・北朝鮮の「平壌」に住んでみたら…! “250万人住民たち”のヤバすぎる「生活」「職業」「娯楽」など全公開…!(現代ビジネス 2022年12月20日)
郭 文完
※北朝鮮の「知られざる生活」
韓国は文在寅政権下で徹底した従北姿勢を貫いた。
その姿勢に賛同する市民団体、支持者たちは口を揃えて「北朝鮮は同民族だ」と唱えながら、韓国を左派思想へと侵食していった。
何も知らない韓国の若い世代の多くがこの左派思想に従った。
しかし、彼らは果たして北朝鮮をどれほど知っているのだろうか。
多くの世間知らずな左派的若者たちは、万が一、北朝鮮へ移住をしても平壌にすぐ住めると思っているようだ。
しかし、そんなことは“あり得ない”。もちろん、彼らだけではなく、世界中の人もほとんど「北朝鮮に住む」ということがどういうことなのか、まったく知らないだろう。
韓国在住の在日3世の友人の叔父は71年、日本の朝鮮大学選抜組で本人の意思とは関係なく、北朝鮮にわたってロシア国境近くの農園に送られた。
日本の家族が78年から総額1億円以上を寄付、送金していまは平壌に住んでいるが、その寄付、送金はいまも続いていると話す。いったい、なぜか。
「平壌居住制度」とはいったいなにか…?
北朝鮮では、それほど平壌に住むというのは「特別」なことなのだ。ではいったい、どういう人たちが、どういった「条件」を満たせばそこに住むことができるというのか。
現在、平壌市の人口は、約250万人である。
もともとは300万人ほどだったが、北朝鮮政府が、平壌市周辺の行政区域を大幅に整理および統廃合して、50万人程度が減少した。
これは、 「平壌市管理法」による措置だ。2014年に修正補充された「平壌市管理法」には、どんな人間が平壌に居住できるのかに関しての、おおよその内容が記載されているのだ。
しかしこれは、北朝鮮政府が、対内外への発表用として明示したものでしかなく、実際に平壌に居住することができる内部制度が「別」に存在している。
それは、平壌居住制度を実質的に承認して執行する、最高決定機関である内閣事務局と中央党行政府に「内部別途指針書」として極秘に存在するものだ。
その「内部別途指針書」には、どのような「平壌居住制度」が指示されているのか。そんな北朝鮮にだけ存在する特別な「平壌居住制度」とはいったい何なのか。
その実体を明かそう。
北朝鮮にだけ存在する特別な「平壌居住制度」三種類
まずなにより「平壌居住制度」の核心原則は、北朝鮮最高指導部に対する絶対的な忠誠心である。
この件について、以前、金日成(キム・イルソン)が、「平壌市は、革命の首都なのだから、党を擁護する人々以外は、住む権利がない」と言ったことがある。
ここで党とは、北朝鮮最高指導部を意味する言葉である。
したがって、北朝鮮では、いくらお金が多くても、いくら平壌に生まれたからといっても、北朝鮮最高指導部に対する忠誠心がなければ、絶対に平壌に居住することはできない。
このような「平壌居住制度」の核心原則に基づき、平壌に居住できる制度は、次のように、大きく三種類に分類される。
一番目は、平壌出身者に対する居住制度だ。
平壌で生まれた人々は、故郷住居原則によって、優先的に平壌に居住する資格が与えられる。しかしこの場合、北朝鮮最高指導部に対する絶対的な忠誠心があればこそ、可能である。
いくら平壌で生まれたからといっても、北朝鮮指導部に反する行為を働いた者に対しては容赦なく追放するのが、現在、北朝鮮で実施されている「平壌居住制度」の一貫した原則である。
「地方出身者」の場合
したがって、平壌市民は、いくら北朝鮮政権に不満があっても、自分や子孫が、平壌市民資格を剥奪されることを憂慮して、無条件に順応して暮らしている。
平壌出身者のほとんどが、北朝鮮指導部に忠誠を示した身分の良い親から、平壌に居住できる資格を相続しているのだ。
二番目は、地方からの流入人口に対する居住制度だ。北朝鮮において、地方出身者が平壌に流入するケースは、大きくふたつある。
ひとつは、地方にあった機関や企業所が、北朝鮮指導部の決定によって、平壌に移転して来る場合だ。例えば、地方にあった「山林研究所」が、ある日突然、平壌市録化事業で一大転換を起こせという金正日(キム・ジョンイル)の指示により、平壌に移転して来たことなどが、その代表的な事例だ。
このように、地方から平壌へ、機関を移転する場合に流入する人口を「機関移転流入人口」という。
北朝鮮の「オリンピック選手」の場合
もうひとつは、北朝鮮指導部の指示によって、平壌に新しい機関が設立される場合だ。この場合の流入人口は、「新設機関流入人口」という。
例えば、詐欺師、鄭明鶴(チョン・ミョンハク)が、ほこり中から金をつかみ出す技術を開発したと大ぼらを吹いて、北朝鮮最高指導部が新しく新設した「ナノ金研究所」がその代表的な事例といえる。
このとき、鄭明鶴が、ナノ金関連技術者といって、地方から流入させた「新設機関流入人口」が300人ほどいた。
三番目は、功労者居住制度だ。帰国事業で北朝鮮に渡った人々(在日、日本人)は金銭的な功労が認められれば、ここに属することができる。北朝鮮のために功績を挙げた人々に、表彰として与えられる平壌居住権付与制度だ。
ここには、世界選手権大会や国際オリンピックなどで1位を取り、北朝鮮国旗を掲げたスポーツ選手なども含まれる。北朝鮮の選手が、スポーツに命をかける理由のひとつが、この「功労者居住制度」のためなのだ。
平壌居住権を受けるのが、彼らにとって、子孫を平壌出身者にすることができる、ほぼ唯一の身分上昇の機会である。功労者居住制度には、軍に一生服務した除隊軍官も含まれる。
平壌市民にだけ与えられる「配給恩恵」
北朝鮮では、軍官経歴が満25年で、平壌に居住できる資格が付与される。一般兵士服務過程が満10年で、軍官服務過程が満25年なので、35年以上、軍に服務すれば平壌に居住できる資格が得られるわけだ。
功労者居住制度には、難破した漁船で、船室に飾られた金日成の肖像画を体に抱いて死んだ漁師の子孫もいる。最高尊厳に対する父の忠誠心による功労で、子供が平壌居住権を受けることになったのだ。
このため北朝鮮住民は、死ぬ瞬間にも、どうすれば自分の死が、子供の利益につながるか、考えるようになるのだ。
では、「平壌居住制度」による恩恵はいったいどんなものがあるのか。
一番目は、平壌市民にだけ与えられる「配給恩恵」だ。
配給とは、北朝鮮政府が、北朝鮮住民に対して行う食糧の供給制度である。過去には北朝鮮全域が配給を受けることができたが、いまは経済状況が難しい関係で、平壌市民にだけ配給が与えられている。
「平壌市民証」の実態
現在、米1kgあたり価格が配給所では45ウォンだが、市場では6,500ウォンほどだ。
つまり、平壌市民は、米1kgを45ウォンで買えるのに、地方住民は6,500ウォンで買わなければならないということである。おおよそ、100倍以上の物価の差が、平壌市民と地方住民の生活の差となる。
そのほか、副食物も北朝鮮の地方住民にはまったく供給されることはなく、市場での販売価格で購入しなければならないが、平壌市民は国家が決めた公示価格で副食物供給されている。このように平壌市民は、地方住民にくらべて、より良い基本的な生活条件の恩恵を受けることができるのだ。
二番目は、平壌市民になれば、「通行証」なしに、北朝鮮全域を移動できる恩恵が与えられる。
