第13場 アルマンの帰国
 
アルマン「帰国したらジャンヌは行方知れずだ」
マックス「やっと起きられるようになったと思ったらジャンヌはいなくなっていた」
アルマン「父上の仕業なのか」
マックス「こんなに探しているのにどうしてみつからないんだ」
アルマン「父上も簡単に見つかるようなことはないようにしたに違いない」
マックス「アルマン…こんなことは言いたくないけれど、君のお父上はジャンヌとの結婚は決して認めないだろう。」
アルマン「僕はこの家は継がなくてもいいんだ。水くみ女の息子に戻るよ」
マックス「それでは今まで君のために心を砕いてきた伯爵夫人や君を生んだ実の母上の気持ちはどうなる。君を殺そうとするくらいだから、エバ母子は二人をないがしろにする決まっている。やつらに専横なたいどをとられてもいいのか、いくら恋が盲目でもそれは許されない」
アルマン「じゃあどうすればいい。ジャンヌを僕のかあさんみたいに愛人にしてその子供を同じような思いをさせろとでも言うのか」
マックス「アルマン、貴族には珍しいことじゃない。」
アルマン「わかってもらえないんだな」
マックス「わかっているさ、わかっているから言っている。悲しいけれど人には生まれついた現実があるんだ。貴族には貴族の平民には平民の…小作は小作の現実がある」
マックス、傷の痛みにうずくまる
アルマン「無理するなよ、探しに行くのは僕が続ける。まだうちの中にいたほうがいい」
 
第14場 ブリエンヌ邸
 
シャルル「新しいドレスの生地をお持ちしました」
伯爵夫人葡萄色のドレスであらわれる。マックスがピアノを弾き続けている
伯爵夫人「マックス、ピアノを続けて」
シャルル「奥様でしたか…その葡萄色の生地は奥様にとてもお似合いです」
伯爵夫人「本当気にいっているわ」
シャルル「珍しいものなので、私もよく覚えています」
伯爵夫人「そういえば、ずいぶん前のことになるけれど今ピアノを弾いているマックスにせがまれて別に外出用のポケットバスルドレスを作ってあげたのよ。お嫁さんにしたい娘にあげるってこの生地にひとみが映える菫色の瞳をしているんですって…いろいろあったのだけれど…」
シャルル「彼ですか」
伯爵夫人「最近まで大けがでふせってたのよ、うちの子のためにけがをしたの、とってもいい青年よ」
シャルル「僕は、奥様がお召のドレスと同じ生地のドレスを持っている女性を知っています」
マックス「本当ですか」
シャルル「仕事が終わったら君と話をしたい」
マックス「ぜひ」
カーテン閉まり
マックスだけ残る
 
第15場 カーテン前
 
シャルル「お待たせしたね、珍しい生地だったからね、仕事柄覚えていたんだ、とても身売りしなくちゃならない娘の持ち物に見えなかったんで」
マックス「身売り?ジャンヌはどこにいるんです」
シャルル「マルセイユのマダム・ガブリエルの店にいる。僕のなじみだ。お金に困ってもそのドレスを手放さなかったんだから、君を大切に思っているんだろう。」
マックス「ジャンヌ…」
シャルル「君はジャンヌが何をしていたのかわかっても大丈夫なのか」
マックス「そんなことは関係ない、すぐにでも会いたい。僕がけがで長いこと臥せっていたからこんなことになってしまったんだ。」
シャルル「ああいう店の女は傷ついている、慎重に行動してくれ。ジャンヌは会いたがらないかもしれない。僕は彼女に余計なことは言わないよ」
マックス「変な話ですが心にとめていてくださってありがとうございます、あなたのおかげでジャンヌの居所が分かった」
シャルル「せんだって彼女の産んだ男の子を僕が引き取ったんだが、風邪で死んでしまったんだ」
マックス「ジャンヌ、可哀相に…」
シャルル「そのことでも、とても傷ついている。あの娘は気のいい子だ。僕が苦しんでいた時とても優しかった」

