大学生のカオルにはとても仲の良いヒロミという友人がいた。


気は合うし、意見も合う。

互いに自分に無いものを相手の中に見つけ、それを認め尊重し合う。


多くの場所へ出掛け、また長い時間語りもした。

2人が歩んだ道は友と言う名の思い出となり、且つ強固な支えにもなっていた。
 



ところが、小さな穴から堤防は崩れ出す。



ちょっとした誤解が新たな誤解を生み、固く糾われた縄のようだった関係は緩みを見せ始め修復出来ない程にほどけてしまう。



仲が良ければ良いほど、敵対すると憎しみは増す。

程なく、ヒロミの嫌がらせが始まった。



彼方此方でカオルの悪口を言いふらし、無言電話も掛けてくるようになった。
共通の友人からヒロミが相当な恨みを感じていることも伝え聞く。




その日はゼミの教授への課題提出期限が今日までであったことを思い出し、休み時間返上でレポートを書き上げ、バイト先では新人のミスの尻拭いをさせられるなど体力的にも精神的にもエナジーメーターの残量はゼロに近かった。



駅から自宅迄の距離がやけに遠く感じ始めた頃、カオルのアパートが姿を現す。



入居した当時は綺麗な物件だと感じていたが、今では周りに新しい建物が出来たせいだろう、少しくたびれたように見える。



しかしそんなアパートをカオルは気に入っていた。
晴れた日には自室の窓から遠くに富士山を望むことが出来るからだ。



2階の突き当りにカオルの部屋がある。


重い身体を動かし、「カツカツ」と鈍い音を響かせながら外階段を上っていくと自室のドアがゆっくりと見えてくる。

だが、その日は少し様子が違った。


扉に紙が貼られているのだ。



(なんだろう?)


訝るように近づくカオルの目に貼り紙の文字がゆっくりと輪郭を現す。


そこには、ヒロミの癖のある字体でこう書かれていた。




「祝ってやる・・・」

 
"口" と"ネ" では全然違うのであった。


後日談

「祝ってやるって何?誕生日まだ先だけど」

学食でひとり定食を食べているヒロミに近付き、そう声をかける。

漢字の間違いを指摘されたヒロミはカオルの顔を暫し睨んでいたが湧き上がる感情を堪え切れず吹き出してしまった。
それを見たカオルもつられ、互いに笑い合う。

そして互いの誤解も解け、2人は元の友達に戻りましたとさ。
メデタシメデタシ。

というもの凄くGoin' なオチ。
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