軍事境界線地域や、北朝鮮-中国-ロシア国境沿線地域を除いた一般的な地域を、平壌市民は「通行証」なしに行き来することができるのである。「平壌市民証」=「通行証」なのだ。
これは、住居、移動の自由が、徹底的に制限された北朝鮮では、途方もない恩恵である。地方住民は「道(地方行政区間)」をまたがって移動するときは、必ず「通行証」の発給が必要だが、平壌市民は自分たちが持っている「平壌市民証」ひとつだけで、移動が可能だ。
北朝鮮住民が「死ぬ前に必ず一度行ってみたいとこ」
三番目は、平壌の便利な生活文化環境と教育施設である。
劣悪な地方の生活文化環境にくらべて、平壌は発展した文化生活環境がそろっている。紋繍遊泳場、朝鮮中央動物園、体育館、平壌スケートリンク、蒼光院のプール、それに玉留館、清流館(どちらも高級レストラン)など、平壌には、生活文化施設がたくさんある。
ゆえに、北朝鮮の地方住民の間では、「死ぬ前に必ず一度行ってみたいところは、平壌」という言葉も出回っている。それだけでなく、平壌には、万景台学生少年宮殿を始めとして、子供のための教育施設もたくさんそろっていて、地方住民には、平壌こそが、子供教育のための憧れと羨望の対象なのだ。
このように「平壌居住制度」には、平壌出身居住制度、地方流入人口居住制度、功労者居住制度がある。
北朝鮮が、このような「平壌居住制度」を設けたのは、首都に対する人口集中現象を防いで、最高指導部のいる平壌の生活環境圏を守るためということもあるが、それよりは、「革命の首都」と象徴される、平壌居住権を利用して、最高指導部に対する住民の忠誠心を誘導する手段として活用するという目的が、より大きくなったものだろう。
住民の忠誠心
北朝鮮だけの特別な「平壌居住制度」――。
それは、一見、首都への人口集中現象を防ぎ、平壌の生活環境権を保護するという美名のもとに実施されている制度だ。
が、実際は、平壌居住権を利用して、住民の忠誠心を誘導するための「表彰手段」なのだ。
・北朝鮮の知られざる「真実」…! 平壌の「贅沢生活」から「貧しい山奥」へ”突然追放される人たち”のヤバすぎる末路…!(現代ビジネス 2022年11月3日)
郭 文完
※北朝鮮・平壌市民に対する「追放制度」の実態
北朝鮮には住民追放制度がある。
平壌や道都に住む人々を山奥の村や炭鉱、鉱山地域に強制移住させる制度だ。
隣人が一夜にして姿を消したり、追放されたりといったことが日常的に起きている。
それでは北朝鮮はどういう基準で住民を強制追放しているのだろうか。
北朝鮮は、平壌市民をいくつかの基準で強制的に追放している。
第一は「本人の過誤」による追放だ。
刑法に違反にした人が対象で、殺人、強盗、強姦、詐欺、横領などの犯罪事件を起こすと刑が下され、家族も追放される。 犯罪者は「革命の首都平壌」に住むことはできないという理由からだ。
追放先は裁判所の判決による。犯罪者や家族に選択権はない。本人は教化所に入り、家族は裁判所が判決を下した地に追放される。
平壌から追放される人は、多くが山間内陸地域に送られる。海辺や中朝国境沿線や韓国と隣接している休戦ラインの近くに追放すると、脱北する恐れがあるので、身動きが取れない内陸地域の山間奥地村に追放して社会から隔絶させるのだ。
「山」へ追放される人たち
内陸山間部には平壌から追放された人々が集まっている村が多い。
それらの地域で生まれた地元の人たちは、平壌から追放されてきた家族を見て「平壌で贅沢な暮らしをしてきたのだから、これからは奥地の暮らしを味わえ」と差別して冷遇することが多い。
平壌から追放された人たちは、北朝鮮政権に対する不満と山間奥地の住民への恨みを抱きながら生きていくことになる。
いつ街から追放されるかわからない
第二は、「連座制」による強制追放だ。犯罪者と特定の関係がある人に連帯責任を負わせる制度である。
血がつながった家族や親戚に対する処罰で、父親が過ちを犯すと息子が連座制の対象となり、子供が過ちを犯すと親や兄弟が連座制の対象となる。
以前は4親等の血族まで適用されたが、今は父子と兄弟間に適用対象が狭まっている。連座制の対象者があまりにも多いからだ。女性は連座制から除外されることがある。
夫が犯罪を犯すと、妻と子供には原則的に連座制が適用されるが、妻が犯罪者の夫と離婚すると対象から除外される。離婚した夫婦は他人という判断だ。しかし、犯罪を犯した夫の苗字を継ぐ息子は連座制が適用される。
また、嫁入りした娘も連座制の対象から除外される。嫁いだ女性は実家ではなく、「婚家の家族」とみなされる。封建時代から続く血統中心の政策による。
第三は、「動向分類」による追放だ。
平壌市民は人民班長や隣人などから常に監視されている。日頃、北朝鮮の制度についてどう話しているか、人民班生活に真面目に参加しているか、平壌市民としての風貌や資質があるかなど、各家庭の動向資料を元に分類し、追放対象者が選定される。
平壌市の人口を調整するとき、1次追放対象に分類される。平壌市民は普段から言動に注意して、薄氷の上を歩くような生活を送っている。
「地方住民」の追放制度もある
地方都市の住民を山間部に追放する制度もある。
道都は平壌より劣るとはいえ、農村地域や山間部の奥地とは比較にならないほど生活しやすい。北朝鮮政府は道都の住民を追放する制度も実施している。
まずは、「生活評価」による追放だ。道都の住民の中には、国が定めた工場や職場に通わず、不法商売で食べている人が少なくない。
このような無職者の生活を評価して、農村人材を補強するため、定期的に追放している。
兵役忌避者や現職勤務忌避者、人民班生活への不真面目な参加者、離婚者が含まれる。北朝鮮政府は地方の道都を革命の首都に次ぐ重要都市と考え、不純分子が住むことはあり得ないとして、5年から10年単位で地方追放制度を実施している。
「反逆者」を出した家庭では…
次は、「家族環境」による追放制度だ。
連座制と似た追放制度で、家族の中に韓国に脱北した人や中国に越境した人がいると山間地域に追放される。反逆者を出した家庭を道都で生活させることはできないという理由だ。
生活が厳しい農村や炭鉱、鉱山地域に追放し、祖国への反逆者を生んだ罪を一生負わせる追放制度だが、むしろ脱北が加重する事態をもたらした。こんな暮らしをするくらいなら、命をかけて韓国に向かう方が良いという反感が増大した。
3つ目は、「資源進出」の追放制度だ。
本来、追放は社会秩序を維持する名目で規範や規定に違反した者を地域外に強制退出させる制度である。
しかし、「資源進出」は違っている。
もっと怖い「政治収容所」
北朝鮮の人々は農村や炭鉱、鉱山地域に行こうとしない傾向が強い。 暮らしにくい苦しい地域だからである。
そこで、北朝鮮政府は労働力を拡充・補強するため、「農村進出」「炭鉱進出」「鉱山進出」や「資源進出」を強要している。
農村や炭鉱、鉱山地域で生まれた人々を「農村地域縁故者」「炭鉱地域縁故者」に分類し、「資源進出」を口実に、強制追放制度を実施しているのである。
北朝鮮は、平壌と地方を問わず、全国規模で強制追放制度を実施している。
強制追放制度は、政治犯収容所に収監された人々には適用されない。政治犯収容所は一度入ると出ることができないからだ。
