ナイジェリアの神話「カメのおねがい」


この世のはじめには、誰も死ななかった。

カメにカメおくさん、男と女、石ころたち、この世にあるものはみんな、いつまでも生きていた。そういう風に決めたのは、この世の造り主であった。


ある日、カメとカメおくさんは、小さいカメがたくさん欲しいと考えて、造り主のところにお願いに行った。

造り主は言った。

「そうか、子供が欲しいのか。だが、よく考えなさい。子供を持つと、いつまでも生きていることはできない。いつかは死ななければならない。さもないと、カメが増えすぎてしまうからだ」。

カメとカメおくさんは答えた。

「まず、子供を授けてください。そのあとでなら、死んでもかまいません」。

造り主は言った。

「では、そのようにしよう」。


それから間もなく、カメとカメおくさんに、たくさんの子ガメが授かった。

人間の夫婦も、同じようにして造り主のところへ行き、子供を授かった。

石は、子ガメや人間の子供たちがよちよち歩き回ったり、楽しそうにしているのを見た。

けれども石は、子供を欲しいとは思わなかった。だから、造り主のところに行かなかった。

このようなわけで、いまでは、男も女も、カメもカメおくさんも、死ぬ時が来る。造り主が、そう決めたから。

けれども、石は、子供を持たない。だから、死ぬことはない。いつまでも、生きている。

(マーグリット・メイヨー再話、ルイーズ・ブライアリー絵、百々佑利子訳『世界のはじまり』岩波書店、一九九八年、三四~三七頁を参照し要約、一部引用した)