タツヤ君との夜勤にも慣れてきた頃、支配人の酔っぱらい襲撃にあった。

深夜1時過ぎに酔っ払って戻ってくるのはよくある事なのだが、その日はいつもとレベルが違った。

普段なら適当に話につきあってれば1時間くらいで帰るのだけれども(それでも1時間何もできないのですごい邪魔)

その日は一向に帰る気配がなかった。


「ご飯買ってきたー」


と言いながらカレーうどんを温めて事務所で食べ始めたのである。

広がるカレーの匂いが酒の匂いと混じって何とも言えない感じになった。

食べてる間は大人しくしてるかなと、逃げるようにフロントに出て仕事をしていたのである。

タツヤ君も掃除を始めようとしていた。


ベシャッ!


事務所から変な音が聞こえてきた。

タツヤ君にも音が聞こえたらしく、事務所の方を伺った後にこっちへ視線をよこした。

さっきまでの行動を思えば想像に容易いのだが、恐らくカレーうどんを落としたとか零したとかそういう類だろう

自分で掃除しろよ。とか思ったんだけど・・・支配人がなんのリアクションも起こさない。


・・・あれ?

普段の支配人なら、あー!とか、わー!!とか騒ぐはずなんだけど・・・

おかしいな・・・そう思ってちょっと覗いてみれば、机に突っ伏してる支配人。

座ってる股から床にかけて広がるカレーうどん。

そばに置いてある支配人のカバンにまで茶色いシミが・・・

そして聞こえてくるイビキ


あ・・・食べてる途中で寝やがった。


事務所を覗いたまま動きを止めた私を不思議に思ったのか、タツヤ君も様子を見に来て同じく絶句。


「最悪・・・」


そう呟きながら二人は考えた。

この後、どうしよう・・・。


できるなら、見なかったことにして放っておきたい。

だが、匂いもやばいし、早くスチームかけて掃除しないとカレーが絨毯に染み込んで落なくなるし・・・

だけど、寝てる支配人を起こして掃除するのも色々と嫌。

でもそうやって悩んでる間に、カレーはどんどん染み込むし・・・

だけど、ただでさえ仕事の邪魔されてるのに・・・これ以上仕事増やされるのも納得いかない!

こんな葛藤をしてたわけだ。


結局、起こして掃除をする事にしたのだけれども。

寝ぼけながら、「あれー・・・なんかゴメン?」とか言ってる支配人を帰るか車で寝るように説得して追い出し。

飛び散ったカレーうどんの始末を二人で始めた。


最新のスチームをもってしても、カレーの威力は凄まじく・・・全然落ないねと格闘すること1時間。

急がないと本来の業務が・・・と焦ってると、自動ドアの開く音がした。

お客さんかな?とか思ってフロントへ出てみると、支配人の姿がそこに。


いやいやいやいや。

帰ってねーの!?寝てないの!?食いながら寝てたくらいんだから、大人しく寝ろよ!?


「なんか、俺コンビニのトイレで寝てたんだけどー。なんでー?」


とか、言いながら戻ってきた。

手にはコンビニの袋が・・・中身は間違いなく食料である。

頼むからもう事務所で食わないでくれ。

それより、そのカレーうどん染み込んだ状態の格好でコンビニまでいったわけ?

股とか茶色いけど大丈夫?

あそこの支配人・・・股を茶色いので濡らしてたけど、大丈夫?とか言われない?

そんな私をよそに支配人はマイペースに袋から食料を取り出す。


「チャーハン買ってきたんだー。」


と、言いながら事務所に入ってきた所で、未だにカレーうどんと戦ってるタツヤ君を見て少し思い出したらしい。


「・・・あ、そっか。俺、車でチャーハン食べるね。明日5時に起こしてね」


とだけ、言って去っていった。多少罪悪感はあったらしい。

だが、すでに時刻は深夜の3時すぎである。

5時に起こしたところで起きれるわけがないだろう。


「絶対チャーハンこぼす。絶対に」


そう呟いた私に、タツヤ君も苦笑い。


「事務所じゃないなら掃除はしませんけどね」


「まったくだ」



5時にタツヤ君が起こしに行ったけど、やっぱり起きてこなくて


「チャーハンどうだった?チャーハン!」


そればっか気にしてる私。


「いや、よく見えなかったですけど・・・流石に食べきったんじゃないですかね」


「えー・・・絶対こぼしてると思ったのに」


予想が外れたのが悔しかった。

あの、感じならチャーハンも食いながら寝ると思ってたのに!!





8時半に起きてきた支配人の一言目


「なんか、俺の車チャーハンまみれなんだけど・・・」


と、絶望しながら言ったのを聞いて私のテンションは最大にまで上がった。

カレーうどん掃除のせいで、忙しい一日だったけどもすべてが吹き飛んだ気がした。



チャーハングッジョブ。