときは、国務会議の審議を経なければならない。
しかし首相室の関係者は「戒厳宣布案を審議するための国務会議は事前に開かれたことがないようだ」と明かし、国務会議が開かれたかどうかはっきりとは確認されなかった。
・<緊急解説>韓国が非常戒厳令、尹大統領が出した最悪の悪手、その理由と朝鮮半島で起こりうる最悪のシナリオ(Wedge 2024年12月4日)
※韓国の尹錫悦大統領は12月3日深夜、対国民特別談話を通じて、「非常戒厳を宣布する」と明かした。この報道に接し、長年にわたり北朝鮮のスパイ活動を調査してきた筆者は、尹大統領が戒厳令という伝家の宝刀を抜いた理由にピンとくる一方で、最高権力者が最も犯してはならない悪手を打ったと非常に残念な気持ちになった。
そうこうしているうちに、韓国で45年ぶりとなった戒厳は、わずか6時間で解除された。本項では、日本人に馴染みのない戒厳を説明するとともに、尹大統領が戒厳を宣布するに至った理由と今後の影響について解説していく。
非常戒厳を宣布する状況にあったのか?
戒厳とは、いわゆる非常事態宣言のこと。戦争や大規模災害など有事に、憲法や法律の効力を一部停止して、行政と司法が軍隊の統制下に入る状態のことを指す。
戒厳令はそのための命令を意味する。もちろん、その目的は非常事態からいち早く脱して、通常の状態に復旧することにある。
現在、日本では戒厳に関する規定はないが、韓国では憲法で戒厳を規定し、細部を戒厳法と戒厳施行令で定めている。韓国の戒厳は、「非常戒厳」と「警備戒厳」があり、今回宣布されたのは前者だ。いずれも大統領が宣布する。
非常戒厳とは、「大統領が戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態時、敵と交戦事態にあるとか、社会秩序が極度に撹乱され、行政及び司法の機能の遂行が顕著に混乱した場合に軍事上の必要に基づくとか、公共の安寧秩序を維持するために宣布する」とされている。
つまり、戦争や行政サービスがストップするほどの大規模デモが頻発しているような場合に、軍隊が社会秩序を回復するために発令されるのだ。ゆえに令状なしの逮捕や集会・デモの禁止も許容されている。
では、韓国はそのような状態にあったのだろうか。北朝鮮がウクライナ戦争に参戦したことにより、朝鮮半島情勢が緊迫化しているが、非常戒厳を宣布する状況にあったとは言い難い。尹大統領は、なぜそのような情勢判断に至ったのだろうか。
その疑問を解くために、戒厳司令部(陸軍本部)が3日23時過ぎに発令した布告令第1号の書き出しを見てみよう。
自由大韓民国の内部に暗躍している反国家勢力による大韓民国体制転覆の脅威から自由民主主義、国民の安全を守るため、2024年12月3日午後11時付で大韓民国全域に以下の事項を布告する。 この戒厳司令部布告令は、戒厳司令官に任命された陸軍参謀総長が出したもの。内容は尹大統領の意図を呈しており、命令の趣旨は「反国家勢力による体制転覆の脅威から自由民主主義、国民の安全を守る」にある。
野党と進歩派は北朝鮮のスパイ!?
