「母ちゃん、俺、結婚するぞ! 好きな娘がいるんだ!」
何とはなしに、息子の京都での生活の様子を聞いていた芳江は、驚いて敬次を見つめた。小首を傾げた甘えん坊の口元が微笑んでいる。冗談だとは知りながらも、敬次の自分に対する心遣いが嬉しかった。
 芳江が敬次の秘めた性癖を察知していることを、当の敬次もよく分かっていた。お互いが、そうして周知していながら、腫物にでも触るかのようなぎこちなさで、そうした話を避けてきた。父親の居ない、内向的な性格の敬次が、そのような異常な性に目覚めてしまったことも、自らの不徳だとして諦観しながらも、極力そうした敬次の異常な性を、是正しようとした芳江だった。
 敬次の数少ない友達の一人である、中学時代からの同級生である白石という少年がよく遊びに来た。礼儀正しいしっかりした少年だったが、その子もきっと、敬次とそういう異常な行為に耽っていたのだろうと芳江は思っていた。いつだったか、その白石という少年が泊まったことがあった。いつもの習慣で、朝、洗濯した下着を二階の敬次の部屋へ届けてやろうとして、軽くノックしてからドアを開けると、未だ二人は眠っていた。ホーム炬燵に大布団を掛けて、一つの布団に包まるようにして微睡んでいる。別段普通の、その年頃の男の子らしい、何気ない同衾のように見えた。しかし、布団から少し離れたところに、無造作に放り投げてある、二つの白いブリーフが、芳江の頭をどやしつけた。転げるようにして階下へ戻ると、しばらく放心したように坐り込んでいた。恐ろしいものにでも出くわしたかのように、いつまでも心臓の鼓動が収まらなかった。
 それ以来、芳江は、敬次が家へ男の友人を連れて来るのに、いい顔をしなくなった。母と子の間はさらによそよそしく、ぎこちなくなってしまった。県内の大学を意識して敬遠し、勝手に京都の私立大学を敬次が受けてしまったのは、ちょうどそんな頃だった。

凛太郎九州行写真、あと少しあります。
$凛冽の汗