ガッシャーン

けたたましい音ともにテーブルが倒れた

びっくりして、音の方に目をやると、それはユリエの席だった



「もっと、飲むのー!!!」



ユリエが叫んでる


ついに酔ったのか・・・それとも客へのおねだりなのか・・・

今まで、テーブルをひっくり返してするおねだりなど見たことはなかったが


どうやら、酔ったようだ


ボーイや客がなだめるのも聞かずに騒ぐユリエ


思わずアヤと目を合わせる



「これが・・・酔ったユリエ?」


信じられない光景だった

なだめられながら、騒ぎ続け、そしてまだお酒を口に入れることをやめないユリエ


初めて会った時の親しみやすそうなユリエ

ケンカした時のプライドの高そうなユリエ

客席でのキャバ嬢らしいユリエ


どれも微塵も残ってはいなかった


唖然とする客、ボーイ、そして女の子達


店長がすかさずユリエを裏に連れて行こうとする

それに抵抗するユリエ

そして、私と目があった


「いやよ。まだ飲む。あの女には負けたくないんだから!」


私を指差して叫ぶ


周囲の視線が私とユリエに集まるのがわかった


店長が目で裏に行けと指示をしている



「たけぴーごめんね。ちょっと席はずすね。アヤ、ちょっとよろしく。」


そう言って私は席を立ち裏に向かう



「逃げんじゃないわよ!」



そう言ってユリエが後を追ってくる

このために、私に裏に行けと言ったのか・・・


更衣室に入り、後からユリエと店長も入ってくる


「ユリエ、とりあえず水飲んで落ち着け。」


店長が水を差し出すが、ユリエはそれを飲もうとはしない


「なんで、私がこの女に負けなきゃいけないのよ。離してよ。戻ってお酒飲むんだから。」


ユリエは更に暴れる


「こんな状態で戻せるわけないだろう。そんなんで接客できると思ってるのか。」


店長が少し叱る様な口調で言う



「なによ。誰も私の気持ちなんてわかんないでしょ。ほっといてよ。」


更に、暴れるユリエ


「私の事嫌いなんでしょ。ほっといてよ。離してよ。」


叫びが泣き声になって行くのがわかった。

しかし、私はただ見ていることしかできなかった。


「なによ、バカにしたような目で見て。勝ったと思って見下してるんでしょ。」


泣き叫びながら噛み付いてくる


もう、憎いとか、嫌いとか、そんな感情はなかった。

ただ、見ていて哀れになってきた。


「そんな目で私を見ないでよ。」


「こんなに必死に働いてるのに何がいけないのよ。」


「指名とれなきゃ怒るくせに、売り上げなければ脅すくせに、なんで結果出しても認めてくれないのよ。」


「もう、こんなの嫌だよ。」


「結果出してるのに、全然褒めてくれないじゃない。全然愛してくれないじゃない。」


「見ないでよ。見ないでよぉ。」


泣き崩れるユリエ

心の中の不満を全部ぶちまけて泣き続けるユリエ


ただ、立ち尽くすしかできない私と店長


「もう、嫌だ。もう、こんなの耐えれない。」


そう言って更衣室を飛び出すユリエ



慌てて後を追う私





『酔っ払って非常階段から飛び降りようとしたらしいよ』




ふいに、女の子が言ってた言葉を思い出す



まさか・・・




ユリエは非常階段へ向かって走ってく。


「止めて!」


非常階段のそばにいたボーイに叫ぶが

ボーイは何が起きてるのか理解できず動かない


「いいからユリエを止めて!」


そんな事言ってるうちにユリエは非常階段へ

酔ってるので壁にぶつかりながら手すりへと近づいて行く



走りよってユリエの体を掴むが、ユリエは飛び降りようともがく


「待って!ユリエ!」


ボーイも一緒になってユリエの体を抑える


「生きてたって仕方ない。こんなに汚くなって、世間からも蔑まれて、人を騙して、毎日苦しい。いっそ死んだ方が楽!」


「汚い仕事だって、お金稼いで生きてくのに必死なのに。なんで蔑まれなきゃいけないの。なんで、愛してくれないの!」


ユリエは叫び続ける

私には、ユリエの叫びの意味がこの時は理解できなかった

ただ、その悲痛な叫びが、悲しすぎて・・・

いつの間にか私まで一緒に泣いていた



「なんで、あんたが泣くのよ。あんたに私の気持ちなんかわかんないでしょ。」


私が泣いてることに気がついたユリエがつっかかってくる。


「わかんないよ!だってユリエはわかってもらおうと話さなかったじゃん。ユリエは私に何も相談しなかったじゃん。だから、ユリエが何に泣いてるのかなんてわかんないよ。でも、すごく傷ついて悲しんでるってのはわかったから。だから・・・。」



だから、なんだと言うのだろう・・・

だから、一緒に泣いてるとでも言うのだろうか・・・



「私は1位とらなきゃいけないの。もう、失敗なんてできないの。もう、誰にも負けるわけにはいかないの。私の存在が否定されちゃうんだから!必要としてもらえなくなっちゃうんだから。」



ユリエの言葉が胸に刺さる

一瞬、そー君に対してお金を使い始めた頃の自分が重なって見えた


「ユリエ・・・。」


言葉なんてでなかった

なんて、言葉をかければいいのかわからなかった

それに私が何かを言ったとしても、ユリエにはきっと届かない

そんな気がした






『酔っ払って仕方なくなったら彼氏に電話してくれる?酔った私を扱えるのって彼氏くらいだからさ』





「ちょっとユリエ更衣室まで運んで。」


私は突っ立ってたボーイと店長に言った


そいて、ユリエのバックから携帯を取り出し

彼氏らしき番号を探す


もう、営業は終了間近だ

迎えに来てもらっても問題ないだろう




そう思い私はユリエの彼氏に電話をかけた