「韓国内部で暗躍する反国家勢力」とはなんとも陰謀論的な表現だが、尹大統領による非常戒厳宣布では、さらに強烈な表現が繰り返し使われている。尹大統領は対国民特別談話で次のように述べており、野党や反対勢力をどのように認識しているか良くわかる。長文なので一部を抜粋して紹介する。
尊敬する国民の皆さん、私は大統領として血を吐く心情で国民の皆さんに訴えます。
これまで国会は韓国政府発足以来22件の政府官僚弾劾訴追を発議しており、6月22代国会発足以降も10人目の弾劾を進めています。これは世界のどの国にも類例がないだけでなく、韓国建国以来、全く類例がなかった状況です。
判事を脅迫し、多数の検事を弾劾するなど司法業務を麻痺させ、行政安全部長官弾劾、放送通信委員長弾劾、監査院長弾劾、国防長官弾劾の試みなどで行政府を麻痺させています。
国家予算処理でも、国家本質機能と麻薬犯罪取り締まり、民生治安維持のためのすべての主要予算を全額削減し、国家本質機能を毀損し、韓国を麻薬天国、民生治安をパニック状態にしました。
今、国会は犯罪者集団の巣窟であり、立法独裁を通じて国家の司法・行政システムを麻痺させ、自由民主主義体制の転覆を目指しています。自由民主主義の基盤になるべき国会が、自由民主主義体制を崩壊させるモンスターになったのです。
私は北朝鮮共産勢力の脅威から自由大韓民国を守護し、国民の自由と幸福を奪う破廉痴な従北反国家勢力を一挙に取り除き、自由憲政秩序を守るために非常戒厳を宣言します。私はこの非常戒厳を通して、亡国の奈落に落ちている自由大韓民国を再建して守ります。
そのために、私はこれまでに悪事を働いた亡国の元凶、反国家勢力を必ず懲戒します。これは、体制転覆を狙う反国家勢力の蠢動から国民の自由と安全、そして国家持続可能性を保障し、未来世代にきちんとした国を譲るための避けられない措置です。
2度目の大統領弾劾に突き進む韓国情勢
尹大統領による非常戒厳の宣布を読んで、何を感じただろうか。
筆者は率直に言って、30年以上にわたって北朝鮮スパイと対峙してきた経験から、韓国の進歩派の中に北朝鮮の手先がいることを否定しないし、その害悪の大きさも知っている。しかしながら、それを加味したとしても非常戒厳の宣布は暴挙だし、尹大統領自身が民主主義を破壊したと言っても過言ではないと考える。
韓国の国会は3日深夜、在籍議員190人が急きょ集まり、非常戒厳解除要請案を全員一致で可決した。この中には、尹大統領を擁立する与党「国民の力」の議員も含まれる。身体を張って民主主義と国家を守る議員や関係者を前に、出動した若い軍人たちはなす術もなく待機するしかなかった。
そして、4日午前4時過ぎ、尹大統領は戒厳法の規定に従い、戒厳を解除した。筆者は、野党=北朝鮮の手先と認識する尹大統領が国会の要請を受け入れない可能性を懸念したが、そのような最悪の事態は避けられた。
いずれにしても、韓国社会が受けた痛手は大きい。支持率低迷と国会対策の失敗を戒厳令で乗り切ろうとした尹政権と保守派の信頼は完全に失墜し、2回目の大統領弾劾も現実味を帯びてきた。他方、野党と進歩派がこれから勢いを盛り返すことで、尹政権下で進んでいた日米との連携強化が無に帰する。
現時点で筆者が考える最悪のシナリオは(1)尹大統領の弾劾・逮捕、(2)米国でトランプ政権、韓国で李在明政権が誕生、(3)在韓米軍の撤退、(4)北朝鮮の南侵と第2次朝鮮戦争の勃発――という流れだ。これを妄言と笑い飛ばせないほど、今回の事件の影響は大きい。
当面は韓国情勢をウォッチするとともに、情勢の悪化が日本と政界の安全保障環境に波及しないことを祈るほかない。
・憲法・戒厳法から外れた「6時間戒厳」過程…「弾劾」「内乱」尾を引く=韓国(中央日報 日本語版 2024年12月4日)
※韓国の尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が4日午前4時30分、国務会議で非常戒厳解除を議決して「6時間戒厳事態」は幕を下ろしたが、戒厳宣言手続きの適法性を巡って問題が提起されている。「戦時・事変、またはこれに準ずる国家非常事態」(憲法第77条)という戒厳要件が成立していないだけでなく、過程でも違憲・違法素地があるという指摘が出ているためだ。
