・「自閉症=プリオン病」仮説

中村 篤史/ナカムラクリニック

2023年8月17日

https://note.com/nakamuraclinic/n/n73df4a65dd01

※αシヌクレインという言葉は神経内科の先生に限らず、医学部なら学生時代に誰でも習います。アルツハイマー病とかパーキンソン病の患者の脳内に蓄積している異常タンパクの一種で、これらの神経難病はこのタンパク質のせいで起こるのではないかと考えられています。

このαシヌクレインが、なんと、自閉症とも関係してる可能性が指摘されている。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8768910/

まず、自閉症の子供たちに協力してもらって、小児自閉症評価尺度(CARS)でそれぞれの子供たちの重症度を評価します。さらに、採血して血中のαシヌクレイン濃度を測定する。そして、子供たちを2群に分ける。第1群は「従来型治療群」として行動療法とLカルノシン(1日500mg)で治療するグループ。第2群は従来型治療にプラスして、ベータグルカンのサプリ0.5gを1日2回投与する。

【結果】3か月後、ベータグルカンを投与された第2群の子供全員でCARSスコアが有意に減少した。また、血中のαシヌクレイン濃度は第2群で有意に高くなった。


この結果を見て、違和感を持った人もいるだろう。「第2群(ベータグルカン投与群)で症状が改善したのは分かる。しかし、第2群の血中αシヌクレイン濃度が上がっているのはどういうことか?αシヌクレインは神経難病を引き起こす異常タンパクなんでしょ?だから、ベータグルカン投与による症状改善とともにαシヌクレインの血中濃度は減少するはずではないか」と。

まさに、研究者もこれと同じ疑問を持ちました。論文のDiscussionで考察されている。

ベータグルカン投与で自閉症児のふるまいを評価するCARSスコアが改善したんだけど、具体的にどういう点が改善したのかというと、感情面のパラメーターと睡眠のパラメーターがよくなったんですね。

ベータグルカンの投与により睡眠の質が改善することには、すでに先行する研究があって、この研究では、ベータグルカンを投与した自閉症児で血中メラトニン濃度が上昇したことが示されている。これ、すごくないですか?

ベータグルカンというのは、要するにキノコの成分です。キノコというのは、結局のところカビ(真菌)です。麹とか味噌とか醤油とか日本の発酵文化はカビの恩恵にあずかったものです(納豆は細菌なのでちょっと別)。真菌の産生するベータグルカンが腸に好ましい影響を与えて、それがメラトニン分泌を促進し睡眠の改善を促した、というのが想定される作用機序です。だから自閉症児が、たとえば麹をしっかり食べたとしても、恐らく血中メラトニン濃度が上がるんじゃないかな。


さて、ベータグルカンを投与した自閉症児では、なぜ血中αシヌクレイン濃度が上がっていたのか?そもそもベータグルカンの投与とか関係なく、自閉症児の血中シヌクレイン濃度を調べた研究があって、

https://www.hindawi.com/journals/bmri/2018/4503871/

自閉症児群と正常対照群とで比較すると、前者は平均10.82 ng/mL、後者は平均29.47 ng/mLだった。つまり、自閉症児よりも正常児のほうが血中αシヌクレイン濃度が約3倍高かった。


さらに別の研究。

農薬や殺虫剤でパーキンソン病が誘発されることは以前の記事で紹介したことがあるけど、農薬(ロテノン)でパーキンソン病にしたネズミに対してベータグルカンを投与すると、パーキンソン病患者で本来見られるはずの中脳黒質のαシヌクレインの沈着が有意に減少していた。

これらの先行する研究を踏まえて今回の結果(ベータグルカン投与により症状が改善した自閉症児では血中αシヌクレイン濃度が増加している)を解釈すると、「自閉症児やパーキンソン病患者で血中αシヌクレイン濃度が低いのは、脳にαシヌクレインが凝集沈着しているせいではないか。逆に、ベータグルカンの投与によって血中αシヌクレイン濃度が増加するのは、脳に沈着したαシヌクレインがベータグルカンの作用で解離し血中に移行するせいではないか」といった仮説が考えられます。


もうひとつ、別の仮説として”腸内細菌原因説”がある。

エンテロバクターや大腸菌などグラム陰性腸内細菌のなかには、アミロイドを産生する菌がいることが知られている。このアミロイドがαシヌクレインのミスフォールディング(タンパク質の異常な折れたたみ)を引き起こし、不溶性のアミロイドとして沈着する。このアミロイドが迷走神経をつたって腸から脳へと(あるいは脊髄経由で脳へと)プリオンのように広がっていく。こうして、自閉症やパーキンソン病といった神経疾患が生じることになる。

