悲しいことに、わたくしには、あなたさまをお労り申し上げる言の葉がございません。広州牛山里の窯で、白磁を焼く磁工組の辺首(巡視)の子に生まれたわたくしは、十四のこの齢まで、此地を離れたこととてなく、海峡を渡って此国へ攻め来られしあなたさまの御国のお言葉を、解そう筈もございませんでした。
 されば、わたくしめ、姿は白土に塗れし磁窯の職工なれど、心は丈夫にやわか劣るべきと、心を砕きて、せめては親身にあなたさまのお世話を致そうと、夜毎、寝所を抜けて小屋へ通いし次第にございます。
 あなたさまは、日を経るにつれて、俄にご回復され、床へ起き上がられるまでになっておいででした。
 頻りに頭をお垂れになられ、憮然とした面持ちで礼を云わるるあなたさまに、わたくしはただ、含羞んだ笑みをお返しするしか術を知りませんでした。
 お気に召すかと気遣いながらお膳をお運びし、薬草を求めて峻険な裏山へ攀じ登りも致しました。そのようなわたくしめの愚情をお気づきくださいましたのか、日毎、あなたさまの口元に、優しげな笑みをお窺い出来るようになり、わたくしのあなたさまへの慕情は、いや増しに募るばかりでございました。
 思えば、意志の疎通を計る言の葉の無くとも、わたくしとあなたさまの間には、徐にこまやかな情が通い合うようになって居たと思うのは、わたくしめの独り善がりな思い上がりでしょうか。
 しかれど、あなたさまは、お淋しげでございましたね。裏山に沈まんとする寂寞たる夕日を眺めて佇んでおられし風姿には、覆い隠せぬ敗残の将の哀しみが漂っておりました。お慰めする思いで御傍へ走り寄るわたくしの肩を、あなたさまは優しくお抱きくだされ、やはり、まんじりともせず、赤き返照の中に佇立しておいででした。
 わたくしには、そのようにして、あなたさまに抱かれて過ごすしばしの静寂が、この上なく嬉しうございました。心を砕いて一心にお護りしたあなたさまが、ことごとにお健やかになられ、この度はそうして、わたくしめを守って下されるような心地がしたのでございます。
 そうして夕陽に染まった、わたくしどもの穏やかな姿には、暗転する凶兆の翳は、微塵もさしてはおりませなんだ。
 それが、思いもよらず、あのようなことになってしまいました。しかれど、わたくしは、あなたさまを憎んではおりませぬ。いささかも怨んではおりませぬ。ただ、あなたさまが、あの若武者殿と、末永う契り添いてくだされば、わたくしの心根はこの上なく穏やかなのでございます。
 あの、悍ましき成り行きも、この身に加えられし屈辱の跡も、今は癒えております。あなたさまの手向けてくだされた、菊一輪の楚々とした風情が、心に滲みて嬉しうございました。
 されば、もう、かくしてくどくどと申し述べることもありませぬが、ただ、あの若武者殿のことが心に懸かります。朽ちて尚、妬みを覚ゆる我が身が浅ましうございます。お嗤いくださいませ。