まず3日午後10時23分から始めた6分ほどの大統領緊急談話生放送を通じて宣言された非常戒厳が国務会議の審議を経たものなのかどうかから不明だ。憲法第89条と戒厳法第2条は大統領が戒厳を宣言しようと思う場合、国務会議の審議を経なければならないと規定している。だが「国務会議はなかった」「韓悳洙(ハン・ドクス)首相は知らなかった」あるいは「非公開国務会議があった」などの説が飛び交っている。
ソウル市立大学ロースクールのキム・デファン教授は「国務会議がなかったとすれば非常戒厳宣言も無効であり違憲」としながら「非常戒厳を前提に軍の兵力を動かした高位将軍は十分に罷免することができる」と話した。戒厳宣言を前提に戒厳軍・空輸部隊・警察特攻隊の国会進入など、軍・警察公務員の動きを指揮した行為すべてに違法問題がつきまとう可能性があるということだ。キム教授は「国務会議があったとすれば国務委員に対する調査も行われなければならないだろう」と付け加えた。憲法上、戒厳要件が成立しない状況で戒厳に同意したとすれば憲法違反の可能性があるという説明だ。
「戒厳を宣言する時は、その理由・種類・施行日時・施行地域および戒厳司令官を公告しなければならない」(戒厳法第3条)という規定も十分に守られなかったという指摘が出ている。朴安洙(パク・アンス)陸軍参謀総長が戒厳司令官に任命されたのは、尹大統領の談話から約1時間後の午後11時25分ごろだった。
また、戒厳法第4条は「大統領が戒厳を宣言した時には直ちに国会に通告がなければならない」と規定しているが、生放送談話形式が通告に該当するかを巡っても意見が入り乱れている。国会の首長である禹元植(ウ・ウォンシク)国会議長は4日未明、本会議で「大統領が国会に通告しなかった」と明らかにした。与党「国民の力」からも「ニュースを見て知った」〔秋慶鎬(チュ・ギョンホ)院内代表〕という声も聞かれた。
戒厳宣言以降も違憲・違法素地がかなり見つかっている。「国会と地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」という戒厳司令部の布告令内容が代表的だ。憲法は戒厳状況で「言論・出版・集会・結社の自由、政府や裁判所の権限に関して特別な措置を取ることができる」(第77条)と規定しているが、立法府の活動を制限する内容はない。むしろ「国会が在籍議員過半数の賛成で戒厳の解除を要求した場合には大統領はこれを解除しなければならない」という憲法条項(第77条)、「戒厳施行中、国会議員は現行犯人である場合を除いては逮捕、または拘禁されない」という戒厳法(第13条)などを通して立法府の活動を保護している。
もっと大きな問題は戒厳司令部の布告令が単に宣言に終わったのではなく、現場でも一部実現された点だ。特殊戦司令部空輸部隊員など武装した軍兵力は与野党代表室の窓ガラスを割って、ソウル汝矣島(ヨイド)国会議事堂本庁に進入し、警察は議事堂塀を取り囲んだ。彼らは窓ガラスを破ったりバリケードを設置したりするなど、国会議員や補佐陣と激しく対立した。
このような様子は各メディアのカメラに一部始終がすべて収められた。「非常戒厳解除要求決議案」表決のために建物内に入ろうとしていた改革新党の李俊錫(イ・ジュンソク)議員が警察に向かって「どのXXからこのような命令を受けたのか。お前たちは全員、公務執行妨害罪に内乱罪だ」と大声を張り上げる様子も捉えられた。李議員はその後、フェイスブックにも「国会議員が国会議事堂に進入することを阻止したり、戒厳解除表決をすることを邪魔したりすれば、それ自体で憲法違反」と書いた。
高麗(コリョ)大学ロースクールのキム・ソンテク教授は「布告令1号で国会政治活動を中止させることは、大統領の権限や憲法・戒厳法にもない」とし「明確に不法」と話した。続いて「全斗煥(チョン・ドゥファン)・盧泰愚(ノ・テウ)元大統領内乱陰謀罪裁判の時も、国会議員登院を邪魔して内乱罪が成立すると大法院から出たことがある」とし「今回の場合は内乱未遂で、今後刑事訴訟の対象になる場合がある」と話した。
