1冊の本を読み終えた。
2010年に発刊された書物だが途中まで読んで諸事情でストップしていた。
それが再び読み始めたら一気に読破してしまった。
タイトルは「グリニッジ・ヴィレッジの青春」
著者はスージー・ロトロ、翻訳は菅野ヘッケル氏。

著者のスージーとはこの表紙の写真の右側に写っている女性だ。
真ん中の男は言わずと知れたボブ・ディランだ。
この写真に見覚えのある人も多いだろう。
ニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジのジョーンズ・ストリートで撮られたこの写真を使ったジャケットは
あまりにも有名だ。
ボブ・ディランの2枚目のアルバム「フリー・ホイーリン」、1曲目が「風に吹かれて」で始まるアルバムだ。

スージーは当時のディランの恋人だった女性だ。
この本はそんなスージーの自伝だ。
だからと言って決してディランとの蜜月を赤裸々に告白するといった暴露本ではない。
ディランと一緒に暮らした当時のグリニッジ・ヴィレッジの様子を恋人であったディランとの暮らしも交えな
がら、あくまで史実として描写している。
当然、彼女の自伝であるから全ては彼女の自らの心象描写と相互しながら進んでいく。
そんなスージーがビレッジに出てきてからビレッジを(アメリカを)捨てて去っていくまでの数年間の出来事
が書かれている。
タイトルの通り、ヴィレッジで過ごした青春時代の回想録だ。
当然、その間のほとんどにボブ・ディランが隣にいた。
時期はアメリカという国が揺れ動いていた頃。
ケネディ大統領暗殺にキューバ危機、米ソ冷戦からベトナム戦争突入。
そういった国が揺れ動く中、ニューヨークの片隅で密やかにそして華やかにまた厳かに繰り広げられた
青春ストーリー。
そしてそれは1組のカップルのストーリーのみならずアメリカの、ニューヨークの、ヴィレッジのカルチャー
として十分に成立している。
登場人物はディランだけではない。
当時のヴィレッジの名立たるシンガー達が彼女達の友達として登場する。
デイブ・ヴァン・ロンク、フィル・オクスにピーター・ヤーロウなどなど。
とりわけ彼女と仲が良かったのがシルヴィア・タイソンだったようだ。
余談だがこの女性、ご亭主のイアン・タイソンと「イアンとシルヴィア」というデュオで活躍していた。
ヒット曲の一つに「Someday soon」という曲がある。
後にジュディ・コリンズがカバーして更にヒットしたこの曲。
日本でもあるシンガーが日本語詞を付けてレコードにした。
そう、「いつかもうすぐ」、浜田省吾さんが「君が人生の時」に収めた曲のオリジナルだ。
スージー・ロトロは元々は音楽とは全く関係が無い人だ。
恋人がミュージシャンだったおかげでどっぷりとミュージック・シーンに浸かった。
なのでこの書のヴィレッジの描写も音楽の側面からが多いのだが当時のヴィレッジはそれだけではない。
ビートニク達も登場するし、彼女は演劇界での仕事をしていたのでアクターやアクトレスも登場する。
当時のグリニッジ・ヴィレッジにはありとあらゆる「カルチャー」が飛び跳ねぶつかり合い溶け合い、アーテ
ィスト達は自由に羽ばたいていた。
もちろん、現代においても全く消え失せたというわけではない。
俺はニューヨークに行くと滞在期間中のほとんど毎日、グリニッジ・ビレッジに行く。
ある意味、ニューヨークに行くというよりはビレッジに行く為に海を渡っているのかもしれない。
俺は本気で思っているのだが、ビレッジにはそこに関わった全てのアーティストの魂が漂っていると。
故人のみならず生きていて今は他の街で暮らしている人もその魂はヴィレッジにある。
もちろん、今もなおヴィレッジで暮らしているアーティストも。
その全ての魂がニューヨーク、グリニッジ・ビレッジにいる。
ミュージシャン、絵描き、作家、詩人、アクター、アクトレス、そしてその裏方、その取り巻き、その友達。
俺は毎回、毎日その魂達を感じに行く。
その魂達と対話しに行く。
そしてその洗礼を受け魂達を浴び、そのいくつもの魂達を自分の体に取り込む。
そうする事によって俺もヴィレッジの住人になる。
俺の魂もヴィレッジを漂う。
俺はこの書を読みながら60年代のヴィレッジにいた。
ヴィレッジの魂は時を越える。
ある時は俺はディランがミネソタからニューヨークに出てきた夜のヴィレッジにいる。
ある時はジャック・ケルアックが泥酔してホワイトホース・タヴァーンから蹴り出された夜の8thAv。
ある時はイギリスから来たあるミュージシャンと彼の日本人の妻が初めて迎えたニューヨークの夜に。
そして俺がニュージャージーでロック・ショーを見た後、初めてヴィレッジを訪れた夜に。
2つのタワーが崩れ落ち、灰にまみれた6番街にもいる。
今夜もヴィレッジの魂達が俺を呼んでいる。
すぐ行くから、待っててくれ。
ニューヨーク、グリニッジ・ヴィレッジ。
そこで俺は・・・、「俺」になる。
機会があれば是非、行ってほしい。
ここで書いた事が解ってもらえるから。
