大禅師文子と一行が乗ったタクシーは、ニューヨーク市内のマンハッタンを走っていた。
タクシー車内のラジオではマドンナの「Hung Up」が流れていた。
すると眠っていたはずの大禅師文子がリズムに乗って揺れ始めた。タクシードライバーも一緒になって揺れていた。
ニューヨークの街が初めてでソワソワして落ち着かないハセクラにタクシードライバーは、
「Hey Guy,Where do you want to go?!」
と言った。ハセクラは
「アポロ・シアターへ、レッツゴー!」
と答えた。
「OK,Hold on!!」
タクシードライバーはニヤリと笑い、アクセルを踏み込んだ。
蛇行運転のおかげでブーミンとハセクラとチーちゃんは酔ってぐったりしてしまった。
タクシードライバーのリッチーは新米だった。道に迷ったと言えずにいると、
「リッチー!次の角を右よ!ほらちゃんと前を見て!!」
大禅師文子は突然身を乗り出し、ナビゲートし始めた。
「そうよ!やれば出来るじゃない!リッチー、格好良かったわ!」
「Thank you so much!Ohh,Madonna…!!」
リッチーは泣いて喜んでいた。
大禅師文子と一行はチップを渡してリッチーと別れた。
しかし着いたのはアポロ・シアターではなく、ロックフェラー・センターだった。
「そうよ、ずっとここは私の憧れの場所だったの!」
「!?」
大禅師文子以外の皆には理解不能だった。
大禅師文子が飛行機の中で見た夢の一つが映画「オータム・イン・ニューヨーク」で、ロマンチックな気分になりきっていたのだ。
「ここでリチャード・ギア様が私を待っているの。」
と言って、アイススケートリンクの方へ行ってしまった。
スケートリンクの周りにはたくさんの人々が集まり、ファミリーが多い日だった。
「ここは大人たちが愛を確かめ合うロマンチックな場所のはずでしょ?何故こんなにも賑やかなの?ねぇどうして??」
その日は休日で、昼間は子供たちのアイスホッケーの試合が行われていた。
「仕方ないわ、こうなったら私が愛のキーパーをするしかないわね!行くわよ、みんな!」
「??」
大禅師文子はハイヒールを脱ぎ捨て、アイススケートリンクに乱入した。
レフェリーの男性がイエローカードを上げて何やら叫んでいたが、大禅師文子は気にせずゴールポストに立った。
キーパーをしていた男の子は不思議そうに見ていたが、大禅師文子のあまりの迫力に怯え、逃げてしまった。
「さぁ、私の胸に飛び込んで来なさい!あなたの愛を受け止めてあげるわ!!」
スタンドで応援していたファミリーはキーパーが変わった事に大喜びで、「Go,Go!!」と叫んでいた。
ブーミンとチーちゃんはいつの間にかスタンドで応援をしていた。
ハセクラはスケートリンクで滑って転び、尻餅をついていた。
やがて相手側のチームの太った男の子が大禅師文子の守るゴール目掛けて攻めてきた。
「!?!?」
その瞬間、何が起きたか皆わからなかった。
シュートを決めようとした男の子が気絶してしまったのだ。
「What happened?!」
選手やスタンドのファミリーが大勢、気絶した子供の周りに集まった。
レフェリーは大禅師文子にレッドカードを出し何やら叫んでいた。
大禅師文子はヘルメットの代わりに、マンハッタンの通りで配っていたハロウィーンのお化けのマスクを付けていたのだ。
「ゴメンね、ボーイ…おどかすつもりはなかったの。でもね、あなたの愛があまりにも大きくて、このままでは私が押しつぶされてしまうんじゃないかと思うと怖かったの。」
そしてシーンはさらに続いた。
「ソチオリンピックの金メダルはあなた達のものよ。本当はJAPANのものだけど、しかたないわ。これが愛の代償というものね…。」
お化けのマスクをかぶった大禅師文子は氷上ヒロインになってスケーティングを始めた。
「イナバウアー!」と言った途端に後ろに倒れて横たわり、そのまま動かなくなってしまった。
「大禅師さん、しっかりしてください!!よいしょ!」
ハセクラがヨタヨタと滑ってきて、大禅師文子を必死に抱きかかえた。
「あぁ、ギア様…。」
どうやら、大禅師文子は夢の中でハッピーエンドを迎えたようだった。
来週に続く…