非常戒厳解除要求決議を主導した共に民主党を中心に、戒厳後の対応を巡って強く出る展望だ。戒厳解除直後「戒厳を解除しても内乱罪を避けることはできない。直ちに下野せよ」〔朴賛大(パク・チャンデ)院内代表〕と主張したことに続き、直後の緊急議員総会決議を通じて「直ちに退陣しない場合、弾劾手続きに突入する」と明らかにした。大統領弾劾訴追は国会在籍議員過半数の発議と在籍議員3分の2以上賛成すれば通過する。民主党など野党議員192人に加えて与党から8人が離脱すれば条件を満たすことになる。
・「逆ギレ戒厳令」不発で尹錫悦大統領はもはや詰み…次は「反日モンスター」(現代ビジネス 2024年12月4日)
近藤 大介
※深夜に突然の戒厳令
それは、12月3日夜10時20分過ぎのことだった。韓国ソウル・龍山(ヨンサン)にある大統領執務室で、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が突然、5200万韓国国民に向かって宣言した。
「(前略)今日、私たちの国会は犯罪者の巣窟となり、立法独裁を通じて国の司法行政制度を麻痺させ、自由民主主義制度を打倒しようとしている。自由民主の根幹であるはずの国会が、自由民主のシステムを破壊する怪物と化している。
今、韓国は、すぐに崩壊してもおかしくない風前の灯火の運命に直面している。同胞の市民の皆さん、私は、北朝鮮の共産主義勢力の脅威から自由な大韓民国を守り、わが国民の自由と幸福を略奪している北朝鮮のすべての悪徳な反国家勢力を根絶し、自由な憲法秩序を守るために、戒厳令を宣言する。
この非常事態令を通じて、破滅の淵に堕ちた自由な大韓民国を再建し、守っていく。そのために私は、廃墟となった国の犯人と、今まで腐敗を続けてきた反国家勢力を、必ず根絶する(以下略)」
こうして韓国で、45年ぶりに戒厳令が発出されたのだった。
1979年に朴正煕(パク・チョンヒ)大統領が部下に暗殺され、全斗煥(チョン・ドゥファン)将軍が軍事クーデターを起こして全権を掌握。戒厳令を敷いて、反対派を徹底弾圧した。
1980年5月に起こった光州事件で多数の若者が虐殺され、拷問を受けたことは、多くの韓国人の間で、まだ記憶に残っている。韓国人ばかりか、私のような50代以上の日本人にも同様だ。
お粗末極まりない「クーデター未遂」
ヨーロッパで2022年にウクライナ戦争が起こり、中東で2023年にガザ紛争が起こった。「次は東アジアの番」とは言われていたが、まさか「韓国有事」とは?
韓国は、あの「暗黒の軍政時代」に戻ってしまうのか――隣国で突如起こった「大統領のクーデター」に、私も気を揉みながら、眠れぬ夜を過ごした。
そうしたら、明け方になって事態は急展開した。4日午前4時27分、再び尹錫悦大統領が、龍山の大統領執務室に姿を現したのだ。
「国会から戒厳解除の要求があり、戒厳の業務に投入した軍を撤収させた。直ちに国務会議を開いて、国会の要求を受け入れて、戒厳令を解除する」
こうして「大統領のクーデター」は、わずか6時間で幕を閉じたのだった。まったくお粗末極まりない「クーデター未遂」で、「韓ドラ」を見ているかのようだった。
野党の「勝利の雄叫び」
韓国では憲法第77条5項の規定により、国会が在籍議員の過半数の賛成で戒厳解除を要求した場合、大統領はこれに応じなければならない。そのため、尹大統領は戒厳軍を国会に差し向けて、国会を封鎖しようとした。
ところが野党勢力の強硬な抵抗に遭い、戒厳軍の国会封鎖が遅れた。その間に国会の本会議場では、在籍議員190人の賛成によって、戒厳令解除決議案が可決されたのである。この中には、本来なら尹大統領を支持するはずの与党「国民の力」の議員も18人含まれていた。
国会前で、最大野党「共に民主党」を率いる李在明(イ・ジェミョン)代表は、「勝利の雄叫び」を上げた。
「今回の戒厳令自体が、実体的な手順、要件を満たしていない完全に無効のものだったのだ。そのため、いま行われた国会の解除議決をもって、違憲、無効であることが確実に確認された!」
