親が送ってくれたカップラーメンもそろそろ底をついてきたので、今日はそのカップラーメンの話をしよう。
アメリカで暮らしていると、日本のカップラーメンの質の高さに気づかされる。スープはもちろんのこと、麺のクオリティーを追求し、即席のチャーシューまで入っている。おそらく世界中のどこを探しても、ここまでこだわりのある即席麺は存在しないだろう。ラーメンに対する日本人の探究心は、ハンパではないのだ。
そんな即席麺大国ニッポンに生まれてしまった僕には、アメリカの工夫もヘチマもないカップラーメンが衝撃的だった。麺はちりちりでふやふやだし、スープはうまみも何もない。それに、なぜか芯の固いグリーンピースが浮かんでいる。一体なんなんだ、これは。挙げ句の果てに「シイタケ味」という微妙な味が、一般的なフレーバーとして存在しているのだ。
日本のブランドでないならまだわかる。しかし、なぜNISSINカップヌードルまで味が違うのだろうか。これは不思議でならない。ネットで「アメリカ カップヌードル まずい」と検索してみると、238,000件もヒットした。自分以外にも多くのアメリカ在住の日本人が、「アメリカで売っている日清カップヌードルはなぜ不味いの?」という疑問を持っているらしい。そこで、このNISSINカップヌードルに絞って検証してみよう。
アメリカのカップヌードルには、日本と同様にいくつかのフレーバーがある。代表的なものが、「Beef」「Chicken」「Shrimp」の3つだ。
見ての通り、日本とは違って箱に入っているのが特徴だ。これに対して日本の代表的な味は、オリジナル、シーフード、カレーと言ったところだろうか。これらのフレーバーを比較すると、ひとつ大きな違いがあることに気づく。アメリカのフレーバーが一つの素材(牛、鶏、エビ)なのに対して、日本のは複数の素材が混ざった味なのだ。例えばオリジナルなら、鶏肉、豚肉、エビ。シーフードは鶏肉、豚肉、かに。カレーは鶏肉と豚肉だ。
日本のカップヌードル
この画像を見てもわかるが、エビと豚肉、鶏肉が使用されている。
一方、アメリカのカップヌードルは、単一の肉類が使用されている場合が多い。Beef味なら牛以外は使用されていないし、Chicken味は鶏肉しか使われていない。ただ、shrimp味だけは例外で、チキンパウダーとポークパウダーが使われているようだ。
僕は最初、宗教的な事情(豚肉を食べない人々)などを配慮した、多様性のあるアメリカならではの理由かと思っていた。しかし、このshrimp味の例外を見る限りそれは違いそうだ。では一体なぜ日本と同じような製法で作らないのか?
正確な答えはわからないが、意外とこれはシンプルな理由かもしれない。
ある日、同じ寮のアメリカ人の友達に日本のカップヌードル(シーフード味)を食べさせてみた。すると、少し味わったあと「複雑な味だね」と言って彼は箸を置いた。彼にはアメリカのカップヌードルの方が舌に合うようなのだ。日本のカップヌードルこそが世界で一番おいしいと思っていた僕にはショックだった。
つまり、どのカップヌードルがおいしいかは、その国の人の味覚次第ということなのだろう。確かに、アメリカの寿司は日本のとまったく違うし、アメリカのタコスもメキシコのと全然違った。どこの国の人にも、自分の口に合う味があるのだ。日本のイタリアンやフレンチ、中華料理が本場の味と違うみたいに。
個人的に、これはとてもおもしろいことだと思う。世界がグローバル化し、多様性が失われていると懸念される中で、実はグローバル商品の中にもローカル性が存在しているということなのだから。だから僕は口に合わないアメリカのカップラーメンを食べ、そのまずさを喜び、笑顔で「Interesting!」と言うのだ。