まだ横浜に住んでいた小学生の一時期,
タイル集めに凝っていたことがある。
切手やシール集めなんかは皆経験あると思うが
タイル集めしていた人はなかなかいないのではないか。
きっかけはよく覚えていない。たぶん道端で拾ったのが
ことの始まりだったのだろう。
何しろ住んでいた地域は工場がたくさんあるところで
バネとかネジとかいろんなものが落ちていたから。
ところでこのタイル収集,別に学校で流行っていたわけではない。
僕と友達のSくんの二人で密かに楽しんでいた趣味だった。
いろんな色,大きさのタイルをを眺めて楽しむというそれはそれは暗い趣味だった。
ある日,そのSくんが言った。
「もっと大きくて綺麗なタイルのあるところ見つけたから取りに行こう!」
その場所は学校のすぐ近くにある廃材置き場だという。僕は二つ返事で快諾し,急いで家に帰ると,ランドセルを置いて
再び学校方面に向かって自転車を走らせた。
Sくんと落ち合い(Sくんの家は学校の近くだった),徒歩で
現場に向かう二人。胸がドキドキしていた。
坂道を駆け上がり,しばらくすると少しひらけた場所に出た。
と,そこには見たこともないようなタイルの山が・・・![]()
僕とSくんは喜び勇んでタイルを物色し始めた。
見ると今まで拾っていたものとは大きさが違う。
とにかくでかくて欠けた部分がないのもポイントが高かった。
模様も色も実に様々。すっかり夢中になって時間を忘れる。
初日の収穫は上々。満足してSくんと別れその日は帰った。
ちなみに集めたタイルは平べったい箱(せんべいがはいっていたやつ)
に無造作に突っ込んで机の下に忍ばせていた。
それを引っ張り出しては眺めて楽しむ自分・・・(ますます暗い
)。
当然親はいい顔をしなかった。
だってタイルと言えば,風呂場かトイレぐらいにしか使われない。
あとたまにキッチンに使われたりするが。
つまり綺麗なものではないということだ。
小学生(特に男子)なんて汚いことばっかりやっているが
この趣味は親としてもちょっと引いていたかもしれないと今は思う。
とにかくその場所を見つけたことで,僕とSくんのタイル収集は
加速度を増していくはずだった・・・・。
しかし,世の中そうトントン拍子にはいかないのだよと
教えられる日が,あまりにもあっという間にやってくる。
初めて宝の山に行ってから数日後。
再びその場所にやってきた二人はすでに慣れた手つきで
自分好みのタイルを探しにはいった。
とその時,
いきなり目の前の家の窓(2階)が
ガラッと開いて,
「なにやってんだおまえら
!!」
という声とともに,こわそーなお姉さんが現れたのだ!
僕は声を聞いたと同時になぜか逃げる体勢にはいった。
が,Sくんは体を硬直させたまま動かない。
そんなSくんの後姿を見たら僕も動けなくなってしまった。
ほんの数秒間のことだったと思う。時間が止まった・・・。
僕は頭の中が半パニック状態,状況がつかめない。
しかしSくんは違った。すぐに状況を飲み込んだ彼は驚いたことに
「どうもすみませんでした!!!」
と,こわいお姉さんに向かって深々と頭を下げたのだった。
そして自分たちはここがゴミ置き場と勘違いして
タイルも人のものだとは知らなかったということをきちんと
説明した上で再び謝ったのだ。
(そのときの頼もしい背中は今でも思い出せるくらい印象的だった)
しっかりしたSくんの言い分を聞いたお姉さんは
もう怖い顔ではなくなっていた。
「ちょっと待ってな」
やれやれという表情でそのお姉さんは窓を閉める。
言われた僕たちはじっと動かずその場で待った。
ちょっとして玄関からお姉さんが登場。再び緊張する二人。
当然お説教されるものと覚悟していたのだが
現実は意外な展開となった。
「これあげるよ。綺麗でしょ?こうゆうのは落ちてないよ~」
なんとお姉さん,女性の横顔の絵が入った,それは大きくて
綺麗なタイルを差し出してきたのだ。持って行けという。
僕たち二人は言われるままそのタイルを受け取り,
もう二度とこんなことはしないと約束して退散したのだった。
二人とも無言でその日はおとなしく帰った・・・・・・
以来,タイルへの情熱は急降下していき
引越しのときには集めたタイルも捨ててしまった。
本当に一時的な,自分で言うのもなんだが変わった趣味だった。
Sくんとは気が合って,よく遊んでいたが
たしかSくんの方が先にどこかへ引越してしまったと思う。
とにかくやさしくて,澄んだ瞳のまっすぐな子だった。
タイル集めとSくんはセットでいい思い出としてこれからも
僕の中で生き続けることだろう。
Sくんも覚えていてくれたらうれしいな。