凛太郎がまた成長しました。これまで、2階への上下は、階段を上がることだけしかできませんでした。ところが、今日、初めて、自分で階段を降りていったのです。こうして少しずつ、青年に、いや成犬になっていくのですね。


凛冽の汗

成長……中二の日記より

昭和三十九年十二月三十日(水)晴のち曇

 使い古し、さびついた竈の中へ、さっき買ってきた太い薪を放りこむと、いやにけむたい白い煙が、ぼくの目をつき抜け、頭へ抜ける様な感じがしました。家の中では、蒸しあがったもち米が臼の中へ放りこまれ、それを、力のあり余った様な叔父たちが、力まかせにつき上げていきました。蒸篭のすき間から湯気が立ちのぼり、次のが蒸し上がります。

「おい、隆、ついてみい!」

と乱暴に言葉がかけられ、ぼくは喜びいさんで、臼の中のもち米をつき始めました。

 昨年より、ずっと力は強くなっていました。何しろクラスでは、自慢じゃないけど腕ずもうはぼくが一番です。

 今日、我が家は、お正月の為のもちつきです。我が家としては恒例の暮れの行事です。何しろ全部で十六人の大家族の食べ代ですから、ちんつき屋なんかには任せられません。ですから毎年、我が家では、寒い冬だと言うのに、叔父たちは汗をたらしてやっています。もちつきをしないと『お正月が来るぞ』って感じが我が家には湧いてこないのです。

 夕方、陽が沈んでから、皆で夕食を済ました後、テレビに見入っていましたが、ぼくはすぐに飽きて、何だかしんみりした心になってギターを弾き始めました。ギターは、二週間ほど前に買ってもらったのですが、まだ少ししか弾けません。でも、「禁じられた遊び」という曲の前奏部なら少し弾けそうです。この辺りの住宅街は、夜は比較的静かです。その静けさの中に流れる、もの淋しいギターの音はほんとに感じがいいです。


 中二の終り頃、すでにぼくは今の身長に近かった。力も強くなり、もう身体はできていたようだ。大柄で縦列をつくるといつも後尾のほうだった。ぼつぼつニキビが出始め、丸刈りだった頭髪も伸ばし初めていた。ぼくは十四歳、まだ珍しいテレビに見入るよりも、ひとりギターを弾き、小説を読む、そんなおとなしい少年に成長していったようだ。


 ほらほら、私のほうがずっと、おとなしかったようです。凛太郎のような、乱暴でやんちゃな少年ではありませんでした。えっ? 凛太郎はまだ、少年にもなっていないのですか。腕白な小学生ぐらいなのですか。うっーそー。