これは非常に重要な指摘なので、以下のようにまとめておこう。




現代毒(添加物、農薬、ワクチンなど)が腸内細菌叢をかき乱す。これにより、機能異常に陥った腸内細菌のなかには、アミロイドを産生するものがでてきて、これがαシヌクレインのミスフォールディング(折れたたみ異常)を引き起こし、この異常タンパクがプリオンのように脳へと拡散していく。そのことにより、自閉症、パーキンソン病を引き起こす。
この考え方によると、自閉症やパーキンソン病はある種のプリオン病だということです。ウイルスや細菌が病勢を拡大するわけではなく、自分の体内でとめどなく増殖していく異常タンパクが脳神経の正常な機能を阻害して症状として出現するわけだから。


最近、コロナワクチン接種者のなかに多発しているということで注目されたヤコブ病だが、この病気は一般に100万人に一人に生じる極めてまれなプリオン病と言われているが、プリオン病の定義を広げると、自閉症やパーキンソン病もこのカテゴリーに分類されると考えることもでき、そうなるとプリオン病はそもそも全然珍しくない病気だとも言える。

この「腸内細菌原因説」を裏付けるように、冒頭の論文の著者らはさらに、ベータグルカン投与実験に参加した自閉症児の腸内細菌を調べた。すると、確かに、エンテロバクターや大腸菌が有意に減少していた。

これらの、いわば”悪玉菌”が減少したということは、当然腸内でのアミロイド産生や異常なαシヌクレインの産生も減少している。


しかし一方で、冒頭で紹介したように、血中のαシヌクレインが増加したのはなぜなのか。それは、ベータグルカンの投与によって活性化したナチュラルキラー細胞が脳に沈着したアミロイドを分解し、それが血中に流入したためだ。

以前の記事で、「アルツハイマー病は老人性自閉症であり、自閉症は小児性アルツハイマー病である」という意味のことを書いた。

https://note.com/nakamuraclinic/n/ne04c20465ee4

アルツハイマー病もパーキンソン病も自閉症も、これらはすべて異常タンパク蓄積病、つまりアミロイド病だといえる。

だから、治療法はそれぞれ別ものではない。アルツハイマーに効く栄養素や食事法は自閉症に効く可能性が高いし、自閉症に効く治療法がパーキンソン病に著効してもそれほど驚かない。

たとえば、コロナワクチン後遺症に効くとしてナットウキナーゼが最近話題だけれども、

『アルツハイマー病、プリオン病、その他のアミロイド性疾患に対してナットウキナーゼが効く』ということで特許が取られている。

こういうのを見たら、ナットウキナーゼがパーキンソン病や自閉症にも効く可能性を考える。それが応用というものです。

結局、100個の異なる病気(病名)があるとしても、それらが全部まったく別の病気かというとそうではなくて、せいぜい5パターンぐらいに大別できて、同じパターンに分類される病気なら同じようなサプリとか治療法でいけるんじゃないかな、ということを最近考えています。

たとえば、自家中毒(autointoxication)という病態がある。これは、ほとんど小児科でしか使わない言葉で、体内で脂肪が分解されて生じるアセトンのせいで嘔吐したりする病気のことを言うのだけど、この自家中毒という概念、体内で産生された物質が「毒」として自爆的に作用してしまう病態というのは、実は相当多いんじゃないかな。

当然、上記で見たように、自閉症、パーキンソン病、アルツハイマー病もそうだし、リウマチとかの自己免疫疾患もかなりそれに近い感じがしている。



・腸内細菌と神経難病

中村 篤史/ナカムラクリニック

2023年8月22日

https://note.com/nakamuraclinic/n/ndbc12fce7661

※以前の記事で、「自閉症児にベータグルカンを投与したところ、自閉症スコア(CARS)が改善し、血中αシヌクレイン濃度と血中メラトニン濃度が上昇した」という研究を紹介しました。

https://note.com/nakamuraclinic/n/n73df4a65dd01

昨日この論文の著者のSamuel Abraham博士と当院でお会いする機会があり、ベータグルカンが神経難病になぜ著効するのかについて直接レクチャーをしていただいた。


たとえば、以下のような研究。

アウレオバシジウム・プルランス(黒酵母)AFO-202菌株由来のベータグルカンサプリ(ニチグルカン)が自閉症児の症状改善に寄与することは以前の研究で示されているが、その際、腸内細菌叢にどのような変化があるかを調べた。

