「あったな、何か」
「ああ、今度こそだな」
「しかしお前も、本来ならこういう時、俺たちを統率する練馬の偉いさんだったのになあ!」
「それを云うなって!」
「右翼運動に身を染めたお前を、ぱりぱりの軍人だった父上が勘当したのは、おかしいなあ!」
「よせよ、もう」
待機の段階を飛び越えて、緊急呼集で叩き起こされ、まだ黎明のグランドに整列し始めた練馬普通科連隊の剛田誠一一等陸士と山崎範幸二等陸士は、全員整列までの短い時間、ひそひそ声で私語を交わし合った。この間の情勢は、彼らをぎりぎりと緊張させていた。1975年から始まった、凄まじい世界恐慌と第二次朝鮮戦争によって、日本国内はまたしても軍事一色に塗り潰され、多くの青年層に徴兵が実施された。新宿二丁目のゲイバーに勤めていた剛田など、軍の徴兵掛には格好の徴兵対象であったに違いない。軟弱で非生産的な人間を否定しながらも、従順で意志力のない、去勢されたような若者ほど、徴兵に即応じたし、もともとホモセクシュアルな性情があれば、隊内でそういうことを改めて教育する必要もないわけだった。
第二次朝鮮戦争は、北と南が分断されたまま、どちらの勝利ともつかずに停戦協定が結ばれ、世論の沸騰によって日本国内は再た元の腑抜けのような市民社会に戻った。剛田らは、しかし、隊内での生活に魅力を感じて居残った部分である。衣・食・住の心配どころか、若いビチビチした青年達の世話までしてくれる自衛隊が、天国のように思えたのであった。まして、失業の心配など、一向に頓着する必要もなかった。
社会では膨大な失業者が街に溢れ、中小の企業は軒並み倒産しているような状況だった。第二次朝鮮戦争の特需をあてこんでいた日本企業も、案外早急な戦争終結にあてが外れた。特需注文の廻ってこようとするうちに戦争が終わったのである。天文学的な財力をつぎ込んだ設備投資や拡張が水泡に帰した。政府も、大企業・財閥に大きな借りをつくってしまった。状勢は、ナチと結びついたクルップ財閥のそれを背景にした第二次大戦前のドイツと酷似していた。当然の如く、街には、彼らが云うところの「不平・不満分子」が溢れたばかりか、そうした不平分子を組織して、一大勢力にまとめ上げる作業が、いわゆる革命派の手によって、着々と進行していたのだ。
彼らはやがて、西日本を中心に巨大な革命軍を建設した。意外なほど強力な近代兵器と、意志統一された戦士で構成された彼らの赤衛軍は強力だった。彼らのバックに西日本の財団が癒着したのだ。
凛太郎の写真その2です。

「ああ、今度こそだな」
「しかしお前も、本来ならこういう時、俺たちを統率する練馬の偉いさんだったのになあ!」
「それを云うなって!」
「右翼運動に身を染めたお前を、ぱりぱりの軍人だった父上が勘当したのは、おかしいなあ!」
「よせよ、もう」
待機の段階を飛び越えて、緊急呼集で叩き起こされ、まだ黎明のグランドに整列し始めた練馬普通科連隊の剛田誠一一等陸士と山崎範幸二等陸士は、全員整列までの短い時間、ひそひそ声で私語を交わし合った。この間の情勢は、彼らをぎりぎりと緊張させていた。1975年から始まった、凄まじい世界恐慌と第二次朝鮮戦争によって、日本国内はまたしても軍事一色に塗り潰され、多くの青年層に徴兵が実施された。新宿二丁目のゲイバーに勤めていた剛田など、軍の徴兵掛には格好の徴兵対象であったに違いない。軟弱で非生産的な人間を否定しながらも、従順で意志力のない、去勢されたような若者ほど、徴兵に即応じたし、もともとホモセクシュアルな性情があれば、隊内でそういうことを改めて教育する必要もないわけだった。
第二次朝鮮戦争は、北と南が分断されたまま、どちらの勝利ともつかずに停戦協定が結ばれ、世論の沸騰によって日本国内は再た元の腑抜けのような市民社会に戻った。剛田らは、しかし、隊内での生活に魅力を感じて居残った部分である。衣・食・住の心配どころか、若いビチビチした青年達の世話までしてくれる自衛隊が、天国のように思えたのであった。まして、失業の心配など、一向に頓着する必要もなかった。
社会では膨大な失業者が街に溢れ、中小の企業は軒並み倒産しているような状況だった。第二次朝鮮戦争の特需をあてこんでいた日本企業も、案外早急な戦争終結にあてが外れた。特需注文の廻ってこようとするうちに戦争が終わったのである。天文学的な財力をつぎ込んだ設備投資や拡張が水泡に帰した。政府も、大企業・財閥に大きな借りをつくってしまった。状勢は、ナチと結びついたクルップ財閥のそれを背景にした第二次大戦前のドイツと酷似していた。当然の如く、街には、彼らが云うところの「不平・不満分子」が溢れたばかりか、そうした不平分子を組織して、一大勢力にまとめ上げる作業が、いわゆる革命派の手によって、着々と進行していたのだ。
彼らはやがて、西日本を中心に巨大な革命軍を建設した。意外なほど強力な近代兵器と、意志統一された戦士で構成された彼らの赤衛軍は強力だった。彼らのバックに西日本の財団が癒着したのだ。
凛太郎の写真その2です。