第16場 マリーの部屋
 
マリーひどく青白い顔いろ
ジャンヌ「マリー、少しでも食べましょうよ」
マリー「いいえいらないわ(咳き込みながら)」
ジャンヌ「マリー」
マリー「子供のころ畑の葡萄をつまみ食いして怒られたっけ。甘くておいしかったなあ爪が紫になった」
ジャンヌ「マリー懐かしいわ」
マリー「(ひどくせきこんで)もう傍にいてくれなくていいのよ、うつるわ」
ジャンヌ「うつったっていいのよ、坊やは死んでしまったし、あたしも死んだっていいのよ。坊やが死んでしまったとき慰めてくれたのはあんただったじゃない。」
マリー「こういう商売の女は辛いものよね」
ジャンヌ「マリー頑張ってちょうだい」
マリー咳き込んで血を大量に吐く。
ジャンヌ「お医者様に見せてはくれないのかしら」
マリー「そんなの無理よ」
マリー『身を売る女は
許されない
教会でお葬式も出してもらえない
かなしいけれどしかたないわ』
黒服がマリーを運ぼうとする
ジャンヌ「なにをするの」
黒服「外に運ぶんだよ」
ジャンヌ「こんなに寒いのに」
マリー「もう助からないもの…(息絶える)」
ジャンヌ「マリー!マリー!」
マリー運ばれていく
ジャンヌ「神様はあんたのことも私のこともお救いにはならなかった。そんな教会のお葬式なんていらないわよね、だってこんなに苦しんでも救いがないんですもの。代わりに、あたしがあんたのために祈ってあげるわ」
 
第17場マダム・ガブリエルの店
 
マダム・ガブリエル「ジャンヌ!ジャンヌ!」
ジャンヌ「おかみさん、もう今日は泊の客にして私ここんところ調子が悪いのよ。もう疲れちゃって…」
マダム・ガブリエル「その泊りの客だよ、その上お前の上に神様は微笑まれた。借金を全部払ってくれたよ身なりのいい綺麗な男だってよ」
ジャンヌ「まさか…いやよ、おかみさん、あたし会いたくないわ」
マダム・ガブリエル「何言ってんだよ。バカじゃないのか、たいした上玉でもないお前に大枚はたいてくれる上客なんだよ、いやもくそもあるか、今夜の泊りは薄汚れたお前の部屋じゃない、パリの星付きのホテルだよ、ほら、あんたたち、この女の荷物と一緒にジャンヌをパリまで連れて行きな!」
黒服がジャンヌの荷物と共にジャンヌを両脇を捕まえて外に出る
 
第18場 ホテルの一室
 
黒服「お客様、ジャンヌをお連れしました。ほら、中に入るんだ」
ジャンヌ「いやよ、会いたくないわ」
黒服「おいてあらに扱うな、大金もらってるんだぞ」
マックス「ジャンヌ」
黒服「では、失礼いたします」
ジャンヌ「マックス・・・あなただったの」
マックス「(愛しそうな優しいほほえみを浮かべて)会いたかったよ、僕が大けがをしたときにアルマンの父上が見舞金をくれたんだ。そのお金で君の身請けをしたのさ」
ジャンヌ「そんな…」
マックス「いいんだ、僕がけがをしたために君にお金を送ることができずに君はこんな目に遭った。だからいいんだよ。アルマンが君を探している。アルマンの父上は許してはくれないだろうが、愛し合っているならアルマンと一緒にいるんだ。」
ジャンヌ「いやよ、私が何をしていたかあなた、わかっているじゃないの、アルマンに会うなんて」
マックス「アルマンは心から君を愛している。立場があるから望み通りとはいかなくても、愛し合っているなら一緒にいるべきだ」
ジャンヌ「いやよ、」
ジャンヌホテルを飛び出していく。追うマックス
 
