「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」


映画・ドラマでよく聞く台詞である。
特に飛行機の中のシーンで急に身体の不調を訴えた乗客がいる場合、しかも限られた空間、周りの状況が変わるまではまだ何時間もあるという時に医師が同乗しているのは心強いことだろう。

「樹木のドクターですが」
これはまぁ、ご遠慮いただくだろう。
お土産に買った観葉植物が急に青枯病になってしまうことなどそうはない。

名乗り出る者がいない場合、次には看護師などが手を挙げるだろう。
それもいない場合、その時は私が行こうと決めている。
小学校の時に保健委員だったこともあるのだ、全くの素人ではないだろう。

但し産気づいた妊婦さんの対応を除いてだ。
その時に出来ることは手を握って「フッフッヒー」とか呼吸を一緒にしてあげることぐらいしか元保健委員にはない。
ヘタすると緊張して「イッヒッヒー」と言ってしまうかも知れないし。
まぁ、他の場合でもすることは似たり寄ったりだが。

他に「◯◯様はいらっしゃいませんか?」はどんな人がいるだろうか。

「お客様の中に盗っ人猛々しい方はいらっしゃいませんか?」

手を挙げるのも複雑だろう。

「お客様の中に逆立ちして自転車に乗りながら歯磨き出来る方はいらっしゃいませんか?」

「あ、それ俺出来ます!」と名乗り出る者がいたとしたら一緒について行って事の顛末を確認したい。
この飛行機で、一体何が起きているのだろう?と思う。

「お客様の中にアメリカ合州国大統領はいらっしゃいませんか?」
いらっしゃいません。

「お客様の中にお客様はいらっしゃいませんか?」

一斉に手が挙がるだろう。
「いや、客ではない。ただの会社員だ。私は未だかつて客であったことなど一度もないっ!」
などと言うめんどくさいお客様がいたらそれはそれで私としては面白い。
というか何このアナウンス。

「お客様の中に飛行機を操縦出来る方はいらっしゃいませんか?」

こんなアナウンスだけは絶対に嫌だ。