一昨日の夜から、昨日一日、ウンチをしなくて、また心配だった凛太郎が、今朝、シゲを送っていずみやで買い物をしたあと、家に帰ると待望のウンチをしました。とにかく家に上がらないとしないのです。ともあれ、便秘かと心配しましたが、元気にウンチをしたので、一安心です。
草鞋づくりを始めた。けなげに働く娘の姿にうたれたからである。遊んでいてはいけないと思った。武家用のもので軽くないのが難だったが、往復三十里の酷使にも耐えると評判になった。が、或る日、問屋の手代がもみ手をしながら言う。手抜きをしてほしいと。丈夫すぎてはつまるところもうけがないということになる。伝三郎は手間賃もとらず、憤然として問屋をとび出した。
街道の普請に人足として働いた。久しぶりの力仕事は爽快だった。ところが、何日かすると周囲の人足たちが伝三郎に言う。くそまじめに働くな、そうまじめにやられると、俺たちまで手抜きができなくなる、と。伝三郎は忿りを抑えながら仕事場から駆け去った。
伝三郎は老人と対坐して別れをつげた。やはり山へ入るつもりだと。老人はうなずきながら聴いていた。伝三郎の言葉が終わると暫く眼をつむって何か考えに耽っていたが、やがていつもの淡々とした調子で、「よくわかりました…」と話し始めた。「世間が汚れはてている。卑賤で欺瞞に充ちているからつきあえない。だから見棄ててゆく……こう仰るのですね」「よくわかりました。しかしこの老人にわからないことが一つあります。それはあなたご自身のことです。あなたは此処へいらっして数日後に身の上話をなすった。家中の方々の多くが御都合主義で精錬でない。江戸へ出れば世の中は無恥で卑しい。悪徳が横行してどこにも誠実はない……そのようにお話なすった。とかし、いちどもご自分が悪いという言葉はございませんでした」
いつも、今でも、このくだりにさしかかると、身が引き締まります。老人の言葉が、この後、伝三郎を、私をずんと斬り下げるのです。凛太郎よ、覚悟して聞けよ……
