未だ弘三の上に重なったままの沖田の耳元で、電話のベルが鳴った。何か途方も無い事件を告げるような、けたたましい鳴り方だった。甘い快楽の余韻を破られて、荒っぽい動作で沖田は受話器を取った。教頭の引き攣れた声が耳朶を打った。
「すぐ来てくれ。今朝、わしの家が奴らに襲われた。焼き打ちだ。幸い怪我はなかったが……それより、奴らは学校へ向かったようだ。手に手に火炎瓶を持っておる。警察は清洲地区へ向かっていて手薄だ。」
「清洲中学でも?」
「ああ、暴動だ。奴らは狂っておる。中学生とは思えん。」
沖田は支度を始めた。弘三が起きてきた。一緒についていくと云う。
「いや、だめだ。危ない。ここに居るんだ!」
「いやだ。ついていくよ。また先生らが皆んなをいじめるのを見に行くんだ。この目で確かめるんだ。」
「虐めるってどういうことだ。まさか、おまえ、あの新聞に載ってた……」
沖田は愕然とした。やはり、弘三は彼岸の人間なのか。そう思いたくはなかった。自分の手で、がっちりと繋ぎとめているつもりなのだ。先日来、沖田の胸を覆っている暗い疑惑が発酵する。弘三の眼差しが一瞬宙を探った。みるみるその相貌が蒼褪めた。
「先生ら大人が、ぼくらをダメにしているって云ったんだよ! 新聞の事だって否定はしないよ。」
そして弘三は、悲しみを込めた眼で沖田を見据えた。弘三は未だ下着一枚だった。優しげで、それでいて精悍な、輝くような肢体だ。浅黒く引き締まった腰まわりを、白い下着がくっきりと際立たせている。動乱の中へ、この愛すべき躰を投げ込みたくはなかった。罵りの言葉を吐きながらも、弘三は沖田を信頼している筈だ。
「バカ! 甘えるな!」
沖田は弘三の頬を殴った。よろけながらも弘三は、下唇を強く噛み締めて沖田を睨みつけようとする。
「何でもかでも大人が悪いなんて、甘ったれたことを云うんじゃない。おきえはもう中学生だ。一個の人間だ。」
その諭しが空しいことは、沖田にも分かっていた。諭して素直に項垂れる年齢ではない。悲しくも切ない過渡期の硝子細工なのだ。沖田は弘三を抱こうと近づいた。抱きしめてやるしかないのだ。しかし、弘三はその腕から逃れ出た。衣服を抱えて、部屋を走り出た。開け放たれた戸口から、白い雪片が舞い込んだ。
「すぐ来てくれ。今朝、わしの家が奴らに襲われた。焼き打ちだ。幸い怪我はなかったが……それより、奴らは学校へ向かったようだ。手に手に火炎瓶を持っておる。警察は清洲地区へ向かっていて手薄だ。」
「清洲中学でも?」
「ああ、暴動だ。奴らは狂っておる。中学生とは思えん。」
沖田は支度を始めた。弘三が起きてきた。一緒についていくと云う。
「いや、だめだ。危ない。ここに居るんだ!」
「いやだ。ついていくよ。また先生らが皆んなをいじめるのを見に行くんだ。この目で確かめるんだ。」
「虐めるってどういうことだ。まさか、おまえ、あの新聞に載ってた……」
沖田は愕然とした。やはり、弘三は彼岸の人間なのか。そう思いたくはなかった。自分の手で、がっちりと繋ぎとめているつもりなのだ。先日来、沖田の胸を覆っている暗い疑惑が発酵する。弘三の眼差しが一瞬宙を探った。みるみるその相貌が蒼褪めた。
「先生ら大人が、ぼくらをダメにしているって云ったんだよ! 新聞の事だって否定はしないよ。」
そして弘三は、悲しみを込めた眼で沖田を見据えた。弘三は未だ下着一枚だった。優しげで、それでいて精悍な、輝くような肢体だ。浅黒く引き締まった腰まわりを、白い下着がくっきりと際立たせている。動乱の中へ、この愛すべき躰を投げ込みたくはなかった。罵りの言葉を吐きながらも、弘三は沖田を信頼している筈だ。
「バカ! 甘えるな!」
沖田は弘三の頬を殴った。よろけながらも弘三は、下唇を強く噛み締めて沖田を睨みつけようとする。
「何でもかでも大人が悪いなんて、甘ったれたことを云うんじゃない。おきえはもう中学生だ。一個の人間だ。」
その諭しが空しいことは、沖田にも分かっていた。諭して素直に項垂れる年齢ではない。悲しくも切ない過渡期の硝子細工なのだ。沖田は弘三を抱こうと近づいた。抱きしめてやるしかないのだ。しかし、弘三はその腕から逃れ出た。衣服を抱えて、部屋を走り出た。開け放たれた戸口から、白い雪片が舞い込んだ。