ブログ主コメント:ブログ主は、ロシア軍が残虐行為や過激な破壊や戦争犯罪を犯していないとまでは断言できません。ブログ主にそれを確かめる術はありません。ですが、日本を含む欧米側メディアで、ロシアが悪魔化され、ウクライナの同様の行為は無視されているか英雄的行為として、真逆に偏向報道されているのは事実でしょう。

・ウソだらけのウクライナ戦争

2022年5月3日   

田中 宇

https://tanakanews.com/220503ukrain.htm

※2月末のウクライナ開戦から2か月あまりがすぎたが、この戦争に関する米国側(米欧日)のマスコミ報道はウソだらけのままだ。

「ロシア軍は戦略的に大失敗して、残虐行為や過激な破壊攻撃といった戦争犯罪をウクライナで繰り返しつつ、ウクライナ軍の果敢な反撃を受けてキエフ周辺から撤退し、ロシア系が多い東部のドンバスにいったん引きこもり、そこからゆっくり南部に再侵攻しようとしている」といった感じの報道になっているが、露軍は残虐行為も過激な破壊も戦争犯罪も犯していない。

米国側のマスコミ権威筋がウクライナ戦争に関してウソばかり報じているのは、米国と同盟諸国のマスコミ権威筋の支配的な情報源である米中枢(諜報界、米政府筋)が、そのような情報を流して報道させているからだ。ロシア側が流す情報を分析すればウソを修正できるが、米国側のマスコミ権威筋は、ロシア側からの情報を全てウソと決めつけることを米中枢からの加圧で義務づけられているので、ウソを修正できない。開戦から時間が経つほど、この米国側の言論統制が強くなり、ウソまみれの公式論以外のことを言う人は権威を剥奪される。国際問題に関する権威の付与は米中枢を頂点とする構造になっており、権威を剥奪されたら生きていけない権威筋はウソしか言えなくなっている。賢い(生き方がうまい)権威筋ほど、悩まない方が良いと直観し、余計なことを考えずウソを本気で信じる。その方がうまく権威を獲得維持できる。

ウクライナ戦争の大ウソを維持するため、米政府は言論統制をどんどん強化せざるを得ない。米政府は4月に入り、新たな試みとして、米マスコミの中でCNNとブルームバーグ通信の編集者を大統領府(ホワイトハウス)の安全保障会議に出入りさせ、大統領府直結で記事を書けるようにしてやる代わりに、書いた記事を大統領府の担当者が確認し、不都合な言い回しやニュアンスを替えさせてから報道させる新しい検閲体制を組んだ。この新たな検閲体制により、米国のマスコミは政府との一体化を増大させられている。日本の戦争中の「大本営発表」をもっと巧妙にしたものだ。

米国(や日本)では従来、政府などがマスコミに歪曲した情報を漏洩(リーク)して報道させることで似たような機能を実現していたが、マスコミ側が政府側の意図通りのニュアンスで報道してくれないことも多く、今回の戦争のようにウソが膨張していると、マスコミ側が理性を働かせてしまってウソを報道してくれなくなる可能性が増す。それを防ぐため米政府は、報道の自由を大きく侵害する検閲体制を組み始めたのだろう。

ウクライナ戦争のウソの構図を戦略的に決めているのは、大統領府の安保会議の中に作られた「タイガーチーム」と呼ばれる組織のようだ。この組織は昨年からあり、最初は「ロシアがウクライナを侵攻しそうであることへの対応策」を練っていたことになっている。実際は、米国がロシアをウクライナに侵攻させたかったのであり、タイガーチームの実際の最初の課題は「ロシアをどのように挑発してウクライナに侵攻させるか」だったのだろう。2月末にロシアがウクライナに侵攻した後、タイガーチームの名目上の課題は「ロシアがウクライナで大量破壊兵器を使いそうだが、もし使ったら米欧はどう対応すべきか」に変わった。実際の課題は「ロシアがウクライナで大量破壊兵器を使ったという濡れ衣をどうやってロシアにかけるか」であろう。ブチャ虐殺など、他の戦争犯罪の濡れ衣がタイガーチームの発案だった可能性もある。

タイガーチームは「露軍がどこまでひどいことをやったらウクライナにNATO軍が入るべきか」も考えている。露軍に大量破壊兵器や虐殺の濡れ衣をうまくかけられたら、次は、ドイツなど欧州のNATO諸国にウクライナに進軍しろよと加圧する同盟国いじめをやる気かもしれない。タイガーチームには分科会もあって、そこは「ウクライナ戦争によって地政学的な大状況がどう変わり、何をすべきかを考える」ことになっている。

