鑑識その他の初動捜査における捜査結果としては、発見者京都興業大学3年鶴見俊三が死体を発見したのは2月3日午前8時すぎ。現場に於ける死体所見から、死亡推定時刻は前夜2日の午後8時頃。死因は鈍器による頭蓋骨陥没であると見られるが、同時にガス中毒死による顕著な特徴を呈しており、解剖を待たなければはっきりしないということ。考えられるのは、頭部その他の裂傷などの出血が異常に少量であるため、ガス死したのち、頭部をメッタ打ちにされたという見方が最も濃厚であること。また犯人らは泥靴の跡などから複数で、鉄パイプ(伸縮式)2本を遺棄していること、などであった。
 橘警部補はいつになく渋い顔で腕組みして、ドアーの外で煙草をふかしていた。奇妙な死体だった。現場の状況は過激派犯行説を裏付けているが、過激派による抗争事件でプロパンガスによる殺害というのは初耳だった。念には念を入れたのか。『はて…』と考えこんだ警部補の背後へ、警察医が近づいて耳打ちした。
「はあっー?」
警部補は心底から驚いた時の癖で、素っ頓狂な声を張り上げた。被害者白石雄二の露出された下半身を調べていた警察医は、半ば拡大したままの肛門から、多量の精液らしきものを検出したと云うのだった。もう一度被害者の死体の傍へとって返した警部補は、問題の箇所を自分の目で確かめてみた。下半身裸体という異様な死体の理由が分かったような気がした。そう云われて細かに調べてみると、肛門の周囲にクリーム状のものがほんの少し残っているようでもあった。指先で触れてみた。鼻先へもってくると、仄かに香料の匂いがした。
 その後の解剖の結果、死因はやはりプロパンガスによる中毒と断定され、ガスによって瀕死の状態のところを鉄パイプでメッタ打ちにされたものであるらしいこと。死亡推定時刻も2日午後8時前後に間違いないこと。さらに被害者の直腸から採取された精液は、濃度や量などから若い男性のもので、血液型AB型を導き出したことなどが分かった。
 さらにその後の調査で2、3種の指紋が検出され、現場にあったタオル・洗濯用ロープ・包丁なども被害者のものではないことが、友人の証言とタオルに分泌していた血液型から分かった。このタオルの血液型もAB型であり、直腸内の精液の主とほぼ間違いなく同一人であることが明らかにされた。
 担当の三崎警部は、かなり楽観視しつつも、現場や死体の複雑な状況から、異常性欲者による暴行殺人と過激派の抗争による殺人という2つの方針を並行して、捜査を展開することを担当員に示唆した。若い田川刑事などは、現場から採取した指紋の該当者のうち、AB型の血液型の男を捜せば全ては解決だとタカをくくっていた。

凛太郎の九州行写真、まだあります。
$凛冽の汗