今日は朝起きると、一面真っ白になっていました。シゲが入試激励の取材で出ていくので、いつも通りに朝食をとって、一段落してからも盛んに雪は舞っていました。シゲを送り出してから、凛太郎の散歩です。はしゃぐ、
はしゃぐ。降る雪をパクパク食べて、大喜びでした。
僕の友達にYという奴がいる。そいつは、女嫌いで、真面目なのか不真面目なのか、明るいのか暗いのか分からない奴で、僕の友達の中でもみんなとはちょっと雰囲気が違っている。でも、女嫌いなはずのそいつが、僕を信用してか、それともその子と僕が学校で親しく喋ったりしているからか、
「おれ、Fさん好きなんや。」
と言った。
今日もいつものように、Yの家へ遊びに行った。普段のようにふざけたことを言ってゲラゲラ笑っていた。ふと、机の上の一冊の古いノートが目に入った。僕は手に取ってみた。そこには、幼稚園児らしい可愛い女の子の顔が描かれていた。みごとなデッサンだった。一九八×年×月×日、「〇○」と人の名前が書き添えられている。僕ははっとした。Yには妹がいて、亡くなったって聞いたことがあった。僕はそのノートをすぐに閉じて元の所に置いたが遅かった。
「それ妹やねん。俺が小学校卒業して中学生になる前に、持病の心臓で死んでしまってん。◯◯っていうねん。」
僕はうろたえていたから訳の分からないことを聞いていた。
「そんな、絵まで描いてやって、可愛がってたんか?」
「いや、あんまりおぼえてへん。俺もまだガキやったし。」
「そんなに可愛がってたんやったら、つらかったやろ。」
「うん、つらかった。でも可愛がってたらよかったんやけど、あんまりそうでもなかったし、余計につらいねん。」
ここまで僕は、Yと目をそらさずに話が出来た。
「実はな、Fさんと◯◯って、雰囲気っていうか、どっか似ているところがあんねん。」
そう言うとYは、「ちょっとトイレに、」と言って部屋を出て行った。Yは泣いていたのかもしれない。僕は泣いてしまった。今までYを、Fさんのことで茶化してきた自分が、どれだけ愚かであったか分かった。自分自身への怒りと恥ずかしさで、耐え難い気持ちになった。
Yが部屋に戻って来た。
「おい、宗樹?」
と言って僕の肩を揺さぶった。人前では一度も涙を見せたことがなかったが、今日ばかりはどうすることも出来なかった。『ブチッ』と何かが切れた。泣いた。生まれて初めて、こんな気持で泣いた。Yが、
「やめてくれぇえ。」
と叫んでいたのを覚えている。」
(五条校中三・◯◯宗樹君の作文から)
修学旅行では、廊下に正座させられた口の、腕白小僧の彼である。教室でも悠然として、私の説教や小言など何処吹く風といった風情の彼がこんなにもやさしい。大柄な彼の中にある「人間理解」の繊細さを、いま私は目を見張るような思いで受け止めている。そして、やはり私は、彼らを信じていて良かったと痛感する。ありがとうと胸の内でそっと呟いてみる。やさしさが強さであることを、君たちはまた教えてくれた。
そうなんですよね。腕白な生徒ほど、強がりの生徒ほど、人情味のあるいい奴だということ、私はよく分かっています。ですから、ウチの凛ちゃんも信じているのです。きっと、立派な黒柴になるだろうと。口に葉っぱ咥えて意気がってる凛太郎を心から信じているのです。