北朝鮮の追放制度は、平壌と全国の地方都市で実施されている住民に対する統制と管理、処罰と体制維持の手段なのである。
・命がけ、北朝鮮「送金」の全真相! 「ブローカー依頼法」「手数料&口止め料の相場」「もし捕まったら…」など、過酷すぎるその“一部始終”(現代ビジネス 2022年11月1日)
郭 文完
※北朝鮮、知られざる「送金事情」
コロナ感染が長期化しているいま、韓国および海外に居住する脱北者が、北朝鮮内の家族への送金経路が停滞していると困っている。
国連は、海外移住民による本国への送金が国家経済に大きく寄与するとして送金手数料を下げるように訴えたが、北朝鮮政府は、逆に脱北者による北朝鮮内の家族への送金を完全に遮断しようとしている。
韓国社会に対する北朝鮮住民の羨望と幻想が大きくなり、北朝鮮体制を押し倒すことになるかもしれないという憂慮のためだ。
締め付けを強化している
そのような中でも、北朝鮮家族に対する脱北者による送金は続いている。一体、脱北者は、北朝鮮内の家族にどのようにお金を送っているのだろうか。
脱北者による北朝鮮家族への送金は、ほとんど中国ブローカーを通じて行われる。
中国ブローカーが、北朝鮮ブローカーと連結して、銀行送金の役割を代行しているのだ。
北朝鮮に送金するためには、まず、北朝鮮にいる家族が、北朝鮮と中国の国境沿線地域に出て来なければならない。
ブローカーの「動き方」
そこで初めて、中国の携帯電話を持っている北朝鮮ブローカーを通じて、韓国にいる脱北者を呼び出すことができる。
北朝鮮と中国の国境沿線地域は、中国の移動通信社の通話半径の中に属しているので、中国の携帯電話を使用することができるのだ。
中国から韓国に、国際電話をするのと同じように通話ができるということだ。
電話でやり取りする
したがって、韓国に住んでいる脱北者からの送金を受け取るためには、北朝鮮家族の中の誰かが、北朝鮮と中国の国境沿線地域まで、必ず出て来なければならない。そしてそこで、中国の携帯電話を所有している北朝鮮ブローカーを通じて、韓国に住んでいる脱北者に、「暮らしが大変で、だからお金をちょっと送ってもらえないか?」と、電話をかけることができるのである。
このとき、中国の携帯電話を所持している北朝鮮ブローカーは、北朝鮮に住んでいる華僑、あるいは中国に親戚がいる人物である可能性が高い。
そうでなければ、合法的に中国に出入りして、中国ブローカーとお金のやり取りをすることはできないからだ。
「認証手続き」はこうして行われる
北朝鮮に住んでいる家族から、送金要請を受けた韓国内の脱北者は、北朝鮮ブローカーに送金する口座番号を尋ねる。
すると、北朝鮮ブローカーは、自身と関連している中国ブローカーの電話番号を教え、そこに電話して口座番号を教えてもらって送金すればいいと、指示を出す。
韓国内の脱北者は、電話を切って、北朝鮮ブローカーが教えた中国ブローカーに電話し、送金する中国の銀行口座を尋ねる。
すると中国ブローカーは、中国の口座番号を教え、韓国の脱北者は、中国ブローカーに教えてもらった中国の口座に送金する。
そうして再び、中国ブローカーに電話して、「たった今、韓国の金額で100万ウォンを送りました。確認して電話ください」と言い、中国ブローカーは、入金を確認後、韓国にいる脱北者に電話し、「正確に韓国の金額で100万ウォンを受けとりました。30分後に北朝鮮側に、再び電話してください。向こうでは、手数料30%を差し引いた金額を渡すでしょう」と伝える。
すると、送金した韓国の脱北者は、30分後に、再び北朝鮮側ブローカーに電話して、「どうなりましたか? 30分前に韓国の金額で100万ウォンを、中国の方に入金しましたが、連絡は受けたましたか?」と尋ねる。
北朝鮮側ブローカーは、「たった今、中国の方からお金を受け取ったという連絡がありました。手数料30%を引いて、韓国の金額70万ウォンをあなたのご家族にお渡ししたので、直接確認してみてください」と言い、北朝鮮の家族と電話を代わってくれる。
お金を受け取った当事者が、無事にお金を受け取ったことを確認させるための一種の認証手続きである。
「口止め料」はいくらか…?
ここで、70万ウォンに該当するお金は、北朝鮮ブローカー自身が所持していたお金を、北朝鮮内の脱北者家族に渡すのだ。
北朝鮮ブローカーは、中国に自由に行き来することができるので、この後中国に渡り、中国ブローカーから元金を受け取り、手数料30%の分け前を分配するのである。
ただし、北朝鮮にいる家族がお金を受け取ったことを確認した韓国側の脱北者は、もう一度、虚脱感に陥るのだった。
北朝鮮では、韓国のお札は使用できないので、北朝鮮ブローカーは、ドルや中国元、あるいは北朝鮮の貨幣に両替して渡さなければならない。
両替はどうするのか
この過程で、さらに両替手数料まで取られるのである。韓国の金額100万ウォンを送金すれば、手数料30%を差し引かれ、両替で10%をまた取られ、結局、60万ウォン程度しか、北朝鮮家族は受け取れないのである。
このようにして60万ウォンを受け取り、家へ帰った北朝鮮家族は、ここでまた、自分たちを監視している保衛院(公安)や保安員(警察)にお金を取られる。
お金の入手経路を明かすことはできないため、仕方なく口止め料として、60万ウォンを半々にした30万ウォンを彼らに支払わなければならないのだ。
脱北者は、北にいる家族に、いくらお金を送っても焼け石に水だと、深いため息をついている。
お金もすべて奪われ、監獄行きとなり獄死した…
それだけではない。手数料30%、両替料10%を搾取され、保衛院や保安員に15%を支払い、残った30万ウォンを、さらに家族と親戚らで分けて使わなければならないのだ。
これもまた、北朝鮮家族にとっては大きな負担だ。
実際、一度お金を送ると、北にいる脱北者の家族間にひびが入るともいわれている。
脱北者は、お金を送るとき、ご両親と同居している兄弟にお金を送る場合が多い。すると別居している兄弟は、これに対し不満を持ち、それゆえ兄弟間の関係が疎遠にならざる得ないということが起きているのだ。
だからご両親が亡くなったら、これ以上お金は送らない、という脱北者も少なくない。
さらに最近になっての問題は、脱北者による北朝鮮家族への送金を狙った、北朝鮮保衛院の計画的な詐欺である。
このところ、保衛院の生活も厳しくなって、脱北者のいる北朝鮮家族を相手にした、保衛院の送金恐喝詐欺が深刻になっているのだ。
ある脱北者は、北にいる家族に韓国の金額で200万ウォンを送ったのだが、その後の信じられないような便りに、衝撃を受けて病に伏してしまった。北朝鮮に送金したのだが、そのお金を受け取って家へ帰った家族が、潜伏していた保衛院の取り締まりに捕まって、お金もすべて奪われ、監獄行きとなり獄死した、という消息を聞くはめになったのだ。
命がけだ
保衛院が、北朝鮮ブローカーと裏で手を組み、お金を受け取って戻って来た脱北者家族を現行逮捕したのだ。
北朝鮮政府が、脱北者による不法送金を防ぐために、韓国と連絡をとり合ってお金を受け取る者を申告すれば、そのお金は申告者に全部渡すと約束したのが、元凶だ。
それにより、保衛院は、北朝鮮ブローカーと回収したお金を山分けにすることにし、お金を受け取る現場周辺に潜伏して、脱北者家族を逮捕し、お金を奪って、監獄に掘り込んで獄死するように仕向けたのだ。
