初めの襲撃で、総連高校の生徒らには構えが出来ていた。微力ながらも、某かの武器を携えて山手線に乗り込んだ。電車がS駅のホームに着くと、明らかに右翼学生だと分かる学ラン服の男たちが、彼らの乗っている箱に殺到した。手に手に、バットや樫材の木刀を携えている。未だ社会の荒波も知らぬ、政治の何たるかに考えも及ばぬ幼い高校生たちに、やはり子供じみた駄々っ子右翼である学生らが襲いかかった。
 格闘技に慣れぬ高校生たちが、柄のでかいだけが取柄の学生に叶う筈もなかった。瞬く間に、無残に打ちのめされた。乱闘を警戒して、この日は丁度警察官が出張ってきていた。すわっとばかりに現場へ急行した警察官たちはしかし、あろうことか、高校生たちの方を逮捕検束した。凶器準備集合罪を適用して、未成年の彼らを手錠に繋いだ。逃げ去った大学生たちは、襟の徽章から、明らかに国士舘大学の学生たちだと分かった。
 三度目の乱闘は、高校生たちを巡っての争奪戦になった。反日共系のヘルメット学生らが出張ってきたのだ。警察官も混じえての四つに入り乱れた泥仕合だった。そして、この日も、左翼学生が何人か逮捕されて、ケリが付いた形になった。
 辛うじて逃れたヘルメット学生の中に靖清が、総連高校生の中に慶順が居た。
ー早く、こっちです。
追い縋る警察官を尻目に、慶順が靖清の手を引いた。いましもドアを閉じようとする、発車寸前の中央線の通勤急行にとび乗っていた。
ー悪い悪い、逆に助けられたなあ!
息を弾ませて靖清が云った。車内は快い冷房が効いている。乱闘の際の汗が一度にひいていく。爽快な気分だった。
ーあはは、そんなふうですね。あっ、腕に血が!
ー何でもないよ、軽い軽い、こんなの…
二人は最初から、昂奮の余韻に弾む思いで、急速に打ち解けあった。事後逮捕を警戒して、荻窪から普通電車で逆行した。
 中野駅裏の喫茶店で、二人は向かい合った。
ー酷いよな、奴ら。權力だってグルになりやがって。君こそ怪我なかったか?
たどたどしく語りかける靖清に、慶順は可笑しさを堪えるように、手の甲で口元おさえ、堪えきれずにプッと吹き出した。
ーどうしたんだ。何がおかしいんだよ!
ーだって、そこ、開いてますよ…
靖清のジーンズのチャックがばかになっていた。こんもりと、白いブリーフの脹らみが突き出ていた。