画像を選んでいて、初めの頃の写真を見つけ、そのあまりの変貌に驚愕し笑い崩れました。凛太郎、ほんとに大きくなったねと、話しかけてやりました。


凛冽の汗

みんなへ

 長い間ありがとう。こんなに不甲斐ない担任だったのに、文句ひとつ言わずに向き合ってくれたみんなに、今、心からお礼を言いたいと思う。そして、何もできなかった無力な担任だったことを深く詫びたいと思う。

 いろんなことがあったね。四月、五月、みんなはほんとにおとなしくて、M先生から、「こらっ、ちょっとは喋れ、言うてしばいたってん。」と聞かされたときには、思わず吹き出してしまったけど、この先どうなるのかと不安でもあった。「君がもっと輝くために」というアンケート・プリントの集計で、みんなの八〇%が子どもの頃、内向的でおとなしかったという結果に驚いたが、何かしら、みんなのことが急に身近に思えるようにもなった。先生もまたそうだったからだ。今だって気が弱くて、言いたいことも言えない。私語や怠惰を見て、すぐに「こらっ」と叱れない。傷つけないかとためらい、言葉を選んでいるうちにタイミングがずれてしまう。

 H先生もそういう人だ。生真面目で融通のきかない、不器用な人だ。でも、弱者を守り、弱者をいじめる理不尽は断じて許せないというH先生の誠実は、きっとみんなの心に届いているはずだ。

 そして、M先生こそ最高の先生だ。二日酔いで気分が悪くても、何か不快なことがあっていらいらしていても、みんなと向き合えば、いつも元気いっぱい、明るく、楽しい授業をしてくださったはずだ。飲み友達でもある先生たち三人のうちで、M先生がほんものの大人だった。みんなよりもまず、先生がM先生を心から信頼していたことを告白しておこう。

 あの、グループつくり変えのときの事件。四、五十分かけても新しいグループがつくれなかったクラス全体に対し、先生は怒鳴りつけ、主体性がないと一方的に激しく罵った。今、思い出しても恥ずかしくて、どんなに詫びても取り返しがつかないようなことを、先生はしてしまったわけだ。みんなを傷つけてしまった。目の裏に、あのときのみんなのかなしそうな顔が浮かんできて、その度に胸が苦しくなる。

 雨降って地固まると言う。何人かの人と話ができ、わかり合うこともできた。それ以後、どれほどのことができたのか。何人の人を支えられたかはわからない、けれど、みんなは、着実に前へ、前へ歩んでくれた。始まった頃は低調だった日進の成績も、今は、すばらしい伸長を遂げている。結局みんなは、先生なんかに頼ることなく、互いに支え合い、助け合い、先生の気づかないところで、すてきなクラス集団に成長していてくれたんだと思うのだ。みんなの中のある人が、年賀状に、こんなふうに書いてくれた。

「同窓会はよき思い出となるようにしたいです。何回もやってください。本当に楽しいクラスですから……。」

ありがとう、みんな。ありがとうA校三特のみんな。口先ばかりの先生なんかより、みんなの鋭敏さと繊細さこそほんものだったと、もう別れねばならないようになってから気づいた愚かな先生だ。こんなにも温かく、こんなにもやさしいみんなが幸せにならずに誰がなるのかと、今、しみじみと思う。担任という立場のためではなく、兄として、父として、二十八名みんなが合格してほしいと心から祈る。いや、必ず合格すると固く信じている。

 一人ひとりの名を呼びながら、一人ひとりのやさしさを、純粋さを、温もりを、そして愛をかみしめている。大切なみんな、先生の弟が、妹が、これから、それぞれの道を歩き出す。多感であってほしい。様々なことに自分の身体で挑戦してほしいと、忠告めいた言葉を贈らずとも、みんなはきっとそれぞれの道で、いつだって熱っぽく、ひたむきに、いつまでも澄んだ瞳を失わずに、自分らしく懸命に生きて行ってくれるだろう。

 ありがとう。A校三特のみんな。先生はとても楽しかった。幸せだった。


 声がつまり、涙がにじんで、思うように授業が進められなかった。けれど、すばらしい時間だった。今、これを読んでいる君に、いいことをひとつ教えてあげる。それは、ぼろぼろ涙を流すことのすばらしさだ。例えば、お母さんといさかいをした。後から考えると、自分の方が明らかにいけなかった。もっと素直になっていれば、あんなひどいことをお母さんに言ったりはしなかったのにと、後悔したことはないかな。小説でも、テレビドラマでも、映画でもいいから、周囲に恥ずかしいと思うほどボロボロ涙を流して泣いてごらん。その後は、とってもすがすがしくなって、気持ちがとっても素直になってる。お母さんにも「ごめんなさい」って言えるし、まわりの人がみんないい人に思えるはずだよ。

 ともあれ、A校三特のみんなは、それから二週間後、満を持して入試に挑み、とってもいい成果を、結果をつくり出してくれた。君たちもどうか、彼らの後に続いてほしい。


 長い引用になりましたが、中休みの意味もこめて、頑張っているであろう中三生へのエールを再び書いてみました。この「凛列の汗」を初めから読んでくださっている人なら、凛太郎の成長ぶりと共に、日々逞しく伸びていく中学生たちを思って、しみじみとしたものを感じてくださるでしょう。次回はまた、私自身のことを話してみます。