ダマリンです。学生の頃、「野生時代」の懸賞小説に応募してみた習作を紹介します。下手くそですが、読んでみてください。

春驟雨
 清匡殿、お忘れでしょうか。あの凛冽なる白磁瓶のことでございます。わたくしめの焼き上げしものにございますれば、形歪にて、拙きものでございましたが、あなたさまは大層お褒めくだされ、釉上に墨痕淋漓と、「菊」の一字を認めくだされたあの白磁でございます。終の別れの折、あなたさまが抱え去られし後ろ姿の、この眼に灼きついております。如何なされましたでしょうか。愛おしく思い返す日がございます。
 加えて、あなたさまとの一期の契りが、幻とは思えぬこの身の火照りを伴いて頻りに偲ばれ、儘ならぬ今の我が身が辛う存じます。
 忘れもしませぬ。あの春驟雨の黄昏、雄竹林の傍らを流るる小清水の淀に、骸かと見紛うばかりの痛々しいお姿で、あなたさまは斃れておられました。
 磁器を焼く牛山窯に、錬正(土練り係)の一人として詰めておりましたわたくしは、裏山へカオリン(白色上釉の粉)の貯えを取りにまいるすがら、そこを通りかかったのでございました。
 見ればご立派な大鎧姿。すわっ、敵・秀吉軍の頭目かとばかり、一時は窯の皆に伝えようと踵を返しましたものの、あまりのお労しいお姿に、若輩ながらも哀れを催し、いつか、わたくしは、あなたさまをお助けしようと、そのお袖をとっておりました。
 既に兜は何処ぞへ捨てられておりしが、その御手には、しっかりと素槍を掴んでおられましたな。壮烈な御気性に見も竦む心地ながら、何とか竹林の外れの番小屋まで、あなたさまのお體を引き摺ってまいりました。幾年来か、捨小屋になっておりますれば、人目にも触れぬ破屋でございます。そこで、あなたさまをご介抱致す所存でございました。小屋までのあなたさまの御身は、酷く重うございましたぞ。恰も、それより後のあなたさまの御存在を卜うが如くに。
 夥しき刀傷に、あなたさまは満身創痍でございました。大鎧をお取りし、袖括りの直垂を除いて、わたくしは、この眼を覆うてしまいました。よくも、この様なご負傷でと、治療の術も知らぬもどかしさも手伝い、わたくしは涙ぐんでしもうておりました。
 半袴の下のお御足は、さらに酷い深手を負うておられます。うろ覚えのオモニの所作など真似て、わたくしは必死の介抱を致しました。
 ご立派な御体格でございましたな。未だ止まらぬ出血に、赤鬼のごとく染まりし胸郭、引き締りし胴。同じく赤布の如くなりし下帯に区切られた、したたかな腰まわりや、強靭な高腿。深手を負われて尚、艶張りを失わぬ滑らかな股肉に、血潮に塗れし剛毛の渦巻くを見、わたくしの胸は、早鐘を打たんばかりに高鳴り始めます。
 覚えのない血の滾りでございました。我に戻りし時、あなたさまの血塗れの下帯に、わが貌を伏しておりました。続く戦に沐浴も叶わぬあなたさまでございましたか、噎返るが如き雄々しき芳香に、わたくしは身を振るわせて慄き、わが股間をしっかりと掴みしめておりました。
 あの宵、血塗れの下腹に、しとどな白き血を撒き散らして差し上げたことを、あなたさまはお気づきだったでしょうか。

 凛太郎の写真は、近々(一か月後ぐらい)掲載の予定です。