陶風中学の数学教師、沖田宗一は一連の新聞報道に不審を抱いた。堀弘三のことではないかと思った。堀弘三は、沖田の受け持ちクラスの生徒であり、また大切な自分だけの少年でもあった。二年生を受け持った最初の日から、沖田は、堀弘三の自分を見る眼差しに拘泥した。縋りつくような、それでいて神秘的な眼であった。初めての個人面談の日、堀弘三は自分から告白した。
「先生、ぼくのこと嫌いですか?」
突然の不意打ちに沖田は狼狽した。体制を立て直す暇も与えず堀は続けた。
「一年生の時、京町の本屋で先生を見ました。土曜日でした。レジで先生の後ろに立ちました。どんな本を買うんだろうって、興味があったんです。B誌でしたね、先生が買ったのは。」
それで、すべてが理解った。男同士のあれこれを露骨な描写で羅列した利益本位の雑誌だったが、毎月、発売を待ち遠しく思っている沖田だった。あの現場を見られたのなら、と沖田はむしろ、居直った気持ちで応えた。
「そうか。見たのか。確かに俺は男が、いや、おまえのような少年が好きだ。それに、おまえほど美しければ……」
沖田は、堀が他へ漏らすまいという勝手な確信を前提に、滔々と自己弁護めいた話を堀に聴かせた。そしてそれは、沖田から堀弘三への、秘めていた恋慕の暴露ででもあった。
 それ以来、堀弘三は、沖田にとって可愛い小悪魔に変貌した。堀は日曜日ごとに、沖田のアパートを訪ねてきた。食事を作ってやり、風呂に入れて、沖田は堀の伸びやかな裸身を抱いた。錯乱の時間が終わると、堀は疲れ切って沖田の胸で眠った。その寝顔を眺めながら、沖田はこの上ない充足感に浸っていた。こいつの為なら、どんなことでもしてやろうと思った。どんなに慈しんでもしきれないほど、大切な奴だと思った。
 しかし、その思いも、このところ、狂乱した生徒たちへの対応に頭を痛める沖田からは、間遠くなっていた。堀と二人っきりになれる筈の日曜日も、会議などに出かけねばならないことが何回かあった。そんな矢先の出来事だった。仰々しい新聞記事を見つめながら、最初長髪だった堀の髪の毛を、自分の好みで短くさせたことに思い至って、沖田はふっと眉根を曇らせた。