翌1月14日、北原秀樹は捜査本部に出頭している。

 しかし、苛烈な取り調べの結果、捜査本部は何ら得る処なく、その日の夕刻には北原を帰していた。北原は某セクトに属する闘争学生であり、現地闘争のため東京に赴いていたと告げた。別段、違法行為をしたわけでもなく、北原の身柄を拘束する理由はなかった。ただ、同署の警備課長が喜色満面の呈で、北原の名をブラックリストに書き加えたことは云うまでもない。

 さらに、北原は、自分には確かにそういう性癖があり、田中や正田美智男などと、何度か情を通じた事実があることを明かし、田中覚次という人物についての熾烈な非難を捲し立てた。

「あいつは全く、ひでえ奴だったんですよ! ホモの上に酷いサド・マゾ趣味でね、その上とにかく性格が悪くて、みんなからも鼻つまみものだったんです。大体、親父が不動産屋でね、金さえありゃ何だって自分の言いなりになると思ってたんですから。中根って小僧だって、きっと何処かから札束をちらつかせて引きずり込んで、無理矢理マゾの味を覚えさせたに違いないんだ。ホモってのもそうだけど、サドやマゾって云うのも、覚えちまうと恐ろしいもんですからね…けど、ぼくは殺りませんよ。そりゃ、みんなが、殺しても飽き足らないほど辟易してましたけど、誰だってあんな奴を殺して、一生棒に振るのはご免ですからね…」

北原は、闘争学生らしからぬ、ひどく不純な論理で自己弁護しつつ、更には、権力に対して不利であることを承知で、自分から出頭したんだからという思い上がった供述を付け加えた。

 北原を帰してから、第二会議室で、事件以来3度目の捜査会議が開かれた。

「結局、今迄の処、やっぱり臭いのは正田と北原、それに中根ということになりますね」

小杉刑事がまず口を開いた。

「まあ、待て。中根については、マゾ行為を強いられた肉体的・精神的苦痛から、直接、殺害の動機を持ったとしても、正田や北原は、その行動は臭いけど、直接的な動機がないやないか!」

末次警部補が抑えると、上司である中村捜査一課長が口を挟んだ。

「現場の状況はどうなんや。当夜、害者を殺れる状況にあったのは、正田だけなんか?」


 引っ越しの準備に忙殺されています。28日土曜日、福岡県糸島市に向かって出発します。シゲと凛ちゃんも一緒です。