タイガーチームは、イラク戦争を起こしたブッシュ政権中枢のネオコンと同様、政権と覇権の中枢に陣取って、自分たちと異なる分析や戦略案を出してくる諜報界のまっとうな他の勢力からの提案を潰す役目も果たしている。以前に紹介したスイスの諜報専門家であるジャック・ボーは「昨年来、ウクライナの状況を正確に把握している欧米の諜報機関がまったくなくなってしまったことに驚く。多くの諜報機関は、マスコミが報じているインチキと同じものをウクライナに関する諜報の結論にしてしまっている」と言っている。NATO諸国の全体で、タイガーチームに楯突くまっとうな分析を出してくる諜報員は潰される仕組みが作られているのだろう。ジャック・ボーの怒りは当然だが、彼は欧州人だし元当局者なので、米中枢の仕組みに関する深読みをしていない(彼はもともと軍産・権威筋内部の専門家で、今回は諜報界がひどい状態になっていることに対する義侠心から表に出た)。

タイガーチームのような組織は、巨額の裏金・裏の予算を持っている。ウクライナ開戦後、米国は臨時の予算を組んでウクライナへの軍事支援を急増させている。しかし、米政府が米国内の軍事産業に作らせてウクライナに送り込んだことになっている巨額の兵器群のほとんどが、実際にウクライナ軍の現場に届いているのかどうか確認できず、追跡手段も作られていない。米国がウクライナに送ったはずの兵器の大半は、たぶん兵器の製造すら行われておらず、米政府が払った資金を軍事産業が管理して、それがタイガーチームの下請けのシンクタンクや実働部隊に分配されているのだろう。

たとえば英国軍は、軍事諜報の専門家をウクライナ内務省に派遣して、ウクライナ内務省の国家警察や極右民兵団が露軍に濡れ衣をかけるための虐殺現場を演出するのを手伝っている。ブチャ虐殺の騒動演出の直前、現場に向けて英国人の車両が走っていったことを、ベラルーシの諜報機関が把握している。英諜報界は米政府のタイガーチームの下請けとして、ウクライナで露軍に濡れ衣をかける現場の担当者をしている。英政府は金欠なので、英諜報界は米国防総省の裏金を使っているはずだ。

英諜報界はウクライナに、化学兵器使用の濡れ衣をかけたプロである「白ヘルメット」を連れてきている。英諜報界はシリア内戦時に、シリア政府軍に空爆された反政府派(テロリスト。ISアルカイダ)が支配する街で瓦礫の中から市民を救助することで有名になった市民組織(のふりをしたテロリストの集まり)「白ヘルメット」の創設を手伝い、支援援助もしていた。白ヘルメットは、救援活動をするふりをして、シリア政府軍の空爆直後に現場に塩素などの毒性の物質を噴霧して市民に被害を負わせ、アサド政権のシリア政府軍が化学兵器で市民を攻撃したという話をシリア各地ででっちあげることを繰り返した。塩素は、ISカイダを支援するトルコ軍が供給していた。

この英国系の策略は米国の下請けで行われていたらしく、米英は化学兵器使用を調査する国際機関OPCWを動かして歪曲的な現地調査をさせ、シリア軍に対し、化学兵器を使ったという濡れ衣をかけることに成功した。OPCWの現地調査団は、化学兵器が使われていないといったん結論づけたが、OPCWの上層部から圧力をかけられて結論を歪曲させられた。シリア軍は内戦前に自主的に米英の監督のもとで化学兵器を全て処理しており、化学兵器攻撃をやるはずがない。マスコミのウソ報道と裏腹に、シリア政府軍は1回も化学兵器を使っていない可能性がとても高い。ロシアは、シリア内戦でアサド政権を助けて勝たせており、白ヘルメットの戦争犯罪やOPCWのウソを指摘したが、英米の詭弁に対抗しきれなかった。

英国は今回のウクライナ戦争の現場に、シリアから白ヘルメットの部隊を連れてきている(シリア内戦がアサド政権の勝ちに終わり、負け組になった白ヘルメットの人々はトルコ軍が占領する北シリアに住んでいた)。ウクライナに連れてこられた白ヘルメットの人々は、ウクライナ内務省や極右民兵団に、ロシア軍が化学兵器を使って市民を殺したという濡れ衣を演出するやり方を教えているはずだ。英政府は金欠だから、白ヘルメットの活動費用なども、米政府が軍事産業に発注したはずの兵器類で作った裏金が流用されている可能性がある。

