どこの空港だっただろう、確かオランダはアムステルダムのスキポール空港だったと思うのだが、トイレに入り、いざ用を足そうとしたところ。

届かない。コレが。

いや、正確に言うと見た瞬間届く気がしなかったのである。
実際届かない。

何が届かないかと言うと、想像の通りである。

男性用トイレの小用は「アサガオ」などという名前で呼ばれることがあり、アントニオ猪木もかくやと思しき受け口を壁を背にこちらへ向けているのだが、その空港トイレの「アサガオ」はもの凄く高い位置にあり、少なくとも「ワタクシ用」ではないとすぐに分かってしまったのである。

確か世界で平均身長の最も高い地域はオランダをはじめ、ヨーロッパ北部の国々だったはずであり、その値は180cmを超え、それに伴い足も長い。

当然ながら色々なパーツも高い位置にある。

えっ?・・・と。
どうしたらいいのかな、コレは。

一応見栄の所為か、前まで進み寄り、トライしようとするがやはり届かない。
思い切り背伸びをしてみるが、やっとこさ受け口の上に届くか届かないかぐらいなのである。

そもそもバレリーナもかくやと言わんばかりに爪先立ちをしながら用を足している謎の東洋人は失笑ものだろう。

また、フラフラと安定せず、粗相をしてしまうのは目に見えている。
受け口部にくっつけて寄り掛かれば何とかなりそうだが、それも気が進まない。

しかしそれでも用足しをせいという脳からの指令は出続け、我慢メーターはそろそろ赤く輝き限界は近づきつつある。
個室を使おうとしても、全て扉が閉まっており、何者かがフン闘中であるようだ。

さて、どうしたものかと周りを見渡すと、奥にもうひとつスペースのあることに気付き、そこへ入ってみた。

するとかなり低いところにアサガオが2つ並んでいる。
子供用だとすぐに気付く。

それはそうだろう、如何な高身長の国でも、子供の頃から180cmもあるわけがない。

少し躊躇ったが、構うものかこちとら切羽詰まっているのだ。



なんとか事なきを得た私は、少し前に爪先立ってヨチヨチしながら"お試し用足し"をし、諦めたのち、いい歳をして子供用のトイレで用を済ませたことなど微塵も感じさせない表情と雄々しい態度で、紳士らしくゆったりと歩きながら搭乗ゲートへ向かったのである。