凛太郎がちょっとだけ変わりました。中一から中二になったなという感じです。スキンシップしても、無闇に噛む頻度が少し減ったような気がします。動作も少し、落ちついてきました。シゲは気づいていないようですが、凛ちゃんは日毎に凛々しくなっています。


凛冽の汗

新シリーズ 進学歳時記 ①


 あれは確か、もう十年も前の洛星高校の合格発表の日のことでした。午後五時ちょっと前、折から雪が激しく降り始めて、白梅町から行く人の足も急ぎがちで、私はある生徒の番号を確認しようと、道すがらのうどん屋さんの前で雪を避けながら、発表のときを待ち構えていました。その生徒の番号はありました。お母さんと二人で見に来ていた彼は、くずおれるように私にしがみついて泣きました。勿論嬉し涙です。お母さんもまた、しきりにハンカチを使っておられました。

 目を転じると、同じ校の同じクラスの生徒たちが、合格の喜びを全身で表すかのようにジャンプしたり、ピースサインをしたりしてはしゃいでいます。私は一人ひとりと堅い握手を交わします。それは、こみあげてくる歓喜を持て余すような、ほんとに充足した瞬間です。この子はこんなに笑う子だったろうか、なんて素敵な笑顔なんだろう。手を握る一人ひとりとの間に温かいストーブがあるような、嬉しい錯覚にとらわれたりもしました。そして、私は、次の瞬間、はっとして凍りついてしまいました。歓声を上げている集団から離れて、たった独り立ち尽くしている、やはり同じ校の同じクラスの生徒に気がついたからです。

 彼の番号はありませんでした。彼は発表のボードを見つめたまま、微動だにしません。先刻からの雪はさらに激しさを増し、独り立ち尽くす彼の肩に髪の毛に吹きつのります。みるみるうちに彼の頬を大粒の涙がつつーと伝い、ポタポタと、積もり始めた白い雪の上に落ちていきます。それでも彼はただ立ち尽くしているのです。私は、声を掛けようとして掛けられず、抱き締めたくても近づくこともできず、同じように涙ぐむしか術がありませんでした。

 その彼が公立高校で三年間頑張り、今年見事に神戸大学に現役合格を決めてくれましたと、或る年の開講式で私は、彼を何百人もの後輩や保護者の前で紹介しました。これが我が塾の生徒なのです。此処に集い、此処で学んだ人たちは、決して卒園後も燃え尽きはしないのですと、我がことのように誇らしく彼を紹介しました。(これから、何回かにわたって記述していくこの進学歳時記が巻頭を飾る)「◯◯◯」創刊にあたってもまた、彼のそんな生き方こそが巻頭の辞を飾るにふさわしいと思い、重複の愚を承知でここに再び記しました。そこには、理屈ではない生の人間の生き方が雄弁に語られていると思うからです。願わくば彼のように涙せず、確かな合格を勝ち取っていく、そのための羅針盤として、この進学歳時記が有用に使われれば幸いです。


 かつて勤めていた塾の機関誌の巻頭言です。ですから、ちょっと格好つけていますが、我慢してお付き合いください。よろしくお願いしますと、凛太郎も一緒に愛想を振りまいています。