あの折のありさまは、今も紛れものう覚えております。わたくしには酷い眺めでしたが、あなたさまには、身も震わんばかりの歓喜の瞬間なのでございました。
いつものように、高膳に載せたお食事をお届けせんと、竹林の外れにさしかかりし時、小屋のぐるりに屯せし数多の雑兵に、わたくしは立ち竦んでしまいました。しかも、開け放たれし小屋の戸の狭間より、美しき胴丸姿の若武者があなたさまを掻き抱きおる図の垣間見え、わたくしめの幼き胸は、訳のわからぬ疼きに、きりきりと痛み始めます。雄竹の陰に伏せるわたくしの耳に、お二人の話し声が聞こえてまいります。
ーようご無事で、清匡殿
ーうむ、面目次第もない。手強い民兵どもに囲まれてしもうての、覚めると、この小屋に居ったわ。
ー誰ぞが清匡殿を?
ーうむ、この辺りの童じゃが、手厚う世話をしてくれたらしい…
ー童と申されると、小姓でございまするか。して、歳は如何ほどの…
ーよいではないか、左様なことは…さっ、秀臣よ、戻ろうぞ、わが陣へ…
わたくしには、あなたさまのお心が分かりませなんだ。わたくしのことなど、口端にものぼせぬあなたさまの不実に、喪心致す想いで、高膳を取り落としてしまいおったのです。その音を聴きつけし、むくつけき雑兵どもに取り押さえられ、お二人の前へ引き据えられてしまいました。
ー何者か、この童!
ーいや、よい、放してやれ! わしを介抱してくれおった童じゃ。手荒うするでない…
その時の秀臣さまとやらの眸を思い返すと、わたくしは今も、身の竦む思いが致します。黒曜石の如き大きなる眸に、赤い焔が点じたのでございます。大袈裟な物言いでは決してございません。あなたさまのお国、大和におわす阿修羅像斯くの如しやと、その後此方で見知りし像を前に、わたくしは、その折の秀臣さまの瞋恚の眼を怖ろしく思い出します。
ーさっ、清匡殿、まいりましょう…
されど秀臣さまは、わたくしのことなど捨ておけとばかりの風情で、あなたさまを促して小屋を去られました。
あなたさまは、とうとう、一言も、言葉を掛けてはくださりませんでした。されば、わたくし、その時だけは、深くあなたさまをお怨み申しました。燃えるが如き夕陽の凋落に向かわれるお二人のお背中を、口唇を噛み据えて、わたくしは凝然と睨んでおりました。
雑兵どもに力任せに打ち据えられた折擦り剥きしものか、わたくしの裸の脛より、夕陽の色に似た血汐が吹き出しておりました。悲しくも、泣き崩れて屈託晴らさんとする女々しさを、わたくしは持ち合わせておりませなんだ。
いつものように、高膳に載せたお食事をお届けせんと、竹林の外れにさしかかりし時、小屋のぐるりに屯せし数多の雑兵に、わたくしは立ち竦んでしまいました。しかも、開け放たれし小屋の戸の狭間より、美しき胴丸姿の若武者があなたさまを掻き抱きおる図の垣間見え、わたくしめの幼き胸は、訳のわからぬ疼きに、きりきりと痛み始めます。雄竹の陰に伏せるわたくしの耳に、お二人の話し声が聞こえてまいります。
ーようご無事で、清匡殿
ーうむ、面目次第もない。手強い民兵どもに囲まれてしもうての、覚めると、この小屋に居ったわ。
ー誰ぞが清匡殿を?
ーうむ、この辺りの童じゃが、手厚う世話をしてくれたらしい…
ー童と申されると、小姓でございまするか。して、歳は如何ほどの…
ーよいではないか、左様なことは…さっ、秀臣よ、戻ろうぞ、わが陣へ…
わたくしには、あなたさまのお心が分かりませなんだ。わたくしのことなど、口端にものぼせぬあなたさまの不実に、喪心致す想いで、高膳を取り落としてしまいおったのです。その音を聴きつけし、むくつけき雑兵どもに取り押さえられ、お二人の前へ引き据えられてしまいました。
ー何者か、この童!
ーいや、よい、放してやれ! わしを介抱してくれおった童じゃ。手荒うするでない…
その時の秀臣さまとやらの眸を思い返すと、わたくしは今も、身の竦む思いが致します。黒曜石の如き大きなる眸に、赤い焔が点じたのでございます。大袈裟な物言いでは決してございません。あなたさまのお国、大和におわす阿修羅像斯くの如しやと、その後此方で見知りし像を前に、わたくしは、その折の秀臣さまの瞋恚の眼を怖ろしく思い出します。
ーさっ、清匡殿、まいりましょう…
されど秀臣さまは、わたくしのことなど捨ておけとばかりの風情で、あなたさまを促して小屋を去られました。
あなたさまは、とうとう、一言も、言葉を掛けてはくださりませんでした。されば、わたくし、その時だけは、深くあなたさまをお怨み申しました。燃えるが如き夕陽の凋落に向かわれるお二人のお背中を、口唇を噛み据えて、わたくしは凝然と睨んでおりました。
雑兵どもに力任せに打ち据えられた折擦り剥きしものか、わたくしの裸の脛より、夕陽の色に似た血汐が吹き出しておりました。悲しくも、泣き崩れて屈託晴らさんとする女々しさを、わたくしは持ち合わせておりませなんだ。