インドにて。
二晩連続の夜行でデリーに戻って来た日。
ニューデリー駅から定宿にしているゲストハウスへ向かう。
その宿は若いスタッフが多いせいか、とてもフレンドリーな対応が気持ち良く、(年配の人が無愛想という訳ではない。単にコトバノアヤである)何より安い宿なので、いつもそこのドミトリー(相部屋)のベッドを寝床にしていたのだ。
世界各地から旅人が集まってくる宿は他地域の情報を得たり、また色々な国の話を聞くことも出来るので有益であり、いやたとえ無益であったとしても楽しいのである。
特に同室になった者同士は一緒に食事をしたり、次の町まで同行したりと接している時間が長く、すぐに親しくなれるのでよほどのことがない限りはドミトリーに泊まっていた。
ところがその日は珍しくベッドの空きがないと言う。
よほどのことである。
グッタリと疲れていたし他を探す気力も無く、たまにはいいかとシングルの部屋を取った。
その宿には従業員として働いているのか、単に遊びに来ているのか判別がつかない感じの少年(恐らく10代であろう)がいつもビーサンを履いてペタペタ音を立てながらウロウロしていて、なんかフリーな感じの宿だなと思っていた。
(しかし考えてみればビーサンは殆どの人が履いていたのだった。当然私も。)
ドアを開けてベッドに寝転がっていると、部屋を覗き込んだのだろう、そのビーサンペタペタ少年が聞いてきた。
「ヘイ、ジャパニ。ユー ウォント ガール?」
「え?ああ要らないよ。何だよシングルになると途端に聞いてくるんだな。」
「ノウ?ホワ〜イ?ビユーティホーガール‼」
「いや、だからイイって。」
「オー!ベリーヤスイねー!」
「うるせいなー要らないよ!」
「ホ・ワ〜イ? ユー ヘイト ガール?」
「あーそうだよ。キライキライ!」
そう答えると、其奴の目が妖しく、且つ鈍く光るのを私は見逃さなかった。
そして彼はこう言ったのだ。
「ウェル・・ハウ アバウト・・ミー・・?(なら、、僕はどう?)」
嗚呼、満天の星煌めくデリーの夜は更けて・・・