脱北に対する幻想と憧れが広がることを憂慮した北朝鮮政府が、不法送金に対して強力措置を取っているため、北朝鮮送金は本当に命がけで現在も行われている。
最近では、手数料30%も昔話になってしまった。長引くコロナによって、北朝鮮ブローカーも、以前のように中国に出入りすることができなくなり、北朝鮮送金手数料は、50%まで跳ね上がっているという。いやそれどころか、そもそもブローカーがいなくなってしまったという。
国連は海外にいる移住民が本国に送る送金手数料の下げようとしたが、脱北者は、北にいる家族に生計費を送るために、命がけの不法送金と、殺人的な手数料に苦しめられているのだ。
・北朝鮮「ヤバすぎる就活事情」を“北朝鮮元住民”が初めて明かす…! 「身元調査」「成績」の“使われ方”から、飛び交う「賄賂」「人脈」の壮絶すぎる現実…!(現代ビジネス 2023年3月5日)
郭 文完
※知られざる北朝鮮「ヤバすぎる就活事情」
韓国での大学4年生の悩みは、一に就職、二に就職と、就活がそのすべてともいえるだろう。大学卒業後、どんな仕事につくかによって、その後の人生が大きく決まってしまうからだ。
だが、北朝鮮の大学生にとっては、一に配置、二に配置と、配置こそが悩みの種となっている。就職と配置、それほど大差がないように思われるかもしれないが、その差は歴然たるもので、「選択の自由があるかないか」という大きな違いがあるのだ。
韓国の大卒者の就業制度には、個人の職業選択権あるが、北朝鮮の大卒者配置制度には、個人の職業選択権がほとんどないのである。
知られざる北朝鮮だけの独特な大卒者配置制度とその就活事情について明かそう。
北朝鮮の大卒者配置制度は、朝鮮労働党が直接配置する「党派遣制度」といえるだろう。
北朝鮮の大卒者は、自分が望む職業を選択するのではなく、党が配置した職場に就くよう任命される。一種の派遣制度なのだ。
例えば、「金日成総合大学哲学部の卒業生××は、党の偉大なる政治的信任により、社会科学院研究所に配置する」と党が発表すれば、そのときから××は、朝鮮労働党からの「党派遣状」を持って、党が配置した「社会科学院」に行き、研究所に勤める。そんなシステムなのである。
「国」が望む職場
北朝鮮が、このように一方的に、大卒者を配置する理由は、北朝鮮のすべての大学が授業料制度ではないからだ。
国がおカネを出し、無料で教育を施した大学生なのだから、大学を卒業した以後も、個人が望む職種ではなく国が望む職場に配置されて働かなければならないという論理だ。
北朝鮮で、大卒者の配置を主幹する機関は、「朝鮮労働党行政幹部」である。「行政幹部」とは党幹部ではなく、一般行政経済幹部を任命する部署だ。5年制以上の北朝鮮の大学は、一般の民族幹部の養成を目的としているため、大卒者に対する配置は「中央党行政幹部」が担当している。
例えば、ある工場なり企業所に、「支配人」と「党秘書」がいたとすると、支配人は「行政経済幹部」であるため「行政幹部」が任命し、党秘書は「党幹部」なので「党組織指導部幹部科」が任命することとなる。
この古くからつづく、北朝鮮政府による大卒者配置制度の原則は大きく3つある。
「面接」と「身元調査」の実態
まずひとつ目が、面接および身元調査制度である。北朝鮮の大学生は、卒業が近づくと面接を受ける。
面接の主催は、大学の人事課と中央党の人事課から派遣された幹部である。韓国では、大学生が自分たちが入りたいと思う機関や会社に行って、面接を受けるのが普通だが、北朝鮮では、大卒者を配置する党人事課が面接をする。
この過程で重視される点は、面接者に対しての身元調査と、現行の生活資料である。この面接者が、党が配置した職場で党と国家に忠実な人間として働くことができるのかできないのかを見極めるためである。
ここでの身元調査は、面接者本人に対するものではなく、彼の出身や家族および親戚に関する身元調査だ。
北朝鮮では、大卒者に対する配置基準でも、連座制や出身などを非常に重視するのだ。もし、身元調査過程で問題があるとされた者は、卒業後の配置を受けにくくなるとか、一番良くない職場へ送られるのだ。
席順がそのまま「成績順」
ただし、面接を受ける前に、卒業予定者は、自分たちが望む職場に関する配置希望書を書くのだが、これはどこまでも形式的な手続きでしかない。
職業選択の自由があることを示すために、北朝鮮政府がかなり以前から形式的に行っているだけなのだ。したがって、配置希望はあくまでも参考事項でしかなく、それ以上の意味は持たない。
ふたつ目が、成績順による配置制度である。北朝鮮の大学の成績採点制度は5点満点だ。5点は最優等、4点は優等、3点は普通、2点以下は落第である。
このように、最優等、優等、普通、落第と、区分されている北朝鮮の成績採点制度は、その後の卒業生の配置過程で決定的な役割を果たすのだ。なぜなら、成績順によって、配置順位が決まるからである。
北朝鮮の大学卒業生は、卒業式の何日か後に卒業配置を受ける。このとき、卒業生は、党からの挨拶幹部から卒業配置の発表を受けるために、講堂や会議室のような場所に集められるのだが、その席順がまさに成績順となっている。
「T.O.」とはなにか…?
最前列に最優等生を、その次に一列空けて優等生を、その次にまた空けて普通生を座らせるのだ。
北朝鮮の大学卒業生にとってはもっとも苦々しく、またはもっとも胸がいっぱいになる悲喜こもごもな瞬間である。
誰が見ても、最前列に座った卒業生は勉強のできる最優等生で、その次に座った卒業生は優等生、一番最後列に座った卒業生はその他大勢の3点の普通生なのだから、大卒者配置制度において、成績は配置順を決める優先順位に直接かかわる重要なポイントなのだ。
3つ目が、卒業生を配置する国家機関に対する、T.O.(table of organization)である。T.O.とは、規定によって定められた機関人数のことだ。
北朝鮮のすべての国家機関は、毎年、退職者に対する統計資料によって、新入職員に対する要求事案を中央党人事課に報告しなければならない。
これによって、大学卒業生に対する配置の可否を中央党人事課が決めるというシステムである。したがって、どの国家機関にどのようなT.O.が出たのかも、北朝鮮の大卒者配置制度で見逃すことができない部分である。
まさに「命がけ」
上記3つが、「北朝鮮の大卒者生配置制度の原則」なら、今から述べる3項目は、現在の北朝鮮で行われている「大卒者配置制度の現状」だ。いくら北朝鮮の大卒者配置制度に個人の選択権がないとはいっても、個人の努力をする権利さえも失われたというわけではない。
卒業を控えた北朝鮮の大学生たちは、自分が持っているすべての人脈と賄賂などを総動員して、自分たちの未来がかかっている卒業配置に命を懸けるのだ。
その最初がまず「未配置」制度である。北朝鮮の大卒者配置は、その大部分が大勢の人間が集まった場所で発表されるため、このとき、成績が良くない卒業生が自分より成績が良い卒業生よりさらに良い機関に配置されたりすれば、集団的な抗議が起きることとなる。
したがって、中央党人事課幹部と密かに手を打っていた卒業生は、大勢の人間が集まった場所で発表されるときには「未配置」として発表されてから、後に、個別に配置されるという形になる。
「未配置」とは、「配置を受けることができなかった卒業生」という意味である。
人脈を活用せよ!