第19場 ホテルの近くの往来セーヌのほとり
 
ジャンヌをつかまえるマックス。
マックス「どうして逃げるんだ」
ジャンヌ「アルマンに会いたくないわ」
マックス『忘れるんだ悪夢は』
ジャンヌ『無理よ忘れられない』
マックス『君を見つけられずすまなかった』
ジャンヌ『いいのよ、あんなところにいても
そうよ、悪夢の中 生きながら死んでいるようなものよ
見つけてもらうのが早かろうと遅かろうと
そんなに違いはないわ』
マックス「アルマンは何も知らない。僕もアルマンにはしゃべらない。君も悪い夢を見たと思って忘れるんだ。アルマンは今も変わらず君を愛している。アルマンは誠実な男だ。アルマンの愛を信じるんだ」
ジャンヌ「あの人だけには会いたくない、会いたくないわ」
マックス「ジャンヌ…だったら僕とブルゴーニュに帰るかい?あの頃みたいに葡萄畑を世話しながら暮らそう」
ジャンヌ「そんな…あなたに申し訳ないわ」
マックス『君を愛している
子供の頃からずっとずっと愛している
アルマンと一緒にいるのがつらいなら
僕と葡萄畑に帰ろう
君の心が癒されるまで
例え一生かかったとしても
君を支えるよ』
ジャンヌ「マックス…」
マックス「愛しているよ(ジャンヌを抱きしめる)」
ジャンヌ『マックス、あなたの気持ちは嬉しいわ
甘えてしまいたい
でも私あなたを愛していないわ
あなたの腕の中に飛び込むことはできない』
アルマンが立っている
アルマン「ジャンヌ会いたかったよ、どんなに探したか」
ジャンヌ「アルマン」
マックス「アルマン、ジャンヌの居所がやっとわかって迎えに行ったところなんだ。ジャンヌは生活のために辛い水くみをしていたんだ」
アルマン「僕の母も水くみ女だったよ」
マックス「僕は行くよ、アルマン、ジャンヌのことは頼んだよ。」
マックス去っていく。アルマン、ジャンヌの手を取る
アルマン「おめでたい男だ」
ジャンヌ「マックスのことそんな言い方しないで」
アルマン「君の手には肉刺がない。小さなころ僕の頭をなでていた母さんの手には肉刺があった。水を汲んでいる手ではない。君と初めて会ったとき、君は田舎娘が持っていないような綺麗なドレスをきていた。君の瞳の色に映えてとても綺麗だった。それはマックスの贈り物だったんだよな」
ジャンヌ「私はそんなこと知らなくて領主様の視察に一番いい服を着ようとしたのよ」
アルマン「君にとても似合ていた。マックスは遊びを知らない。女の服のこともよく知らないんだろう。給金は田舎に皆送っっていた。今の君のドレスや帽子髪型、素人娘じゃないということが僕には一目でわかる。皮肉なものだ、君のドレスがいつも僕に何かを語ってくれる。しかもマックスの深い愛のなせる業だ」
ジャンヌ「アルマン」
アルマン「君がつらい目に遭ったのは全部僕のせいだ。父はこうすれば僕が諦めると思ったんだろう」
ジャンヌ「アルマン」
アルマン「僕は変わらずに君を愛している。君がどんな目に遭ったとしても何をしていたとしても君が愛しい」
アルマン、ジャンヌを抱きしめる
ジャンヌ「アルマン、あたしは違うわ…ここ何年かの絶望があなたへの思いを変えさせたわ。愛は絶望が続くと擦り切れるものなのよ、同じとはいかないの」
アルマン「ジャンヌ」
ジャンヌ「私もあなたを愛している。でも出会ったころとは違うのよ。神様は私を助けてはくれなかった。助けてくれたのはマックスよ。神様は助けてくれなかった!助けてくれなかった!だからあたしはお葬式なんか出せなくてもかまわないわ」
ジャンヌ、セーヌに身を投げる
アルマン「父上、僕も葬式を出せなくてもかまわない」
アルマン後を追う
 
第20場 墓地
 
自殺者専用の墓地。マックスが埋葬を済ませて墓堀人に賃金を払っている
マックス、アルマンの母を助け起こす。
テレーズ「どうだいアルマン、お前の育ったブルゴーニュの土の中だよ。こんなことになるためにお前ををパリにやったんじゃない…」
マックス「アルマンはいいやつでした。僕は本当に親友だと思っていました」
アルマンの母、マックスに縋り付いて泣く
ブリエンヌ伯爵がやってくる
ブリエンヌ「マックス…」
マックス「伯爵」
ブリエンヌ「葬式も出せないとは」
マックス「元気を出してください。アルマンはあなたに愛されていたことをわかっていましたよ」
ブリエンヌ「(テレーズを抱いて)私は君を愛した。真実愛した。あれがまさか同じように小作娘に熱を上げるとは」
マックス「アルマンは心からジャンヌを愛していました」
ブリエンヌ「一時の若い頃の過ちだと思ったのだ」
マックス「一時ではなく運命だったのです」
夕暮れが迫る ブリエンヌ伯爵、テレーズを抱いて二人で泣く
マックス「ジャンヌ、アルマン、ここからは。二人が出会った美しいブルゴーニュの葡萄畑がみえるよ…」
夕暮れ。星が輝き始める。マックス深い悲しみの涙
『私は疲れた時
空を見上げ星を見つめる
この空が巡り終わるまでに
仕事を終えよう
美しき星たちよ
私の心を癒してくれる
やがて朝日はのぼり
朝露に濡れた葡萄が光るのを見る
日を浴びて育ってくれ
そして愛しい人に安らぎを』
マックス「夜に葡萄畑を耕していたころ、あの頃が一番幸せだったのかもしれない」
マックスが涙をぬぐう向こうにアルマンとジャンヌの姿が浮かぶ