(´Д`)だめーだブログ -5ページ目

(´Д`)発見された航海日誌はここで途切れている。

 船長は自室の椅子に腰かけるとパイプに火を点した。
 焦げ茶色の木製テーブルに広がる海図。その中央には豪華な装飾が施されたコンパスがでんと構える。いつまで眺めていても針は揺らがずにまっすぐ北を示す。波の無い海面が室内からでも思い描くことができる。

 こんなに穏やかな航海がかつてあっただろうか。思い返してみても彼の頭に浮かぶは毎度毎度の困難、災難、冒険の日々。例えば神とやらがこんな日常に休暇でも与えてくれたのだろうか。
 「全く、余計なお世話だよ……。」煙を吐き出す口元に思わず声が乗る。海に生きる男として、安全とは何よりの贅沢であり、そして、贅沢とは総じて退屈なものなのだ。

 しかし、気を利かせすぎな神は、そんなこと重々承知だよと言わんばかりに状況がらりとを変えてしまう。
 彼の元にまた日常が帰ってきた。嵐だ。

 見張り台の部下が異変を叫ぶとほぼ同時に、船長は扉をばんと弾いてデッキに飛び出した。もう幾度となく危機を乗り越えた信頼できる仲間である、自分が指示を出すまでもなく今回も軽く突破するのであろう、という彼の予想は見事に外れる。

 呆然と立ち尽くす部下たちから視線を船首の先に向けると、我々のいる"晴れ"の側から境界線を隔てた先に広がる曇、風、雨。晴天と荒天のツートンカラーが眼前に広がる。そして言うまでもなくその灰色は鮮やかな空や海の水色をどんどん汚してゆく。あと数分もすれば、この船をも呑み込んでしまうだろう。今ここにある光を再び仰ぎ見るのはいつになるのか。もしくは……。

 船長は悟る。ああ、「嵐の前の静けさ」とやら。あの島を旅立った時から今日まで平穏無事な船旅を続けていられたのは紛れもなくこの言葉のおかげだったのだ。彼は無意識のうちに十字を切っていた。
 気づけば、部下はみな船長の方を向いている。彼の行動はいつもと変わらなかった。低く深く響く声で部下の士気を高める。

 「俺たちに天を操る力はない」
 右手の人差し指が高く、辛うじて輝きを覗かせる太陽を示す。「自然を受け入れようではないか!あの嵐が大海原を覆うなばら、我々は…………。」

 一瞬の途切れ。聴くものの思考としては、次に発する言葉に向けたある種の"溜め"をまず予感したあと、すぐにそうではないことを察したであろう。そして船長の表情に宿っていた揺るぎない決心がたちまち蒸発してゆくのを皆が確認すると自然にそれは伝染し、船内はそれこそあの忌々しい雲に包まれたかのような重苦しい空気へと移り変わった。

 「おい、俺は今、何て言った」慎重に、一字一句を選ぶように声を発する船長に部下の一人は「我々は、まで……言いました」と、更に慎重に言葉を返す。
 「違う!その前だ」
 「あの嵐が…………ですか?あの嵐が大海原を覆うなばら…………あれ?」
 「もう一度言ってみろ……!」
 「おおうばならをおおうなばら…………あっ言いにくい!」
 「だろ!?"大・海・原・を・覆・う・な・ら・ば"って早口だとすんごい言いにくいの!俺、大発見!!」「すげえっす!船長すげえっす!!」「大海原を大海原……ああ!なんかさっきはすらすら言えたのに変に意識しちゃって今はもう言えねえ!」「ドンマイっす!船長ドンマイっす!」「あっ呑み込まれる」ざざーんどっぷん終わり。








良いお年を(´゚∀゚`)!