「未配置生」と発表されれば、少なくとも1ヵ月、長ければ3ヵ月程度休むことになる。
それだけの時間が過ぎれば、高まっていた卒業配置の雰囲気も収まるため、その後に、個別に手を打っておいた自分が望む機関に配置されるというわけである。
ふたつ目は、1次配置地から、2次配置地へ「再配置」を受けることだ。これは、最初に配置を受けてから適当な人脈やロビー対象を探す場合に、主に使われる方式である。
1次配置地から2次配置地に移るのは卒業配置がすべて行われた以後、個人的な方法で行われるため、卒業配置生のときに集団的な抗議などを受けることがないという長所がある。
3つ目は、自分が通った大学の大学院や博士院などの研究所に配置されることだ。
この場合、その後の3年ほどの大学院や博士院の期間終了後、再配置を受けることができ、便法的な配置制度のひとつとして役立っている。
壮絶なあがき
北朝鮮の大卒者配置制度。
それは、職業選択の自由がない北朝鮮の大卒者が、合法と賄賂の間を行き交って繰り広げる、自分たちの運命を自ら切り開くための壮絶なあがきなのだ。
郭 文完
※北朝鮮の「知られざる生活」
韓国は文在寅政権下で徹底した従北姿勢を貫いた。
その姿勢に賛同する市民団体、支持者たちは口を揃えて「北朝鮮は同民族だ」と唱えながら、韓国を左派思想へと侵食していった。
何も知らない韓国の若い世代の多くがこの左派思想に従った。
しかし、彼らは果たして北朝鮮をどれほど知っているのだろうか。
多くの世間知らずな左派的若者たちは、万が一、北朝鮮へ移住をしても平壌にすぐ住めると思っているようだ。
しかし、そんなことは“あり得ない”。もちろん、彼らだけではなく、世界中の人もほとんど「北朝鮮に住む」ということがどういうことなのか、まったく知らないだろう。
韓国在住の在日3世の友人の叔父は71年、日本の朝鮮大学選抜組で本人の意思とは関係なく、北朝鮮にわたってロシア国境近くの農園に送られた。
日本の家族が78年から総額1億円以上を寄付、送金していまは平壌に住んでいるが、その寄付、送金はいまも続いていると話す。いったい、なぜか。
「平壌居住制度」とはいったいなにか…?
北朝鮮では、それほど平壌に住むというのは「特別」なことなのだ。ではいったい、どういう人たちが、どういった「条件」を満たせばそこに住むことができるというのか。
現在、平壌市の人口は、約250万人である。
もともとは300万人ほどだったが、北朝鮮政府が、平壌市周辺の行政区域を大幅に整理および統廃合して、50万人程度が減少した。
これは、 「平壌市管理法」による措置だ。2014年に修正補充された「平壌市管理法」には、どんな人間が平壌に居住できるのかに関しての、おおよその内容が記載されているのだ。
しかしこれは、北朝鮮政府が、対内外への発表用として明示したものでしかなく、実際に平壌に居住することができる内部制度が「別」に存在している。
それは、平壌居住制度を実質的に承認して執行する、最高決定機関である内閣事務局と中央党行政府に「内部別途指針書」として極秘に存在するものだ。
その「内部別途指針書」には、どのような「平壌居住制度」が指示されているのか。そんな北朝鮮にだけ存在する特別な「平壌居住制度」とはいったい何なのか。
その実体を明かそう。
北朝鮮にだけ存在する特別な「平壌居住制度」三種類
まずなにより「平壌居住制度」の核心原則は、北朝鮮最高指導部に対する絶対的な忠誠心である。
この件について、以前、金日成(キム・イルソン)が、「平壌市は、革命の首都なのだから、党を擁護する人々以外は、住む権利がない」と言ったことがある。
ここで党とは、北朝鮮最高指導部を意味する言葉である。
したがって、北朝鮮では、いくらお金が多くても、いくら平壌に生まれたからといっても、北朝鮮最高指導部に対する忠誠心がなければ、絶対に平壌に居住することはできない。
このような「平壌居住制度」の核心原則に基づき、平壌に居住できる制度は、次のように、大きく三種類に分類される。
一番目は、平壌出身者に対する居住制度だ。
平壌で生まれた人々は、故郷住居原則によって、優先的に平壌に居住する資格が与えられる。しかしこの場合、北朝鮮最高指導部に対する絶対的な忠誠心があればこそ、可能である。
いくら平壌で生まれたからといっても、北朝鮮指導部に反する行為を働いた者に対しては容赦なく追放するのが、現在、北朝鮮で実施されている「平壌居住制度」の一貫した原則である。
「地方出身者」の場合
したがって、平壌市民は、いくら北朝鮮政権に不満があっても、自分や子孫が、平壌市民資格を剥奪されることを憂慮して、無条件に順応して暮らしている。
平壌出身者のほとんどが、北朝鮮指導部に忠誠を示した身分の良い親から、平壌に居住できる資格を相続しているのだ。
二番目は、地方からの流入人口に対する居住制度だ。北朝鮮において、地方出身者が平壌に流入するケースは、大きくふたつある。
ひとつは、地方にあった機関や企業所が、北朝鮮指導部の決定によって、平壌に移転して来る場合だ。例えば、地方にあった「山林研究所」が、ある日突然、平壌市録化事業で一大転換を起こせという金正日(キム・ジョンイル)の指示により、平壌に移転して来たことなどが、その代表的な事例だ。
このように、地方から平壌へ、機関を移転する場合に流入する人口を「機関移転流入人口」という。
北朝鮮の「オリンピック選手」の場合
もうひとつは、北朝鮮指導部の指示によって、平壌に新しい機関が設立される場合だ。この場合の流入人口は、「新設機関流入人口」という。
例えば、詐欺師、鄭明鶴(チョン・ミョンハク)が、ほこり中から金をつかみ出す技術を開発したと大ぼらを吹いて、北朝鮮最高指導部が新しく新設した「ナノ金研究所」がその代表的な事例といえる。
このとき、鄭明鶴が、ナノ金関連技術者といって、地方から流入させた「新設機関流入人口」が300人ほどいた。
三番目は、功労者居住制度だ。帰国事業で北朝鮮に渡った人々(在日、日本人)は金銭的な功労が認められれば、ここに属することができる。北朝鮮のために功績を挙げた人々に、表彰として与えられる平壌居住権付与制度だ。
ここには、世界選手権大会や国際オリンピックなどで1位を取り、北朝鮮国旗を掲げたスポーツ選手なども含まれる。北朝鮮の選手が、スポーツに命をかける理由のひとつが、この「功労者居住制度」のためなのだ。
平壌居住権を受けるのが、彼らにとって、子孫を平壌出身者にすることができる、ほぼ唯一の身分上昇の機会である。功労者居住制度には、軍に一生服務した除隊軍官も含まれる。
平壌市民にだけ与えられる「配給恩恵」
北朝鮮では、軍官経歴が満25年で、平壌に居住できる資格が付与される。一般兵士服務過程が満10年で、軍官服務過程が満25年なので、35年以上、軍に服務すれば平壌に居住できる資格が得られるわけだ。
功労者居住制度には、難破した漁船で、船室に飾られた金日成の肖像画を体に抱いて死んだ漁師の子孫もいる。最高尊厳に対する父の忠誠心による功労で、子供が平壌居住権を受けることになったのだ。
このため北朝鮮住民は、死ぬ瞬間にも、どうすれば自分の死が、子供の利益につながるか、考えるようになるのだ。
では、「平壌居住制度」による恩恵はいったいどんなものがあるのか。
一番目は、平壌市民にだけ与えられる「配給恩恵」だ。
配給とは、北朝鮮政府が、北朝鮮住民に対して行う食糧の供給制度である。過去には北朝鮮全域が配給を受けることができたが、いまは経済状況が難しい関係で、平壌市民にだけ配給が与えられている。
「平壌市民証」の実態
現在、米1kgあたり価格が配給所では45ウォンだが、市場では6,500ウォンほどだ。
つまり、平壌市民は、米1kgを45ウォンで買えるのに、地方住民は6,500ウォンで買わなければならないということである。おおよそ、100倍以上の物価の差が、平壌市民と地方住民の生活の差となる。