今回の「大統領のクーデター」は、完全に尹大統領が自らの墓穴を掘るオウンゴールとなってしまった。「戒厳令」の成否はともかくとして、大統領が大変重い決断をしたのであれば、それを貫かなければならなかった。国民監視のもとでの「クーデター未遂」は、すなわち大統領の命とりである。
尹錫悦政権は終焉か
私は、本日2024年12月4日をもって、事実上、尹錫悦政権は終焉(しゅうえん)を迎えたと見ている。すでに側近たちの「辞表の山」となっている。
今後の展開は、まず今週土曜日に韓国全土で、尹大統領の退陣を求める大規模な「ろうそくデモ」が起こる。そして、デモに後押しされた国会が、大統領の弾劾(だんがい)手続きを進めていくだろう。
すなわち、2016年の秋から2017年の春にかけて、朴槿恵(パク・クネ)大統領に対して起こったことの繰り返しだ。尹大統領の任期は、2027年5月までだが、約2年前倒しされて、弾劾が成立。再び大統領選挙となるに違いない。
当選するのはおそらく、前述の李在明「共に民主党」代表だろう。日本では悪名高いあの文在寅(ムン・ジェイン)元大統領の愛弟子だ。
2022年5月に、韓国の大統領が文在寅氏から尹錫悦氏に代わって、日韓関係は「最良の時」を迎えた。岸田文雄首相との間で、実に12回もの日韓首脳会談を開催。慰安婦、徴用工、レーダー照射、旭日旗掲揚、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)、輸出規制、福島ALPS処理水という、いわゆる「日韓8大懸案事項」を、ことごとく解決に導いた。
「日韓冬の時代」の再来
ところが、李在明政権になれば、再び「悪夢の文在寅時代」が復活するのは確実だ。李代表の「反日ぶり」は、日本から見れば常軌を逸しているからだ。
過去の植民地支配(1910年~1945年)の問題は、1965年の日韓国交正常化で交わされた日韓基本条約によって終了したというのが、日本の立場だ。ところが李在明氏は、この条約は、軍事クーデターによって韓国を掌握した「違法政権」(朴正煕政権)によって交わされたものであり、両国の戦後処理は終わっていないと主張している。
実際、京畿(キョンギ)道知事時代には、「親日残滓(ざんし)清算プロジェクト」なるものまで立ち上げた。首都ソウルを取り囲む京畿道から、「親日的なもの」を徹底的に除去していくという運動だ。
石破茂首相は、11月29日の所信表明演説で、「韓国の尹錫悦大統領とも、来年、国交正常化60周年を迎える中、首脳会談も頻繁に行い、日韓関係を大いに飛躍させる年にしようということで一致しました」と力説した。
だが、来年の日韓国交正常化60周年に待ち受けるのは、おそらくは「暗澹(あんたん)たる日韓関係」だろう。「日韓冬の時代」の再来である。
そんな中で、石破首相が望む「来年1月の訪韓」など、実現するはずもない。石破首相は、「日韓蜜月時代」を演出した岸田前首相と比べて、つくづくツキのない首相と思う。
東アジアの国際情勢にも影響
逆に、東アジアで、「尹大統領のクーデター未遂」に快哉(かいさい)を叫んでいると思われるリーダーが二人いる。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と、中国の習近平国家主席だ。
金正恩委員長は、武器売却や兵士派遣でウラジーミル・プーチン大統領が多額の外貨を与えてくれる「ロシア特需」、3度も首脳会談を行ったドナルド・トランプ米大統領という「盟友の復活」に続いて、またもや「幸運」が飛び込んできたと、ほくそ笑んでいるだろう。何せ「民族の逆賊」(尹大統領)が退いて、「同盟より同胞」重視の李在明氏が、半年後にはトップに立つ気運が高まってきたのだから。上記のように、戒厳令布告の理由にも、尹大統領は北朝鮮問題を挙げていたのだ。
同様に習近平主席も、尹政権による「日米韓の揺るぎない絆(きずな)」に切歯扼腕(せっしやくわん)していただけに、「朗報」と捉えているだろう。
あまりにも稚拙な「大統領のクーデター未遂」は、韓国国内はもとより、東アジアの国際情勢をも一変させるものとなってしまった--。