18人の自閉症児に協力いただいて、6人はコントロール群(第1群)として従来型の治療を受ける(Lカルノシン500㎎を1日1錠とか)。12人を第2群として、従来型治療にプラスして、ニチグルカン500㎎を1日2回服用する。これを90日続ける。

90日後、被験者の便サンプルを採取してゲノム分析をしたところ、第2群ではエンテロバクターがほぼゼロになっていた。一方の第1群では0.36%から0.85%に増加していた。第1群でバクテロイデスが増加していた一方で、第2群では減少していた。

要するに、ニチグルカンの服用で腸内細菌叢が変化することが明確に示されたわけです。具体的な変化としては、エンテロバクターが減少する(というかゼロになる)。これは症状の軽減にとってめちゃくちゃ重要です。というのは、エンテロバクターはcurli protein(アミロイドタンパクの一種)を産生するため、αシヌクレインのミスフォールディングや蓄積を引き起こすことが分かっている。つまり、「エンテロバクター=極悪人」です。ニチグルカンを飲むとこの極悪腸内細菌がゼロになるというのだから、飲まない手はないでしょう。


実際にパーキンソン病(PD)患者に対してベータグルカンを投与した研究。

AFO-202ベータグルカン3gを経口で90日間投与したところ、PD評価スコア(UPDRS)が43.25から40に低下した。認知機能、歩行とバランス、姿勢の安定度、便秘が改善した。便秘の重症度スコアは3から1.75に低下した。血中クレアチニン濃度が低下し、血中のグルコース濃度および脂質濃度が正常化した。MRIの画像所見が改善した患者もいた。


以下の研究はアブラハム博士のものではないけれども、内容がおもしろいので紹介します。

『抗生剤の使用とパーキンソン病のリスクについて』

PD、AD(アルツハイマー病)、自閉症など、神経難病の多くには腸内細菌叢がその発症(あるいは重症化)に関与していることが分かっている。それなら、ひょっとして抗生剤の服用がこれらの神経難病の原因になっている可能性はないだろうか?これについて調べた研究です。

1998年から2014年の間にフィンランドでPDの診断を受けた人(13976人)について、抗生剤の服用歴について調べた。一方、コントロール群(40697人)との比較から、条件付きロジスティック回帰分析で抗生剤のPD発症リスクを調べた。

結果、PD発症に最も強く関連する抗生剤は、マクロライド系とリンコサミド系だった(オッズ比1.416)。また、抗嫌気性菌の抗菌薬、テトラサイクリン系、サルファ系、トリメトプリム(葉酸阻害型抗菌薬)、抗真菌薬もPDの発症と正の相関が見られた。


たとえば、歯医者で抜歯とか何らかの処置を受けたとする。ほぼ確実に抗生剤が出ます。処置と抗生剤処方はワンセットです。

あるいは、風邪をひいたとして、すぐに病院に行くタイプの人がいる。こういう患者にも問題があるけど、医者にも問題があって、単なる風邪なのに抗生剤を処方する医者がいる。「ジスロマック(マクロライド系)を出しておきますね」とか。

こんなふうにして潜在的パーキンソン病患者が生まれていくわけです。

そもそも病院に行かなければ抗生剤を処方されない。抗生剤を飲まなければPDの発症リスクが高まることもない。

だから、僕は常々言っている。「病院なんて来るもんじゃないですよ。うちのクリニックも含めてね」と。


もうひとつ、同じような論文だけど、

『PD患者の腸内細菌叢の乱れは抗生剤が原因である可能性』

PD患者の大半では、その発症の数年前から何らかの消化器症状があり腸内細菌叢が乱れていることが分かっている。この消化器症状は抗生剤の使用が原因である可能性がある。抗生剤を使うと、腸内のいわゆる善玉菌が減少し、curli(アミロイドタンパク)を産生するエンテロバクターが増加する。curliは細菌由来のαシヌクレインのことで、これが腸の神経にアミロイドとして蓄積し、このアミロイドタンパクがプリオンのように中枢神経系に侵入していく。さらに、抗生剤は慢性的な炎症を引き起こし、これが腸および中枢の神経系のダメージの一因となる。これらは、EUの抗生剤使用量とPD発症率との比較により、裏付けられている。実際我々は、ペニシリン系抗生剤とPD発症のあいだに有意な正の相関を見出した。