またまた今日もお留守番でした。先に帰ってシゲを迎えに行きます。そのときによって色々ですが、イトーヨーカドーで待ち合わせが多いです。凛太郎も一緒で、駐車場でおしっこをさせたり、水を飲ませたりしてシゲを待ちます。


凛冽の汗
高橋宏知君の巻 ②

 彼は東大寺高校、洛星高校を志望していた。模試の成績は大概五〇番以内であった。それが家庭の事情でご両親の郷里である仙台へ戻らなければならないことになり、同時に彼の熱い夢が一瞬にして霧散してしまったことになる。どんなに悔しかったろう。悲しかったであろう。けれども、そんな悲運に愚痴ひとつ言わず、彼は仙台での新しい生活に順応していこうと務める。

 「小説とか作文とか書いて、自分の気持ちを一パーセントでも多く解ってもらおうと努力しました。単なる甘えかもしれませんが、友情を尊重したいと思っています。それなのに、不安や幻覚に惑わされて、かつて、そこで築き上げた友情を壊そうとしている自分は愚か者ですね。だから……。

 こんなことを考えながら、二キロある通学路を通っています。ここに来たとき、今までと変わらず勉強するぞと決意を固めました。最初の二、三日は快調でした。けれど、ふと思うのです。『何のために勉強しているのか?』と。以前は夢がありました。目標がありました。今の自分を何かにたとえると、目のない龍。大事なところをなくしてしまっているような気がします。

 先に、『ここは、僕のすべてでした。』と書きました。そこをやめた今、僕の小さな手のひらに何が残っているのでしょうか……。

 何か必死になれるものをと、僕は部活を始めました。部は野球部です。一年生や二年生にまじって、グランド整備からやっています。」

 私はこの手紙を、彼の古巣である長岡校の、既に中三になった特進クラスのみんなに読んで聞かせた。典子が目を真っ赤にし、耕吾がボロボロ涙をこぼした。もちろん私以上に彼を愛していたみんなが、一言も洩らすまいと、真剣に聞き入ってくれた。

 それから、八月に仙台のお菓子をみんなにと送ってくれた。宅配便にはさみこまれていた第二信、九月に第三信、十一月に第四信と続き、一月十二日の消印の第五信が届いたのは、まさに入試一ヶ月前であった。「友達が信用できない。どんなに念を押して約束しても裏切られる。」「大声を挙げて泣きたい気分です。」「価値観が崩壊しつつあるのです。」と恐らくは、入試を直前にして殺伐とした周囲であることを計算に入れずに嘆いているよと、慰めてやることしかできない近況を綴り、けれど解り合える友ができたこと、昔の「合格者体験記」を読んで、中学入試の頃の自分を戒めたこと、そして混乱した自分を持て余していることを呟いている。そんな彼の手紙にまだ返事を書いてやれずに、私はこの稿を書いている。「だけど、どんなに辛くても、これだけは守ります。守ろうと努力します。」と彼は自らを励まして言う。

「僕は、思いやりを持って、できる限りのことをやっています。」

「僕は人を信じます。」

と。そして新たに加えて、

「不変の過去を振り返らず、無限の未来をみつめます。」

と宣言している。


 こんなに熱い生徒が、少年が居たことを私は忘れていました。子どもたちのことで悩んでいらっしゃるお父さん、お母さん、あなたの愛すべきお子さんはこんなにもすばらしいのですよ。こんなにも純粋なのですよと、教えてあげたいと思うのです。そしてウチの凛太郎も、きっと熱く赤い血潮の持ち主なのです。そう、心から信じています。それにしては、何だか態度悪いですね、凛ちゃんやーい……。