そのほか、副食物も北朝鮮の地方住民にはまったく供給されることはなく、市場での販売価格で購入しなければならないが、平壌市民は国家が決めた公示価格で副食物供給されている。このように平壌市民は、地方住民にくらべて、より良い基本的な生活条件の恩恵を受けることができるのだ。
二番目は、平壌市民になれば、「通行証」なしに、北朝鮮全域を移動できる恩恵が与えられる。
軍事境界線地域や、北朝鮮-中国-ロシア国境沿線地域を除いた一般的な地域を、平壌市民は「通行証」なしに行き来することができるのである。「平壌市民証」=「通行証」なのだ。
これは、住居、移動の自由が、徹底的に制限された北朝鮮では、途方もない恩恵である。地方住民は「道(地方行政区間)」をまたがって移動するときは、必ず「通行証」の発給が必要だが、平壌市民は自分たちが持っている「平壌市民証」ひとつだけで、移動が可能だ。
北朝鮮住民が「死ぬ前に必ず一度行ってみたいとこ」
三番目は、平壌の便利な生活文化環境と教育施設である。
劣悪な地方の生活文化環境にくらべて、平壌は発展した文化生活環境がそろっている。紋繍遊泳場、朝鮮中央動物園、体育館、平壌スケートリンク、蒼光院のプール、それに玉留館、清流館(どちらも高級レストラン)など、平壌には、生活文化施設がたくさんある。
ゆえに、北朝鮮の地方住民の間では、「死ぬ前に必ず一度行ってみたいところは、平壌」という言葉も出回っている。それだけでなく、平壌には、万景台学生少年宮殿を始めとして、子供のための教育施設もたくさんそろっていて、地方住民には、平壌こそが、子供教育のための憧れと羨望の対象なのだ。
このように「平壌居住制度」には、平壌出身居住制度、地方流入人口居住制度、功労者居住制度がある。
北朝鮮が、このような「平壌居住制度」を設けたのは、首都に対する人口集中現象を防いで、最高指導部のいる平壌の生活環境圏を守るためということもあるが、それよりは、「革命の首都」と象徴される、平壌居住権を利用して、最高指導部に対する住民の忠誠心を誘導する手段として活用するという目的が、より大きくなったものだろう。
住民の忠誠心
北朝鮮だけの特別な「平壌居住制度」――。
それは、一見、首都への人口集中現象を防ぎ、平壌の生活環境権を保護するという美名のもとに実施されている制度だ。
が、実際は、平壌居住権を利用して、住民の忠誠心を誘導するための「表彰手段」なのだ。
・北朝鮮の知られざる「真実」…! 平壌の「贅沢生活」から「貧しい山奥」へ”突然追放される人たち”のヤバすぎる末路…!(現代ビジネス 2022年11月3日)
郭 文完
※北朝鮮・平壌市民に対する「追放制度」の実態
北朝鮮には住民追放制度がある。
平壌や道都に住む人々を山奥の村や炭鉱、鉱山地域に強制移住させる制度だ。
隣人が一夜にして姿を消したり、追放されたりといったことが日常的に起きている。
それでは北朝鮮はどういう基準で住民を強制追放しているのだろうか。
北朝鮮は、平壌市民をいくつかの基準で強制的に追放している。
第一は「本人の過誤」による追放だ。
刑法に違反にした人が対象で、殺人、強盗、強姦、詐欺、横領などの犯罪事件を起こすと刑が下され、家族も追放される。 犯罪者は「革命の首都平壌」に住むことはできないという理由からだ。
追放先は裁判所の判決による。犯罪者や家族に選択権はない。本人は教化所に入り、家族は裁判所が判決を下した地に追放される。
平壌から追放される人は、多くが山間内陸地域に送られる。海辺や中朝国境沿線や韓国と隣接している休戦ラインの近くに追放すると、脱北する恐れがあるので、身動きが取れない内陸地域の山間奥地村に追放して社会から隔絶させるのだ。
「山」へ追放される人たち
内陸山間部には平壌から追放された人々が集まっている村が多い。
それらの地域で生まれた地元の人たちは、平壌から追放されてきた家族を見て「平壌で贅沢な暮らしをしてきたのだから、これからは奥地の暮らしを味わえ」と差別して冷遇することが多い。
平壌から追放された人たちは、北朝鮮政権に対する不満と山間奥地の住民への恨みを抱きながら生きていくことになる。
いつ街から追放されるかわからない
第二は、「連座制」による強制追放だ。犯罪者と特定の関係がある人に連帯責任を負わせる制度である。
血がつながった家族や親戚に対する処罰で、父親が過ちを犯すと息子が連座制の対象となり、子供が過ちを犯すと親や兄弟が連座制の対象となる。
以前は4親等の血族まで適用されたが、今は父子と兄弟間に適用対象が狭まっている。連座制の対象者があまりにも多いからだ。女性は連座制から除外されることがある。
夫が犯罪を犯すと、妻と子供には原則的に連座制が適用されるが、妻が犯罪者の夫と離婚すると対象から除外される。離婚した夫婦は他人という判断だ。しかし、犯罪を犯した夫の苗字を継ぐ息子は連座制が適用される。
また、嫁入りした娘も連座制の対象から除外される。嫁いだ女性は実家ではなく、「婚家の家族」とみなされる。封建時代から続く血統中心の政策による。
第三は、「動向分類」による追放だ。
平壌市民は人民班長や隣人などから常に監視されている。日頃、北朝鮮の制度についてどう話しているか、人民班生活に真面目に参加しているか、平壌市民としての風貌や資質があるかなど、各家庭の動向資料を元に分類し、追放対象者が選定される。
平壌市の人口を調整するとき、1次追放対象に分類される。平壌市民は普段から言動に注意して、薄氷の上を歩くような生活を送っている。
「地方住民」の追放制度もある
地方都市の住民を山間部に追放する制度もある。
道都は平壌より劣るとはいえ、農村地域や山間部の奥地とは比較にならないほど生活しやすい。北朝鮮政府は道都の住民を追放する制度も実施している。
まずは、「生活評価」による追放だ。道都の住民の中には、国が定めた工場や職場に通わず、不法商売で食べている人が少なくない。
このような無職者の生活を評価して、農村人材を補強するため、定期的に追放している。
兵役忌避者や現職勤務忌避者、人民班生活への不真面目な参加者、離婚者が含まれる。北朝鮮政府は地方の道都を革命の首都に次ぐ重要都市と考え、不純分子が住むことはあり得ないとして、5年から10年単位で地方追放制度を実施している。
「反逆者」を出した家庭では…
次は、「家族環境」による追放制度だ。
連座制と似た追放制度で、家族の中に韓国に脱北した人や中国に越境した人がいると山間地域に追放される。反逆者を出した家庭を道都で生活させることはできないという理由だ。
生活が厳しい農村や炭鉱、鉱山地域に追放し、祖国への反逆者を生んだ罪を一生負わせる追放制度だが、むしろ脱北が加重する事態をもたらした。こんな暮らしをするくらいなら、命をかけて韓国に向かう方が良いという反感が増大した。
3つ目は、「資源進出」の追放制度だ。
本来、追放は社会秩序を維持する名目で規範や規定に違反した者を地域外に強制退出させる制度である。
しかし、「資源進出」は違っている。
もっと怖い「政治収容所」
北朝鮮の人々は農村や炭鉱、鉱山地域に行こうとしない傾向が強い。 暮らしにくい苦しい地域だからである。
そこで、北朝鮮政府は労働力を拡充・補強するため、「農村進出」「炭鉱進出」「鉱山進出」や「資源進出」を強要している。
農村や炭鉱、鉱山地域で生まれた人々を「農村地域縁故者」「炭鉱地域縁故者」に分類し、「資源進出」を口実に、強制追放制度を実施しているのである。
北朝鮮は、平壌と地方を問わず、全国規模で強制追放制度を実施している。
強制追放制度は、政治犯収容所に収監された人々には適用されない。政治犯収容所は一度入ると出ることができないからだ。
北朝鮮の追放制度は、平壌と全国の地方都市で実施されている住民に対する統制と管理、処罰と体制維持の手段なのである。
