9/5、名古屋“Roxx”で開催した「9.11メモリアル」のイベントでは当時の出来事をノンフィクションの短編小説として書き下ろし、それを朗読するという新しい試みでお届けしました。
その短編小説を今日から3日間、11日に向けて記させて頂きます。
是非、ご一読下さい。
『2001年9月11日』
その朝、ニューヨークの空は今まで見たこともない程の真っ青な青空だった。
昨夜のメジャーリーグ、ヤンキース対レッドソックスの試合も2時間のレインディレイの後に中止になる程の土砂降りが嘘のようだった。
僕達はその夜に観戦予定だったヤンキース対ホワイトソックスの試合を楽しみにしながら日中の過ごし方を考えていた。
僕達が滞在しているのはグリニッジビレッジ、ワシントンスクエアパークホテル。
かつてボブ・ディランも住んでいた事もあるホテルだ。
さて、今朝は南の方、ソーホーからロウワーマンハッタン辺りを散策しようという事になった。
そうと決まれば早速出掛けよう。
僕達はホテルを出て朝のグリニッジビレッジを南に向かって歩き出した。
まずは朝食だ。
僕達はビレッジのマクドナルドで朝食を取る事にした。
ここはニューヨーク、アメリカだ。
日本のような朝マックは無い。
僕達はハンバーガーを食べた。
食べ終わる頃、僕はふと、ある事に気づいた。
ニューヨークの多くのお店、百貨店を含めてそのほとんどが11時開店だという事を思い出したのだ。
その時の時間は8時半くらいだ。
今から行ってもお店はまだ何処も開いてない。
それなら今は1度ホテルに戻ってそのまま夜のスタジアムに向かえるように、ヤンキースのユニフォームに着替え、選手にサインをもらう為に用意したボールやヤンキースの選手のベースボールカードのファイル等のグッズを持って街を散策しようという事に予定を変更した。
僕達はマクドナルドを出てホテルに向かって6thAveを北に歩いた。
暫く歩いていると後ろで“パン!”という、ちょうど車のタイヤがパンクしたかと思わせる音が聞こえた。
僕達は振り返って周りを見渡したがパンクしたような車はいない。
次の瞬間、横にいたご婦人が前方を指差して叫んだ。
「Oh, my god !」
僕達が立っていた場所から真っ正面にはワールドトレードセンターのツインタワーが見える。
その1棟が高い所に口を開けて黒い煙を吐き出しているではないか。
一体何が起きたのか、僕達には全く理解出来なかった。
ただ、思ったのはビルで爆発が起きたという事、ビルが爆発して火災が発生している、という事だった。
周りでは人々が驚きや嘆き、声にならない声を上げている。
僕達はただ呆然とぽっかりと口を開けて煙を吐いているビルを見つめていた。
そうこうしている内に正面、方角的に南の方から一機の飛行機と思われる飛来物が飛んできた。
明らかにこちらに向かっている。
その飛来物がツインタワーのもう1棟の陰に隠れた瞬間、真っ青な空に真っ赤な炎が上がった。
激突した。
飛行機がビルに突っ込んだ。
ツインタワーのもう1棟からも黒い煙が青い空に立ちのぼる。
ビルに開いた口より上から口の高さくらいの間で何やらバラバラと落ちているのが見えた。
後から知ったのだが、それは人間だった。
何とかして逃げようと試みた人達だった。
当然、そんな高さから飛び降りても助かるわけはない。
無念だ。
僕達が、どうしようもなく人生最大のヤバい状況にいる事は歴然だった。
どうしたらいいのか?
とりあえずここから避難するべきだと考えた僕達はホテルに戻って時をやり過ごした。
テレビのニュースではいち早く“ビンラディン”によるテロ攻撃だと伝えていた。
そして、ツインタワーは2棟とも崩れ去った。
僕達のホテル、ワシントンスクエアパークホテルとワールドトレードセンターの距離はおよそ2.5キロから3キロといったところだ。
翌朝、外に出てみると路上駐車の車には煤と砂埃が積もっていた。
ツインタワーが崩れた時の衝撃を物語っている。
あの時、マクドナルドで思い付た事。
あれは神のお告げだと信じている。
あの時、あれを思い付かなかったら僕達はあのままロウワーマンハッタンに行っていた。
そして、きっと目の前にそびえ立つワールドトレードセンターの展望台に上っていたに違いない。
それをあの閃きが止めてくれた、正に神の声だと信じている。
あのままあの閃きが無かったら、間違い無く日本人犠牲者が2人、増えていた。
これが2001年9月11日の朝、僕達が体験した出来事である。
