The Rising Sun and The Falling Sun. -青年世界で何想う-

The Rising Sun and The Falling Sun. -青年世界で何想う-

独立独歩。

37カ国を旅し、あの日、あの時、あの場所で感じた事などを徒然なるままにノンフィクションで。

Explore the world. Expand your horizon.

寒さと暑さと 飢えと渇えと 風と太陽の熱と それらのもの全てに打ち勝って ただ独り、サイの角の様に進め。


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アグノウ門。

12世紀に建てられてから、マラケシュに来る旅人を1,000年以上も出迎えている。
2010年の8月、それは紅く妖艶なたたずまいで、大きな紫色の口を開けて私達の訪れを待っていた。
夕陽に照らされ、より一層美しさを増したその姿が、私の網膜に深く焼き付いた。


私達の車は、そんなアグノウ門を横目にしたまま、暫く進んだところで停まった。
サハラを跨ぎ、カスバ街道を進み、アトラス山脈を越えた長旅がここで終わった。

ここまで私を運んでくれたAliと熱いハグを交わし、別れを惜しんだ。
砦さんとは、日本で必ず会おうと連絡先を交わし、また会う日を夢見た。


こうして私は2人に背を向け、マラケシュの旧市街へと吸い込まれていった。HOTEL AFRIQAを目指して。安宿を探していたら、Aliが教えてくれたところである。Aliが地図に示した点を頼りに、私は街の中へ深く食い込んで行った。

暫くすると、一人のモロッコ人の男が、日本語で「オオサカ、トモダチいる」と言いながら私に近づいて来た。明らかに怪しいので無視していたら、「バカヤロウ!」と悪態をつき、彼は去って行った。

マラケシュは、モロッコ国内でとりわけ旅行者が多い。
旅行者の多い所に行くと、世界中でこの様な場面に出くわす。旅行者がローカルの人に悪影響を与えているのか、それとも、旅行者を狙って悪い奴が集まるのか分からないが、前者だとしたらとても悲しい事である。私は急に、今朝までいたワルザザートの村の人々の無垢な微笑みが恋しくなった。


そんな事を感じているうちに、HOTEL AFRIQAに辿り着いた。




とても雰囲気の良いところだった。
中庭にはオレンジの木が一本植わっており、それを囲むように客室が並んでいる。
こんなに良い場所に、一晩一室¥500。なんと幸せなことだろうか。
Aliに感謝しつつ、私はチェックインをした。
ドラクエやゼルダの伝説に出てきそうな大きな鍵を貰い、私は自分の部屋に向かった。
中庭では、一人の日本人男性が子供とサッカーをしていた。「こんにちは」と挨拶をしてくれた。私も挨拶を返した。そのまま、サッカーに交じりたい気もしたが、今回は止めておいた。
なんとなく、素晴らしい長旅の余韻に浸り、自分の世界でゆっくりとしていたい気分だったのだ。


独り旅をしていると、「寂しくないか?」と聞かれることがある。
それは寂しい時もある。辺鄙な田舎町で、宿の部屋に夜独りっきりでいる時などがそうである。
しかし、そんなのは全体の2%程度である。残りの98%は、感動と興奮に包まれた「黄金の時間」である。

独り旅では、独り身なので誰に気を使うでもなく、「好きなところで」「好きな時に」「好きなことを」「好きなだけ」出来る。

この完全なる自由。こんなゴージャスなことがあろうか。

17歳の時、初めてこの感覚を知って、それ以来私はずっと狂った様に旅を続けている。
自分の赴くがまま、脊髄反射で生きられる時間。この贅沢さは何事にも代え難い。

もちろん、独りでなくて、気の置けない友人と旅をするのも格別である。
ただ、それはどんなに良くても、独り旅とは全く味も種類も違うものなのだ。
例えるなら、スイカとメロンの違いや、カブトムシとクワガタの違いに似ている。どちらを選ぶかは至難の業ではある。


部屋につき、私は荷物を卸し、おもむろに屋上に駆け上がった。


空が夕陽で真っ赤に染まっていた。
そして、アザーンの叫び声が、その空をナイフの様に切り裂いた。
切り裂かれた割れ目から、夜がこぼれ落ちてくる。そんなイメージだった。





私はお腹も空いたので、外へ出て、アザーンの声がする方向へと進んで行った。

すると、一つの大きな広場に導かれた。

ジャマ:エル:フナ広場。

ところ狭しと屋台が並び、大道芸人が溢れている賑やかな広場だった。




屋台では、これまでに見た事のない食べ物が沢山置かれていた。
その中でもとりわけ私の目を掴んだのは、ヤギの脳味噌のサンドイッチと、もはやどの部位か想像もできない肉の煮込みを提供している屋台だった。
私の好奇心は、理性を打ち負かし、私の身体はこれらの料理を食べる事になった。
まるで豚に変わる前の「千と千尋の神隠し」のお父さんになって、禁断の飯を貪っている気分だった。両方とも不味くは無かったのだが、いまいち後味が宜しくなかった。

そこで口直しにと、私は近くの屋台でスープを頼んだ。
貝のスープと思っていたのだが、いざ食べようとすると、それはカタツムリのスープであることに気がついた。こんなに大量のカタツムリを一度に見たのは生まれて初めてだっただろう。

結局スープは口直しにならず、私は無難にミントティーで口を洗い、宿へと戻った。


そして、そのままベッドに横たわって、天井を見上げた。
何の変哲もない天井である。
私は電気を消した。


「今日もなんて幸せな一日だったんだろう」と、旅をしていると毎晩感じるこの思いを噛みしめながら、私の意識は夢の中へ消えていった。