・命がけ、北朝鮮「送金」の全真相! 「ブローカー依頼法」「手数料&口止め料の相場」「もし捕まったら…」など、過酷すぎるその“一部始終”(現代ビジネス 2022年11月1日)
郭 文完
※北朝鮮、知られざる「送金事情」
コロナ感染が長期化しているいま、韓国および海外に居住する脱北者が、北朝鮮内の家族への送金経路が停滞していると困っている。
国連は、海外移住民による本国への送金が国家経済に大きく寄与するとして送金手数料を下げるように訴えたが、北朝鮮政府は、逆に脱北者による北朝鮮内の家族への送金を完全に遮断しようとしている。
韓国社会に対する北朝鮮住民の羨望と幻想が大きくなり、北朝鮮体制を押し倒すことになるかもしれないという憂慮のためだ。
締め付けを強化している
そのような中でも、北朝鮮家族に対する脱北者による送金は続いている。一体、脱北者は、北朝鮮内の家族にどのようにお金を送っているのだろうか。
脱北者による北朝鮮家族への送金は、ほとんど中国ブローカーを通じて行われる。
中国ブローカーが、北朝鮮ブローカーと連結して、銀行送金の役割を代行しているのだ。
北朝鮮に送金するためには、まず、北朝鮮にいる家族が、北朝鮮と中国の国境沿線地域に出て来なければならない。
ブローカーの「動き方」
そこで初めて、中国の携帯電話を持っている北朝鮮ブローカーを通じて、韓国にいる脱北者を呼び出すことができる。
北朝鮮と中国の国境沿線地域は、中国の移動通信社の通話半径の中に属しているので、中国の携帯電話を使用することができるのだ。
中国から韓国に、国際電話をするのと同じように通話ができるということだ。
電話でやり取りする
したがって、韓国に住んでいる脱北者からの送金を受け取るためには、北朝鮮家族の中の誰かが、北朝鮮と中国の国境沿線地域まで、必ず出て来なければならない。そしてそこで、中国の携帯電話を所有している北朝鮮ブローカーを通じて、韓国に住んでいる脱北者に、「暮らしが大変で、だからお金をちょっと送ってもらえないか?」と、電話をかけることができるのである。
このとき、中国の携帯電話を所持している北朝鮮ブローカーは、北朝鮮に住んでいる華僑、あるいは中国に親戚がいる人物である可能性が高い。
そうでなければ、合法的に中国に出入りして、中国ブローカーとお金のやり取りをすることはできないからだ。
「認証手続き」はこうして行われる
北朝鮮に住んでいる家族から、送金要請を受けた韓国内の脱北者は、北朝鮮ブローカーに送金する口座番号を尋ねる。
すると、北朝鮮ブローカーは、自身と関連している中国ブローカーの電話番号を教え、そこに電話して口座番号を教えてもらって送金すればいいと、指示を出す。
韓国内の脱北者は、電話を切って、北朝鮮ブローカーが教えた中国ブローカーに電話し、送金する中国の銀行口座を尋ねる。
すると中国ブローカーは、中国の口座番号を教え、韓国の脱北者は、中国ブローカーに教えてもらった中国の口座に送金する。
そうして再び、中国ブローカーに電話して、「たった今、韓国の金額で100万ウォンを送りました。確認して電話ください」と言い、中国ブローカーは、入金を確認後、韓国にいる脱北者に電話し、「正確に韓国の金額で100万ウォンを受けとりました。30分後に北朝鮮側に、再び電話してください。向こうでは、手数料30%を差し引いた金額を渡すでしょう」と伝える。
すると、送金した韓国の脱北者は、30分後に、再び北朝鮮側ブローカーに電話して、「どうなりましたか? 30分前に韓国の金額で100万ウォンを、中国の方に入金しましたが、連絡は受けたましたか?」と尋ねる。
北朝鮮側ブローカーは、「たった今、中国の方からお金を受け取ったという連絡がありました。手数料30%を引いて、韓国の金額70万ウォンをあなたのご家族にお渡ししたので、直接確認してみてください」と言い、北朝鮮の家族と電話を代わってくれる。
お金を受け取った当事者が、無事にお金を受け取ったことを確認させるための一種の認証手続きである。
「口止め料」はいくらか…?
ここで、70万ウォンに該当するお金は、北朝鮮ブローカー自身が所持していたお金を、北朝鮮内の脱北者家族に渡すのだ。
北朝鮮ブローカーは、中国に自由に行き来することができるので、この後中国に渡り、中国ブローカーから元金を受け取り、手数料30%の分け前を分配するのである。
ただし、北朝鮮にいる家族がお金を受け取ったことを確認した韓国側の脱北者は、もう一度、虚脱感に陥るのだった。
北朝鮮では、韓国のお札は使用できないので、北朝鮮ブローカーは、ドルや中国元、あるいは北朝鮮の貨幣に両替して渡さなければならない。
両替はどうするのか
この過程で、さらに両替手数料まで取られるのである。韓国の金額100万ウォンを送金すれば、手数料30%を差し引かれ、両替で10%をまた取られ、結局、60万ウォン程度しか、北朝鮮家族は受け取れないのである。
このようにして60万ウォンを受け取り、家へ帰った北朝鮮家族は、ここでまた、自分たちを監視している保衛院(公安)や保安員(警察)にお金を取られる。
お金の入手経路を明かすことはできないため、仕方なく口止め料として、60万ウォンを半々にした30万ウォンを彼らに支払わなければならないのだ。
脱北者は、北にいる家族に、いくらお金を送っても焼け石に水だと、深いため息をついている。
お金もすべて奪われ、監獄行きとなり獄死した…
それだけではない。手数料30%、両替料10%を搾取され、保衛院や保安員に15%を支払い、残った30万ウォンを、さらに家族と親戚らで分けて使わなければならないのだ。
これもまた、北朝鮮家族にとっては大きな負担だ。
実際、一度お金を送ると、北にいる脱北者の家族間にひびが入るともいわれている。
脱北者は、お金を送るとき、ご両親と同居している兄弟にお金を送る場合が多い。すると別居している兄弟は、これに対し不満を持ち、それゆえ兄弟間の関係が疎遠にならざる得ないということが起きているのだ。
だからご両親が亡くなったら、これ以上お金は送らない、という脱北者も少なくない。
さらに最近になっての問題は、脱北者による北朝鮮家族への送金を狙った、北朝鮮保衛院の計画的な詐欺である。
このところ、保衛院の生活も厳しくなって、脱北者のいる北朝鮮家族を相手にした、保衛院の送金恐喝詐欺が深刻になっているのだ。
ある脱北者は、北にいる家族に韓国の金額で200万ウォンを送ったのだが、その後の信じられないような便りに、衝撃を受けて病に伏してしまった。北朝鮮に送金したのだが、そのお金を受け取って家へ帰った家族が、潜伏していた保衛院の取り締まりに捕まって、お金もすべて奪われ、監獄行きとなり獄死した、という消息を聞くはめになったのだ。
命がけだ
保衛院が、北朝鮮ブローカーと裏で手を組み、お金を受け取って戻って来た脱北者家族を現行逮捕したのだ。
北朝鮮政府が、脱北者による不法送金を防ぐために、韓国と連絡をとり合ってお金を受け取る者を申告すれば、そのお金は申告者に全部渡すと約束したのが、元凶だ。
それにより、保衛院は、北朝鮮ブローカーと回収したお金を山分けにすることにし、お金を受け取る現場周辺に潜伏して、脱北者家族を逮捕し、お金を奪って、監獄に掘り込んで獄死するように仕向けたのだ。
脱北に対する幻想と憧れが広がることを憂慮した北朝鮮政府が、不法送金に対して強力措置を取っているため、北朝鮮送金は本当に命がけで現在も行われている。
最近では、手数料30%も昔話になってしまった。長引くコロナによって、北朝鮮ブローカーも、以前のように中国に出入りすることができなくなり、北朝鮮送金手数料は、50%まで跳ね上がっているという。いやそれどころか、そもそもブローカーがいなくなってしまったという。
国連は海外にいる移住民が本国に送る送金手数料の下げようとしたが、脱北者は、北にいる家族に生計費を送るために、命がけの不法送金と、殺人的な手数料に苦しめられているのだ。
