「結局、彼らは皆、情交があった云うことやな。実に乱れとるなあ」

「そら、子供がでけたりしまへんから、後腐れのうその…何を、やれまんねんやろ」

小杉刑事が、乗りだしていた身を元へ戻してそう云うと、

「まっ、そういうことや。しかし、これを見てると、どいつも容疑圏内からはずせんようになっくるなあ」

末次警部補が、そう云い終わるか終わらないうちに、会議室のドアを激しく叩いて、制服警官が血相を変えて飛び込んできた。

「殺しです。110番から連絡があり、本件参考人の中根俊一が殺害されたとのことです」

一同は、俄に色めき立った。

「場所は!」

血気盛んな沼田刑事がそう叫んで、既に椅子を蹴って立ち上がっていた。

「やはり、大和荘地下の13号室です」

1月14日午後9時20分だった。

 一度ならず二度までも、おぞましい殺人事件の現場となった「大和荘」地下の13号室へ捜査陣が駆けつけた時、一同は呆気にとられた。前にも増して、死体の状況が身震いするような惨状を呈していたからである。

「こんな、こんな処があったんか! こら、捜査ミスやな!」

末次警部補が腹立たしげに覗き込んだのは、13号室の四畳半の部屋の南側の壁に、小さく取り付けられた小窓であった。末次警部補はしかも、椅子を踏み台にしてそこを覗き込んでいる。何故に、そのような造作をしたのかは分からないが、小窓の向こうは、すぐ外部にはなっておらず、ちょうど、大型テレビが二台入るほどのコンクリート四方の部屋になっていて、床に鉄製の上げ蓋が二つあり、南側の壁には、厚ガラスの明かり取りが嵌め込まれている。

「ははあ、こら、浄化槽やな。えらい臭いわ。しかし、汲み取り口は、アパートの玄関の方やろ。何で、こんな処に余計な空間があるんかな」

後になって「大和荘」の持ち主が語ったところによると、「大和荘」はもともと鉄工所を改造したもので、一階奥の便所はその頃から位置が変わっておらず、地下にある浄化槽はその頃からのものであり、鉄管を通して汲み取り口は玄関先へ延ばしたものの、浄化槽の故障の際や何やかやの修理のために、埋められずに残した空間であり、アパートに改築する際、部屋への明かり取りのために、外壁に厚ガラスを張って、室内には小窓を取り付けたと云うことだった。今、その厚ガラスを突き破って、中根俊一の頭部が血だらけになって、アパートの外壁、南側の側壁から垂れ下がっている。そして、田中覚次の時と同じように、手前の方へ長々と投げ出された下半身の、その肛門部に深々と刺身包丁が尽き刺さっている。流れ落ちるどす黒い血が、アイボリーホワイトの部屋の壁を伝って、畳の上に血溜りを作っていた。

「あの厚ガラスをよう調べてくれ!」

鑑識課員に向かって、末次警部補が声高に叫んだ。


 若い頃の身軽な引っ越しとは違って、30年以上も住んだ家の転居というのは大変です。あと4日、何とか乗り切らないないと…それにしても、凛太郎は手伝うどころか、散らかった家の中で邪魔ばかりしています。