大禅師文子一行は那覇空港で羽田行きJAL0906便を待っていた。
この3日間の沖縄での体験は、大禅師文子を除いた一行メンバーには忘れたい事の連続だった。
大禅師文子はそんな彼らの疲れも知らず、
「ねぇ!お土産は何がいいと思う?やっばり黒砂糖かしら?それとも泡盛かしら?」
と空港のショップを探し回っている。
ブーミンは牧志公設市場で見た、豚の顔の燻製が今でも脳裏に焼き付いて離れない。
マネージャーのユリとハセクラは疲れ果てて待合のシートで口を開けて爆睡している。コーディネーターのマユはJALの搭乗手続きカウンターで並んでいた。
そこで突然アナウンスが流れた。「本日、那覇発羽田行JAL0906便は、東京地方に接近した台風13号の影響により、機体が到着できない為に欠航となります」
「え~っ!」マネージャーのユリは驚いていたが、肝心の大禅師文子は
「仕方がないわ、あと一日沖縄で楽しめばいいじゃない」と平然としていた。
コーディネーターのマユは、JALのカウンターからANAのカウンター、スカイマークのカウンターを走り回っていた。
30分程経ってコーディネーターのマユが明るい顔で一行の所に戻って来た。
「やった!名古屋のセントリア空港行の便が取れたよ!あと1時間後に出発しま~す」一同は胸を撫で下ろして安心した。
また、出発が一日延びて沖縄で大禅師文子に振り回されるのが大変な事は全員感じていた。
出発時間まで時間があったので空港の喫茶店で、今回のPV撮影の映像素材を確認する事になった。
玉泉洞のガジュマルの下でポーズを とっている大禅師文子。
斎場御嶽(セーファウタキ)の岩にもたれかかっている大禅師文子。
神秘的でなかなかいい映像が撮れていた。
カメラマンの中村さんが突然「あれ~!この写真変だ!」と叫んだ。
久高島のアマミキヨの拝所で撮影した写真をパソコンで確認していた。
大禅師文子が覗き込んで「どうしたの?あまりに美しく撮れていて驚いているの?」と言った。「違うんだよ!大禅師文子さんと違う人が写っている!」マネージャーのユリやブーミンとハセクラも覗き込んだ。
「え~?誰?この人?」写真に写し出されている女性は、白のロングドレスを着て、アマミキヨの拝所で優しく微笑みかけている。
大禅師文子は叫んだ「なぜ!どうして私じゃないの!あんなにポーズ決めたのに!」
マネージャーのユリが大禅師文子を抑えて「大禅師文子さんより優しい顔しているね」と言った。大禅師文子は「そういう問題じゃないでしょ!私は何処に行ってしまったの!」と言った。
ハセクラがその写真を覗き込んで言った。「あれ、僕この人知ってますよ!」
一同は「え~誰?誰?」一斉にハセクラに詰め寄った。
ハセクラはたじろぎながら言った。「伊吹唯さんって人です!」
一同は顔を見合わせ「伊吹唯さんて誰?そして何でこの写真に写っているの?」
「…。」
空港のアナウンスが「名古屋セントリア空港行の便にご利用のお客様、最終のご案内です。
搭乗手続きをお済みの上、出発ロビーにお入り下さい」と流れていた。
来週に続く…