・北朝鮮「ヤバすぎる就活事情」を“北朝鮮元住民”が初めて明かす…! 「身元調査」「成績」の“使われ方”から、飛び交う「賄賂」「人脈」の壮絶すぎる現実…!(現代ビジネス 2023年3月5日)
郭 文完
※知られざる北朝鮮「ヤバすぎる就活事情」
韓国での大学4年生の悩みは、一に就職、二に就職と、就活がそのすべてともいえるだろう。大学卒業後、どんな仕事につくかによって、その後の人生が大きく決まってしまうからだ。
だが、北朝鮮の大学生にとっては、一に配置、二に配置と、配置こそが悩みの種となっている。就職と配置、それほど大差がないように思われるかもしれないが、その差は歴然たるもので、「選択の自由があるかないか」という大きな違いがあるのだ。
韓国の大卒者の就業制度には、個人の職業選択権あるが、北朝鮮の大卒者配置制度には、個人の職業選択権がほとんどないのである。
知られざる北朝鮮だけの独特な大卒者配置制度とその就活事情について明かそう。
北朝鮮の大卒者配置制度は、朝鮮労働党が直接配置する「党派遣制度」といえるだろう。
北朝鮮の大卒者は、自分が望む職業を選択するのではなく、党が配置した職場に就くよう任命される。一種の派遣制度なのだ。
例えば、「金日成総合大学哲学部の卒業生××は、党の偉大なる政治的信任により、社会科学院研究所に配置する」と党が発表すれば、そのときから××は、朝鮮労働党からの「党派遣状」を持って、党が配置した「社会科学院」に行き、研究所に勤める。そんなシステムなのである。
「国」が望む職場
北朝鮮が、このように一方的に、大卒者を配置する理由は、北朝鮮のすべての大学が授業料制度ではないからだ。
国がおカネを出し、無料で教育を施した大学生なのだから、大学を卒業した以後も、個人が望む職種ではなく国が望む職場に配置されて働かなければならないという論理だ。
北朝鮮で、大卒者の配置を主幹する機関は、「朝鮮労働党行政幹部」である。「行政幹部」とは党幹部ではなく、一般行政経済幹部を任命する部署だ。5年制以上の北朝鮮の大学は、一般の民族幹部の養成を目的としているため、大卒者に対する配置は「中央党行政幹部」が担当している。
例えば、ある工場なり企業所に、「支配人」と「党秘書」がいたとすると、支配人は「行政経済幹部」であるため「行政幹部」が任命し、党秘書は「党幹部」なので「党組織指導部幹部科」が任命することとなる。
この古くからつづく、北朝鮮政府による大卒者配置制度の原則は大きく3つある。
「面接」と「身元調査」の実態
まずひとつ目が、面接および身元調査制度である。北朝鮮の大学生は、卒業が近づくと面接を受ける。
面接の主催は、大学の人事課と中央党の人事課から派遣された幹部である。韓国では、大学生が自分たちが入りたいと思う機関や会社に行って、面接を受けるのが普通だが、北朝鮮では、大卒者を配置する党人事課が面接をする。
この過程で重視される点は、面接者に対しての身元調査と、現行の生活資料である。この面接者が、党が配置した職場で党と国家に忠実な人間として働くことができるのかできないのかを見極めるためである。
ここでの身元調査は、面接者本人に対するものではなく、彼の出身や家族および親戚に関する身元調査だ。
北朝鮮では、大卒者に対する配置基準でも、連座制や出身などを非常に重視するのだ。もし、身元調査過程で問題があるとされた者は、卒業後の配置を受けにくくなるとか、一番良くない職場へ送られるのだ。
席順がそのまま「成績順」
ただし、面接を受ける前に、卒業予定者は、自分たちが望む職場に関する配置希望書を書くのだが、これはどこまでも形式的な手続きでしかない。
職業選択の自由があることを示すために、北朝鮮政府がかなり以前から形式的に行っているだけなのだ。したがって、配置希望はあくまでも参考事項でしかなく、それ以上の意味は持たない。
ふたつ目が、成績順による配置制度である。北朝鮮の大学の成績採点制度は5点満点だ。5点は最優等、4点は優等、3点は普通、2点以下は落第である。
このように、最優等、優等、普通、落第と、区分されている北朝鮮の成績採点制度は、その後の卒業生の配置過程で決定的な役割を果たすのだ。なぜなら、成績順によって、配置順位が決まるからである。
北朝鮮の大学卒業生は、卒業式の何日か後に卒業配置を受ける。このとき、卒業生は、党からの挨拶幹部から卒業配置の発表を受けるために、講堂や会議室のような場所に集められるのだが、その席順がまさに成績順となっている。
「T.O.」とはなにか…?
最前列に最優等生を、その次に一列空けて優等生を、その次にまた空けて普通生を座らせるのだ。
北朝鮮の大学卒業生にとってはもっとも苦々しく、またはもっとも胸がいっぱいになる悲喜こもごもな瞬間である。
誰が見ても、最前列に座った卒業生は勉強のできる最優等生で、その次に座った卒業生は優等生、一番最後列に座った卒業生はその他大勢の3点の普通生なのだから、大卒者配置制度において、成績は配置順を決める優先順位に直接かかわる重要なポイントなのだ。
3つ目が、卒業生を配置する国家機関に対する、T.O.(table of organization)である。T.O.とは、規定によって定められた機関人数のことだ。
北朝鮮のすべての国家機関は、毎年、退職者に対する統計資料によって、新入職員に対する要求事案を中央党人事課に報告しなければならない。
これによって、大学卒業生に対する配置の可否を中央党人事課が決めるというシステムである。したがって、どの国家機関にどのようなT.O.が出たのかも、北朝鮮の大卒者配置制度で見逃すことができない部分である。
まさに「命がけ」
上記3つが、「北朝鮮の大卒者生配置制度の原則」なら、今から述べる3項目は、現在の北朝鮮で行われている「大卒者配置制度の現状」だ。いくら北朝鮮の大卒者配置制度に個人の選択権がないとはいっても、個人の努力をする権利さえも失われたというわけではない。
卒業を控えた北朝鮮の大学生たちは、自分が持っているすべての人脈と賄賂などを総動員して、自分たちの未来がかかっている卒業配置に命を懸けるのだ。
その最初がまず「未配置」制度である。北朝鮮の大卒者配置は、その大部分が大勢の人間が集まった場所で発表されるため、このとき、成績が良くない卒業生が自分より成績が良い卒業生よりさらに良い機関に配置されたりすれば、集団的な抗議が起きることとなる。
したがって、中央党人事課幹部と密かに手を打っていた卒業生は、大勢の人間が集まった場所で発表されるときには「未配置」として発表されてから、後に、個別に配置されるという形になる。
「未配置」とは、「配置を受けることができなかった卒業生」という意味である。
人脈を活用せよ!
「未配置生」と発表されれば、少なくとも1ヵ月、長ければ3ヵ月程度休むことになる。
それだけの時間が過ぎれば、高まっていた卒業配置の雰囲気も収まるため、その後に、個別に手を打っておいた自分が望む機関に配置されるというわけである。
ふたつ目は、1次配置地から、2次配置地へ「再配置」を受けることだ。これは、最初に配置を受けてから適当な人脈やロビー対象を探す場合に、主に使われる方式である。
1次配置地から2次配置地に移るのは卒業配置がすべて行われた以後、個人的な方法で行われるため、卒業配置生のときに集団的な抗議などを受けることがないという長所がある。
3つ目は、自分が通った大学の大学院や博士院などの研究所に配置されることだ。
この場合、その後の3年ほどの大学院や博士院の期間終了後、再配置を受けることができ、便法的な配置制度のひとつとして役立っている。
壮絶なあがき
北朝鮮の大卒者配置制度。
それは、職業選択の自由がない北朝鮮の大卒者が、合法と賄賂の間を行き交って繰り広げる、自分たちの運命を自ら切り開くための壮絶なあがきなのだ。