https://youtu.be/5PqCLnwiRuI 


大阪大学の荒瀬尚教授を中心とした微生物病研究所・蛋白質研究所・免疫学フロンティア研究センター・感染症総合研究拠点・医学系研究科等から成る研究グループは、COVID-19患者由来の抗体を解析することにより、新型コロナウイルスに感染すると感染を防御する中和抗体ばかりでなく、感染性を高める感染増強抗体が産生されていることを初めて発見した。

 

新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD、※1)に対する抗体は、ヒトの受容体であるACE2(※2)との結合を阻害することにより、新型コロナウイルスの感染を抑える中和抗体として重要な機能を担っている。一方、スパイクタンパク質の他の部位に対する抗体の機能は不明だった。

本研究成果により、新型コロナウイルスに感染すると中和抗体ばかりでなく、感染を増強する抗体が産生されることが判明した。さらに、感染増強抗体が産生されると、中和抗体の作用が減弱することが判明した。中和抗体はRBDを認識するのに対して、感染増強抗体はNTD(※3)の特定の部位を認識することが明らかとなった(左図)。また、感染増強抗体は重症患者で高い産生が認められたほか、非感染者でも感染増強抗体を少量持っている場合があることが判明した。

 

研究の詳細はこちらから(PDF)


https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20210521_3 


研究成果のポイント

  • 新型コロナウイルスに感染すると、感染を防ぐ中和抗体ばかりでなく、感染を増強させる抗体(感染増強抗体)が産生されることを発見した。
  • 感染増強抗体が新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の特定の部位に結合すると、抗体が直接スパイクタンパク質の構造変化を引き起こし、その結果、新型コロナウイルスの感染性が高くなることが判明した。
  • 感染増強抗体は中和抗体の感染を防ぐ作用を減弱させることが判明した。
  • 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症患者では、感染増強抗体の高い産生が認められた。また、非感染者においても感染増強抗体を少量持っている場合があることが判明した。
  • 感染増強抗体の産生を解析することで、重症化しやすい人を検査できる可能性がある。また、本研究成果は、感染増強抗体の産生を誘導しないワクチン開発に対しても重要である。

概要

大阪大学の荒瀬尚教授を中心とした微生物病研究所・蛋白質研究所・免疫学フロンティア研究センター・感染症総合教育研究拠点・医学系研究科等から成る研究グループは、COVID-19患者由来の抗体を解析することにより、新型コロナウイルスに感染すると感染を防御する中和抗体ばかりでなく、感染性を高める感染増強抗体が産生されていることを初めて発見した。

本研究の背景

新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)に対する抗体は、ヒトの受容体であるACE2との結合を阻害することにより、新型コロナウイルスの感染を抑える中和抗体として重要な機能を担っている。一方、スパイクタンパク質の他の部位に対する抗体の機能は不明だった。

本研究の成果

新型コロナウイルスに感染すると中和抗体ばかりでなく、感染を増強する抗体が産生されることが判明した。さらに、感染増強抗体が産生されると、中和抗体の作用が減弱することが判明した。中和抗体はRBDを認識するのに対して、感染増強抗体はNTDの特定の部位を認識することが明らかとなった(上図)。また、感染増強抗体は重症患者で高い産生が認められたほか、非感染者でも感染増強抗体を少量持っている場合があることが判明した。

本研究の意義

感染増強抗体の産生が重症化に関与している可能性があるが、実際に体内で感染増悪に関与しているかはまだ不明であり、今後の解析が必要である。中和抗体ばかりでなく感染増強抗体を解析することが重要である。また、中和抗体が十分効かない変異株に対しては、感染増強抗体が優位に作用する可能性があるため、将来的には感染増強抗体の産生を誘導しないワクチン開発が必要になる可能性がある。

掲載誌

本研究成果は2021年5月24日(月)以降に米国科学雑誌Cell誌に掲載されました。