今日は一日いい子でした。なのに、シゲが戻って水をやると、いつもになくギャンギャンとうるさく吠えたので、私が叱ると、一層激しく狂ったように吠えました。堪忍袋の緒が切れました。さっきから、車の中でもひどい噛み魔になって、鬼のような顔でかかってきていたのです。持っていた水飲み用のブリキの器で、思いっきり叩きました。ケージの中へ逃げ込んだのを、追い詰めて叩きました。キャンキャンというまで叩いているとシゲが来て、止めてくれました。しばらくは、私の傍へは近づかなかった凛太郎でした。
私は、彼自身の第一信のまとめを書き抜いて、返してやろうと思う。熱っぽく、光輝いていた彼そのものを。
「僕は、『未来への手紙』の末尾にこう書きました。『君の辞書に不可能という文字はないはずです。無限の可能性を秘めた自分を認めてあげてください。いつも夢を持ちながら走っている君が、自分が好きです。』心の中のモヤモヤをすべて吐き出すことができました。はっきりとした目標も夢もまだありません。だけど明日があります。そんな気がしてきました。未知の何かを求めて、再び走り続けます。自分で自分を好きになれるように……。」
声に出して読むと瞼が熱くなる。こんなにも果敢に、未知へ向かった宏知だったのだと。ならば負けるな。悩み、苦しみつつも懸命に歩こうとするお前を、先生は大好きだ。先生が、かつてのここでの友が、それ以上にご両親がお前を好きなのに、お前自身が自分を愛せないはずはない。そう励まそうとして第五信の末尾が目にとまる。
「私立の入試まであと二十日、公立まではあと二か月あります。その日までに、きっと一人でも多くの友を、いや一人でもいいから信じ合える人をつくります。そして崩壊しつつある自分を建て直し、また光輝ける日を一日でも早く迎えられるように頑張ります。今日で冬休みも終りです。明日から再び、大きな試練が始まります。」
そうだ宏知、それこそが、そこがお前の、「生きる場」なのだ。どんなに辛くとも、いかにしんどくても、明日からまた始まる日常の中でこそ生きてほしい。夢も目標もそこにある。愛も信頼もすべてそこにあるのだと、半ば自身に言いきかせながら、私は拳を握りしめる。仙台と京都、遠く隔たっていようと、共に、今を生きる仲間じゃないかと、眼の裏の笑顔の宏知に、彼の好きだった佐藤勝彦さんの詩を、心をこめて私は読み上げよう。
やるやるいうても
何やるんやら
わからんやろ
単純なことや
今いちばん
大事なことすりゃええ
何でて
今しかないからや
そうですね。今しかないのですよね。凛太郎を愛してやるのも、今しかないのですよね。高橋君は、仙台一高から東大に入り、今は研究者です。今しかない、という理念を彼は、見事に貫いたのです。私もまた、彼の姿勢に学び、残された人生を自分の理念の通りに生きていきます。
