雄二の白い肌が目の前に露わになっていた。未だ和毛のままの陰毛に縁取られた初々しい昂まりが、半ば皮を被ったまま堅く勃起している。俺が覆いかぶさるようにしてそれを口に含むと、寝転がった雄二の掌が俺の下腹にも伸ばされてくる。噎せ返るような初夏の山肌に吸いつくようにして、そうして二人だけの戯れに時を忘れていた中学生の頃。深々と降り積もる夜の雪の、その仄かな明るさの洩れ入る窓の中で、汗みどろになりながら、ようやく黒々と剛毛の生え揃った雄二の股間を押し開いて、母の化粧用のクリームをたっぷりと擦りつけた俺自身の昂まりをあてがい、一瞬の激痛に声を上げようとする雄二の口を掌で塞ぎながら、勢いを込めて刺し貫いた快感。
 何処へ行くのも二人だったし、何をするのも二人だった。そんな幼く甘い夢のような二人だけの世界を裂き苛んだのは、大学受験という愚にもつかない世俗に塗れたおぞましい出来事だった。俺にとっては愚にもつかないものであっても、教育者を両親に持つ雄二には一大事だった。いつの間にか、二人の間に溝ができ、それまで一緒にやっていた勉強にさえ、雄二は見向きもしなくなった。雄二がそんな薄っぺらな人間だとは思いたくなかった。両親にうまく云いくるめられ、「エリートコース」とかいうものに乗っかって、親友である俺を急に芥のように切り捨てるような人非人だとは、断じて思いたくなかった。しかし現実はそうだった。
 京都大学に合格した雄二を、二流大学しか入れなかった俺が初めてあのアパートに訪ねた時、雄二は迷惑そうな顔をした。もう以前の雄二はそこには居なかった。しかし俺は、やはり雄二が好きだった。あれほどまでに俺が打ち込んだ雄二を失いたくはなかった。雄二は笑って云った。
「大丈夫だよ。ぼくは女なんて好きにはならないし、もう決して人を好きになんてならないから」
と。また、さらに、
「一流企業へ入るまでは、大学だって、高校の時と同じぐらい頑張らなきゃ」
とも云った。そして、俺は荒れた。したい放題の出鱈目な生活を送った。夜の街へ足繁く通った。雄二以外の色んな奴と出会った。ほんとに愛そうと思った奴も居た。しかとダメだった。いつまでも雄二が俺の胸を占めていた。
 俺がゲイ・バーに出入りしていることを知ると、雄二はさらに俺を避けるようにさえなった。少しでも近くにいたいがために、ちょうど空室のあったあのアパートへ引っ越した時、雄二は、
「近いうちにぼくも引っ越すよ、もっと環境のいい処へね」
と云って鼻で笑った。さらに二人の仲は険悪になっていった。部屋を訪ねることさえ雄二は拒むようになった。ドアをノックすると俺に向かって、
「汚いから、触るな」
とも云った。俺の雄二に対する悲しい失望は、やがて憎悪に変わり、そして徐々に殺意にまで増幅していったのだ。
 あの夜、とうとう俺は決行してしまった。俺は賭けと混迷の中でもがいていた。憎い雄二の體などもう決して、例え最後であっても、抱いたりはしまい、と。しかし、その自分自身への禁色を破ってしまった時、ちょうどその頃、偶然知り合った過激派の牧田に一役買って貰おう、と。結局、土壇場になっても尚捨てられなかった俺の雄二への執着を、さらに惨たらしく雄二の屍を冒涜することで、きっぱりと吹っ切ってしまおう、と。
 救いようもなく、どこまでも落ちていく情念の凋落を目の当たりにして、敬次は、がっくりと頭を落として畳の目を見つめていた。どのくらい時間が経っただろうか。その畳の上に落ちた濃い影に驚いて、敬次は、ハッとして顔を上げた。昨日の警部補が、微笑みながら立っていた。そして、もう一人、屈強そうな若い男が、警部補と並ぶように敬次を見下ろしている。
「やあ!」
と警部補はぎこちなく片手を上げた。
「玄関先で呼んだんやが、返事がなかったんで…」
と警部補は云った。敬次はさらに深く肩を落とし、畳に両の掌をついた。全身が畳にめり込むようだった。すべてが終わったと思った。

凛太郎九州行写真です。
$凛冽の汗