ロシア政府は、米英が化学兵器使用の濡れ衣を露軍にかけようとしていると、何度か警告している。実際の濡れ衣事件はまだ挙行されていない。米英側がタイミングを見計らっているのかもしれない。シリア内戦でアサド政権を擁護してきたロシア政府は、米英が白ヘルメットなどの現場部隊を使ってどのようにシリア政府軍に化学兵器使用の濡れ衣をかけてきたか、つぶさに見ている。ウクライナ戦争では、ロシア自身が、米英や白ヘルメットから、化学兵器使用の濡れ衣をかけられそうになっている。ロシアの政府や軍は、この濡れ衣戦争にどう対抗したら良いか、かなり前から考えているはずだ。これからの展開が注目される。

米国防総省は1980年代から、巨額の予算をとってその一部(大半)を秘密作戦の費用に使うことをやってきた。自作自演臭が強い911テロ事件の前にアルカイダを育てるための資金も、そうした裏金が当てられたと考えられる。米国は、経済成長したら非米的な地域になりそうなアフリカ諸国を潰しておくため、アフリカ諸国の軍の幹部を米軍の学校で教える際に、クーデターのやり方も教え、アフリカでクーデターが頻発して政治的な不安定や内戦が永続し、アフリカが永久に経済成長できないようにしてきた。アフリカのどこかの将校が米国からの留学後に自国でクーデターを起こす際に、米国防総省の裏金が使われていた可能性もある。2014年のウクライナでの政権転覆や、その後の極右民兵団の育成にも、米国防総省の裏金が使われたはずだ。国防総省の裏金は、実態が全く不明のまま何十年も放置されている。この裏金がなかったら、世界の何百万人かが殺されずにすんだ。米国は人類を不幸にしている。米覇権にぶら下がって安穏としている同盟諸国はもっと悪い。

ウクライナ戦争でウソ報道の必要性が急増し、検閲体制が組まれて報道の自由が失われていることから派生していろいろ書いた。話を戻す。米国では報道の自由だけでなく、国民の言論の自由も剥奪されつつある。インターネットの大企業が運営するSNSでは、かなり前からトランプ支持者や、新型コロナや地球温暖化やウクライナ戦争のウソなどに対して自然な疑問を持つ人が、運営企業から登録削除などの言論封殺の被害あっている。4月27日には、米政府の国土安全保障省の中に「偽情報統制委員会」(Disinformation Governance Board、偽情報管理会議)が作られ、ウクライナ戦争やその他の分野での「ウソ情報・偽情報(とレッテル貼りされる、実は正しい情報)」の発信者を捜査・検挙していく体制が組まれた。

ウクライナ戦争に関してウソや偽情報を最も発信しているのは、すでに書いたように大統領府の安保会議を頂点とする米政府自身である。この新委員会は、まず米政府自体を取り締まらねばならないのだが、もちろんそんな話にはならない。新委員会の任務は、米政府が発するウソ情報を鵜呑みにせず、ウクライナ戦争の実際の状況はこんな風になっているんだと真実を語る人々、米政府のプロパガンダを拒否して対抗してくる人々を、偽情報の発信者とみなして取り締まることにある。新委員会にとっては、ウソを信じる人が正しい人で、ウソを信じずに正しいことを言う人は偽情報を発信する犯罪者である。これは全く、ジョージ・オーウェルの1984に出てくる「真理省」と同じである。ウクライナ戦争のウソに気づいているオルトメディアの分析者らは、この新委員会を「バイデンの真理省」と呼んでいる。

バイデンの真理省が取り締まりの対象としている分野はウクライナ戦争やロシア関係だけでない。バイデン大統領の息子のハンター・バイデンが父親の代理として中国やウクライナの政府系企業から資金(賄賂)を受け取っていた疑惑について語る人も、たぶん取り締まりの対象になる。バイデン政権の、大失敗している移民政策などを悪く言うことも、偽情報の流布とみなされうる。これらを語る人のほとんどは共和党支持者だから、真理省はバイデンが対立政党を潰すための機関でもある。いずれ米国の政権が交代すると、何が真実かも正反対になる。バイデンや民主党は、真理省を最大限に活用して共和党やトランプを「捜査」し、共和党の台頭を防ごうとするだろう。米国はどんどん腐敗した国になっていく。・・・と言った途端に、それが偽情報発信の犯罪行為となる。